惚れた理由
「そうなんだ・・・」
「分かったら帰れ。ったく・・・こんな手の込んだ事しやがって」
そう言って静音を追い出そうとしたが
「やだ!」
「気を付けて帰れ・・・ん?今なんて言った!?」
「帰らない!」
予想外の言葉に動きが止まる。
「帰らない? 何でだ?」
龍徳からすれば何をしに来たのかも理解できていない。
もっと言うのであれば、その他大勢の龍徳の追っかけが家まで入り込んだようなイメージなのだ。聞きたい事が聞けたんだから帰って欲しかっただけなのだが
「酷いよ!酷いよ龍徳君!」
「酷い?何が?」
「私が貴方の事を好きなのを知っているくせに・・・」
入学して間もなくの事、工藤静音は龍徳に一目惚れしたのだ。
普段は引っ込み思案な彼女が勇気をもって告白した結果、あっさりと龍徳に断られたのだった。
「知っているが、それとこれが何の関係がある?」
「私だって・・・私だって・・・」
『このパターン・・・嫌な予感しかしないな・・・。』
前回の人生でも何度も経験した遣り取り・・・。
異常なまでにモテた龍徳は、断っても、断っても告白する女性が後を絶たなかった。
では、何故6股までかけていたかと言うとボクシングを失ってから世の中を斜に構えていた龍徳は、愚かな程、馬鹿な考えをする女を放っておけなかったのだ。
「私だって!!!龍徳君に抱かれたい!!!」
自分の言葉に赤面しているが、その目が本気だと訴えている。
「あのなぁ・・・前にも言ったが俺はお前を愛せない。分かるか?こんな俺なんかに惚れないで、もっと良い男を探せ。必ずお前を幸せにしてくれる男がいるから・・・だが、それは俺じゃない。」
「相変わらずハッキリ言うよねぇ~・・・」
隣で同じ様な経験をしている望が静音に共感を持ったようだ。
「無理だったの・・・」
「何が?」
「私だって・・・こう見えても・・・モテるんだから・・・」
こう言えても?
クォーターだけあって顔は綺麗だしスタイルも良い。
性格も悪くないと来ればモテない訳がない。
「ああ・・・そう思うから他に男を見付けろって言ったんだが?」
「何度かお付き合いを考えたけど・・・無理・・・」
「何でだよ?」
この会話に望が
『うんうん・・・良く分かるわぁ~♪』
っと小声で何故か静音の肩をもっている。
「龍徳君よりカッコいい人がいなかったの・・・」
「いやいや・・・俺よりカッコいい奴なんて一杯いるだろう?」
「龍徳君より運動神経が良い人がいないの!」
「いやいや・・・それは・・・確かに見ないな・・・。」
否定しようとしたが、龍徳自身もその辺にゴロゴロいるとは言い切れず認めてしまう。
「龍徳君より頭が良い人がいないの!!」
「えっと・・・ウチの学校にはいないだろうが、他を探せば絶対にいるぞ!」
『うわ~・・・無理あるわぁ~』
っと小声で望が呟いている。
『煩い!』
「龍徳君より強い人もいなかった・・・。」
「俺より・・・年上を探せばいくらでもいるはずだ。」
『年上って・・・強引だなぁ~・・・』
『煩い!』
「龍徳君の様な優しい笑顔の人がいなかったの!!!」
『あぁ~アレは反則の笑顔だよねぇ~わかる~♪』
『甘えは黙ってろ!』
「あのなぁ~俺のどこが優しいんだよ? さっきお前も言っただろう? 俺は・・・酷い男なんだよ・・・」
『諦めろ・・・知り合いに辛い顔をさせたくない・・・大丈夫だよ・・・俺の事なんてすぐに忘れる』
「うそよ!! そんな事をどんなに良い繕っても貴方の優しさは隠せない!! どんなに冷たくしたって・・・貴方の心の優しさが見えてしまうの!!」
「チッ・・・それはお前の妄想が生んだ幻だよ・・・」
「違う!違う!違う!! なんで・・・なんでよ?・・・何で望ちゃんなの!・・・私だって・・・私だって龍徳君じゃなきゃ嫌なの!!!」
『貴方の優しさは誰よりも見てきた・・・何で嘘を言うのよ・・・』
諦めさせるつもりの言葉が裏目に出る。
「言っただろう・・・望とは身体だけの関係だ。分かり易く言えば、身体の関係がある友達ってだけの事だ。先も言ったが俺は彼女を作るつもりはない。」
『諦めない・・・私の全てが貴方を求めているのよ・・・この初恋だけは諦めたくないの!』
すると静音の目に決意の力が宿る。
「だったら・・・だったら私ともセックスしてよ!!」
「なっ・・・何でそうなる!?」
「私は龍徳君の友達じゃないの!?」
「友達だろう?」
「だったら私を抱いてよ!!」
「バカか?もう一度言う。俺ではお前を幸せにしてやれない!」
『そうよ・・・貴方の前では・・・みんなが馬鹿になるのよ・・・』
「幸せにして貰おうとは思ってないもん!!」
『貴方といる事が幸せなの・・・』
「バカか・・・自分で何を言っているか分かっているのか?」
「バカだもん!馬鹿だけど分かってるよ!!」
『この人は優し過ぎる・・・伝わってくるのよ・・・貴方の優しさが・・・』
「なぁ・・・静音・・・お前綺麗だぞ? ハッキリ言ってタレントより綺麗と思う。」
「だったら・・・」
「そうじゃない・・・俺のせいでお前の未来に傷を付けたくないんだよ」
「私の未来って何なの? 私の未来に龍徳君がいないなんてあり得ない・・・。」
『もう何度も考えたわよ・・・でも。考えれば考える程、辛かった・・・』
「お前・・・何でそこまで・・・。」
「龍徳君は当たり前にやるから分からないんだよ・・・」
「あぁ~分かるなぁ~・・・そうなんだよねぇ~」
キッと望みを睨むとスゥーっと目線を外された。
「大した事なんて・・・」
喋っている途中で遮られてしまう。
「それ!」
「ん?」
「今から龍徳君が良いと思った出来事を全部言います!!」
「へっ?」
そう言って高校に入ってからの事を思い出す。
先生に頼まれて荷物を運んでいる私が困っていれば・・・
「何やってんだよ・・・それじゃ前が見えないだろう? 寄越せ半分持ってやる。」
そう言って手に持っていた飲み物を口に加えて・・・
「って、それ・・・全部だよ?」
「だったら代わりに俺の飲み物持ってくれよ」
私はこの嫌みの無い優しさに惹かれました。
次に・・・
「雨降るなんて聞いてないよぉ~・・・」
困っている私に龍徳君は・・・
「俺馬鹿だなぁ・・・また傘持って帰るのを忘れてた・・・面倒臭いな・・・なぁ・・・悪いんだけど俺の傘一本貰ってくれない?俺を助けると思って♪」
私知っています・・・困った人の為に常に傘を2本置いているの・・・
私が傘を受け取ると爽やかに笑って「恩に着る♪」そう言ってくれた龍徳君に私は惹かれました。
まだまだ!こんなもんじゃありませんから!!次は・・・・
私が授業で使うプリントを風で飛ばされた時です
周りの友達が「あぁ~どうすんだよ・・・」って私を非難した時も
「はぁ~? 風が強い日に窓開けてんなよ!少しは静音の事を考えろよ! 困ってる奴に追い打ちを掛ける様な言い方をするんじゃねえよ!」
そう言って庇ってくれました。そして授業が始まると
「先生ゴメ~ン。プリント俺のせいで外に飛ばされちゃった。静音ゴメンな♪」
この時、私は感動したのを覚えています。
龍徳君の言葉にどれだけ救われたか・・・他にも!!
思い出せば思い出す程、溢れ出す涙。
私が階段でバランスを崩した時・・・
「危なっ!ふぅ~焦った~・・・お前本当にドジだな?」
私知ってます・・・あの時、階段から私を守る為に龍徳君が脛に傷を作ったのを・・・それなのに・・・
「怪我はないな・・・ったく・・・ドジが!・・・まっ・・・静音のお尻の感触が味わえたから良しとするか♪」
私知ってます・・・私の為にあんな悪態をついてくれた事を・・・
男性に身体を触られて嫌悪感を抱かなかったのは龍徳君だけです・・・。
他にも・・・
ある日、中学生の男の子達を龍徳君が殴った時の事・・・周りの子が酷いと言っていたけど私は知っています。
あの子達が吸っていたのはタバコじゃなく大麻だったんですよね?
別の日に、龍徳君を見かけた中学生の子達がお礼を言っていたのを見てしまいました。
その時の龍徳君に惹かれました。
「お前等に感謝される様な事はしてねぇ~・・・偉そうなことは言わねぇ~よ・・・どうしても遣りたかったら自分の稼いだ金でやれ!親に迷惑かけんじゃね~よ・・・。中途半端はカッコ良くねぇ~ぞ。」
その子達・・・この学校に入るって言ってましたよ♪
電車でご老人が前に来ると
「ヤベッ・・・降りそびれた!」
っとワザと大きい声で呟いて・・・
「ごめんなさい。席を立ちたいので場所を変わって頂いても宜しいですか?」
この遣り取りだけでも貴方がどれだけ相手の事を考えているのか・・・分からないと思うんですか?
本当は降りる駅じゃないのに・・・わざわざ違う車両にまで移動して・・・
この時の龍徳君の優しさに胸が締め付けられました。
1年C組の大森さんの事も知っています。
太っていて鈍間な彼が虐められているのを知った龍徳君は・・・
「自分より劣った奴を虐めるのがそんなに楽しいのか? じゃ~俺もお前達を虐めて楽しいか試して良いよな?」
そう言って助けた後・・・
「ワリイ・・・劣ってるって言った事詫びるよ・・・大森には大森の良いところがある・・・優し過ぎて周りの奴らを傷付けたくないんだよな♪ お前が選んだ選択は間違ってないと思うよ♪ だが、男が自分で選んだ道なら胸を張れよ! 後悔だけはするなよ・・・それでも、自分が間違っていたと思う時が来たら相談に乗るから。」
貴方の優しさを見聞きする度に涙が零れます・・・。
こんなに優しい人がこの世にいるとは思いもしませんでした・・・。




