新たなる訪問者
「いやぁ~本当に心配したよ。でも・・・意識が戻って本当に良かった・・・。」
「申し訳ありません。社員にもお礼を伝えておいてください。」
「皆、本当に心配しているよ。毎日来たがっていたけど僕が止めさせた。」
「スイマセン気を使って頂いて」
「龍徳君は神木商事の中枢だよ・・・君だけは倒れたら絶対にダメだ。その為に周りから何と言われようと僕は君を守るよ。」
意識が目覚めた後、病室に家族が駆けつけてくれ喜び合った。
俺が大丈夫だと安心して日常生活へと戻って貰ったら今度は木村さん達がお見舞いに来てくれた。
どうやら俺は、2ヵ月以上入院していたらしい。
最初の病院だけでは手に負えない程の重傷だったそうで、状態が一時安定した後、都内の病院へと移ったそうだ。
そして、4度の手術を経て今に至ったと教えてくれた。
意識不明の重体で、当初は絶望的だと言われていたと教えてくれた。
「本当にここまで回復したのが奇跡だって先生方が仰っていたよ。」
「それは言い過ぎでは?」
「何を言っているんだよ!頭蓋骨が陥没して脳溢血!内臓破裂に首の骨だって折れていたんだよ?発見された時には心臓が止まっていたそうだ。」
「それを聞くと良く生きていましたよね・・・。」
「ああ。先生方も驚いていたよ。野生の動物以上の生命力だそうだ♪。」
「野生動物って。ハハハ・・・。」
「半分冗談だとは思うけど一度調べさせて欲しいって言ってたよ?」
「ナハハハ・・・冗談・・・だよね?」
「さてね♪」
前回でも同じ様な事を言われていたので反応に困ってしまう。
それにしても頭部の手術は12時間を超えたそうだから余程の事だったと今になって思う。
全ての手術が無事終了しリハビリの結果によって後遺症の心配もないと先生が太鼓判を押してくれたと聞きホッとした。
今回の人生でもボクシングが続けられるか分からないと言うのに不思議と心は穏やかだった。
現在、やせ細った筋肉を取り戻す為に必死にリハビリ中だ。
リハビリは過酷だった。
が、努力の結果3週間後には何とか歩ける程度には回復したのだった。
そして、出席日数が足りなかったのだが無事2年生に進級していた。
どうやら木村さんが動いてくれたらしい。
どうやったか・・・何となく分かったので深くは聞く事はしなかった。
1988年4月俺は16歳になっていた。
変わらぬ仲間たちと学校の生活を送る中、未だに思うように動けない俺を必死に助けてくれる女の子達がいた。
正直に言ってあちこちの筋肉が断裂したらしく服を着替えるのでさえ一苦労だ。
その一人が・・・
「今日も彼女さんが来てるわね。」
「違うでしょう?昨日の子が彼女じゃないの?
「えぇ~あの子やっぱり彼女なの?」
「でも・・・この子も・・・」
「2人共彼女なんじゃないの?」
「えぇ~今度声かけてみようと思ってたのになぁ~」
「入院中に迫った子がいたらしいわよ?」
「うそ~!どうなったの?」
「ん~噂だからどうだろう~?」
何て会話を看護師達・・・この時代は看護婦か・・・
俺がリハビリをしている間もヒソヒソ会話をする声が聞こえて来る。
「龍徳君大丈夫?」
「ック・・・ああ・・・グッ・・・問題な・・・イッ・・・」
「痛そう・・・。」
「痛いに決まってんだろうが・・・。」
「そうだよね・・・ごめん・・・。」
「一々謝る位なら着いてくんな!」
「それはダメ!今日は私の番なんだから!」
「俺のリハビリを見ているだけでつまらないだろう?」
「ううん!そんな事ない!」
「・・・兎に角!俺は大丈夫だからもう帰れ静音。」
龍徳にそう言われてシュンと落ち込むのは工藤静音。
以前、龍徳達とカラオケに行った帰りに不良に絡まれた子だ。
「望ちゃんには、そんな事言わないのに・・・」
「はぁ? アイツにも言うに決まってんだろう?」
「そうなの?」
「当然だろうが。何にしてもお前達の貴重な時間を俺に割く必要はないから・・・だけど・・・まぁ~感謝はしてるよ。」
『やっぱり龍徳君は優しい・・・優しいから厳しいんだ・・・ズルいよ・・・そんな言い方されたら・・・』
「フフ♪ 私がやりたいからやっているだけだから気にしないで♪」
「何が面白いのやら・・・それだったら好きにしろ。」
「うん♪ 好きにする♪」
この工藤静音だが、望の次に俺の素性がバレた女の子だ。
望と関係を持った後、2人だけで何度か食事をしたり遊んだりしていた時にバッタリと遭遇した事があった。
それを見た静音は、他の女の子達に一定の距離を開けて接している俺に違和感があったようで、俺を尾行するのではなく、望を尾行したらしい。
ある時、学校帰りに駅に向かった望が服を着替えて戻って来たのを目撃したそうだ。
これは何かある!?そう思って尾行したら俺のマンションに着いたそうだ。
中に入るのかと思ってみていたが、身を翻すとマンションの向かいにあるカフェで、一人で待っている姿を見て他のビルの影から監視していたらしい。
それから少し経った後に俺が同じマンションに入って行くところを目撃。
そこで、俺と望の関係を疑い始めたと教えてくれた。
俺の部屋に望が遊びに来ていたある日
ピ~ンポ~ン。
「日曜日の朝から誰だ・・・」
その音でベッドの上で上半身を起こす。
右を見るとスヤスヤと幸せそうに眠る望の姿がある。
昨晩、いつもの通り・・・
「通い妻ただいま到着しました♪」
「誰が、通い妻だ? まったく・・・お前も懲りない奴だな・・・。」
「フフ♪ それが私の良いところですから♪」
そう言って部屋に通してしまうような関係にはなっていた。
朝を迎えピ~ンポ~ン。
っと言うチャイムの音で目が覚めた。
「うん~・・・龍徳君おはよう♪ 誰か来たの?」
眠そうなつぶらな瞳を擦りながら俺に話しかける。
昔の癖なのだろう・・・恥ずかしそうに裸を隠す様に布団を上げている望を見て頭を撫でてしまう。
「ああ、そうみたいだな・・・そのまま、寝てろ。」
「うん・・・。」
恥ずかしそうに頬を染めた望の顔は幸せそうだ。
ピ~ンポ~ン。
「はい。」
「お届け物があります。」
若い女性の声。
この時気が付かなかった俺が間抜けなのだろう。
この時代に女性の配達員はかなり珍しい。
しかも若いとなれば見た事などなかった
寝起きだった事もありモニター越しに頭部だけ映っていた姿に何とも思わなかった。
そして、入り口の自動ドアを開けて1分程すると
ピ~ンポ~ン。今度は部屋のチャイム音が鳴り響いた。
「あっ!私が出るね♪」
「お・おい!」
部屋着を纏った望が、俺の制止も聞かず玄関に向かう。
「ったく・・・俺の女になったと言っても彼女じゃないんだがな・・・。」
こんなセリフ女性が聞けばドン引きだろうが、時代はバブル。
男性だけでなく女性までもが、身体だけの関係を持つ人が増えていた。
所謂“セフレ”ってやつだ。
昔の俺が6股をした事があると言うのもこれが原因だ。
先に断っておくが俺から告白して付き合った訳じゃない。
望の時もそうだったが、今回もそうなってしまった。
「遅いな・・・」
玄関を開けたはずの望みが直ぐ戻るかと思っていたら2分経っても戻ってこない。
気になって飲みかけのコーヒーカップをテーブルに置いた時、リビングの扉が開いた。
「随分遅かった・・・なっ!!」
扉に顔を向けた龍徳の目が開く。
「えっと・・・お客様・・・と言うか・・・クラスメイトかな・・・ハハハ・・・」
ハハハじゃない!
「な・何でいるんだ?」
そこに立っていたのが、工藤静音だった。
「やっぱり・・・望ちゃんと付き合っていたって事なの?」
この質問の対応などどうでも良かったはずなのだが、“彼女“だけは”志津音“と決めている俺はウッカリ否定してしまった。
「どう言う質問だ?先に言っておくが俺は誰とも付き合ってない。」
「嘘!」
「嘘じゃないわよ?」
俺の代わりに望が答える。
「何で嘘を吐くのよ!どう見たってそうじゃない!」
「それが・・・嘘じゃないんですよね~・・・私も龍徳君の彼女になりたいけど・・・私じゃ無理みたい。」
切なげな顔とは裏腹に明るい声で応える望の姿に静音が
「ど・どう言う事よ・・・。」
すると望が龍徳に目を向けた。
『話しても良いかな?』
『やれやれ・・・勝手にしろ』
そういうアイコンタクト。
龍徳が自分の顎で相槌を打つ。
「驚くだろうけど・・・私達ってセフレなんだよね♪」
「セ・セフレ?」
「ハハハ・・・そりゃ~引くよね・・・。学校では真面目な私が龍徳君のセフレって聞かされたら・・・」
望の言葉に立ち尽くす静音が口を開く。
「セ・セフレ・・・」
「うん・・・。」
「って・・・何?」
思わずズッコケそうになった。
望は何故か俺を見て愛想笑いを浮かべていた。
「やれやら・・・お子ちゃまな静音には刺激が強いだろうけどセフレ・・・要するにSEXフレンドって事だ。」
「せ・・・セックス・・・ヒャァァァ~」
その言葉に耳まで真っ赤にしてしゃがみ込む。
「今頃恥ずかしがられてもな・・・言っておくが俺は望の夢を叶えてやっているだけだ。」
「夢?」
そう言って望みを見る。
「そうね・・・恥ずかしいけど・・・私・・・どうしても龍徳君に抱かれたかったの。」
「そ・そんな・・・つ・付き合ってないのに?」
「うん・・・私じゃ無理・・・って言いたくないんだけど・・・実際、龍徳君を一人の女性が捕まえるなんて・・・『あの人だけだもん・・・』」
「って事は・・・その・・・望ちゃんと・・・龍徳君は・・・その・・・あれを・・・したの?」
「あれ?」
「その・・・セ・・・セッ・・・・い・一緒に寝たって事?」
「お子ちゃまだな・・・男と女が2人でいるんだ・・・SEXしたに決まっているだろうが」
さもあっけらかん当然だと言い切る辺りが龍徳らしい。
「そ・そっか・・・そうなんだ・・・望ちゃんは・・・その・・・それで、幸せなの?」
「私?フフ・・・とっても幸せ・・・。」
少なからず龍徳に一番近い事が幸せで仕方がない。




