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そこにいる君に逢いたくて。  作者: 神乃手龍
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私の運命の人

「此奴・・・」

「志津音・・・教えてくれ・・・君は今どこで何をしているんだ・・・俺がここに来たのは君に会う為に来たんだよ・・・」


「私に?」

「そう・・・君にだ!会いたくて・・・逢いたくて・・・胸が張り裂けそうな程、逢いたくて・・・もう二度と離れたくないんだ!!」


「・・・」

龍徳の言葉に気が付けば志津音は自分の胸に手を当てていた。


「どうした?」

「水野君? どうしたって何が?」

「お前・・・涙が・・・」


「えっ?・・・あれ・・・どうしたんだろう・・・あれ?何で?涙が・・・止まらない・・・」

志津音の姿を見た水野が慌てて怒声を上げる。

「チッ!いい加減にしろよ!記憶喪失で苦しんでいる志津音をこれ以上苦しめるんじゃねえよ!!」


「記憶喪失が何だ・・・そんなもの・・・俺が・・・俺が治してやる・・・約束したんだ・・・何があっても必ず救ってやるって・・・記憶喪失何て俺が治してやるよ!!」

「うぅ・・・何で・・・涙が・・・」


龍徳の言葉に顔が反らせない。

志津音の心に龍徳の言葉が突き刺さる度に止めどなく涙が零れ落ちる。


「ふざけんなよ!! お前には関係ないって言ってんだよ!!」

志津音の態度に気が気じゃない。


「頼む・・・志津音と話させてくれ・・・」

「嫌だね!」

「お願いだ・・・」

頭を下げて誰かにお願いするなどいつ以来だろう・・・。


「何と言われようが嫌だっつてんだよ!」

「頼む・・・」

そう言って土下座をする為に膝を付き、頭を下げ始めた時だった。


「だ・・・ダメェ~!!・・・土下座なんて見たくない!!」

涙を流した志津音が声を荒げて龍徳の前に座り込む。


「志津音・・・」

「イヤ・・・土下座なんてしないで・・・」

下げ始めた頭を上げて見開いた眼を志津音に向ける・


「何するんだ志津音? そこをどけよ・・・お前は黙ってろよ!」

「嫌なの・・・何か分からないけど・・・この人の土下座何て見たくないの!!させたくないの!!・・・この人に土下座何て似合わない!!」

龍徳を守る様に頭を抱きしめ水野の顔を見て良い放つ。


「志津音・・・記憶が無くなっても・・・俺の事を・・・流石は俺が惚れた女だ・・・。」

体を起こし目の前の志津音を愛おしそうに見つめ、その頬に手を触れる。


「うぅ・・・何で・・・何で・・・涙が・・・止まらないよ・・・」

そう言って龍徳の手に自分の手を合わせる。


「いつだったか・・・こんな事があったよな・・・」

恋焦がれた志津音に触れ、龍徳の目から涙が溢れ出す。

「ウゥ・・・思い出したい・・・思い出したい・・・」

『この人の涙を見たくない・・・わ・私のせいだ・・・』


「志津音・・・今回はフライングじゃないから言わせて貰うよ・・・本当に綺麗だ・・・惚れ直したよ・・・」

「あ・あ・・・」

『お願い・・思い出させて・・・私の命は貴方を覚えているのに・・・』


「俺は君しか愛せない。この世界の誰よりも・・・君しか目に入らない・・・表現する言葉が見つからない程、志津音を愛している・・・俺の彼女になって欲しくてここまで来たよ♪」

「うぅぅ・・・・・」

涙が止めどなく溢れ出す。


『何だか分からない・・・けど・・・胸が締め付けられる・・・苦しい・・・なのに・・・嬉しくて・・・思い出さないと・・・お願い・・・思い出して・・・』


志津音の溢れ出す涙を優しく指で拾い上げ

「・・・この世界の誰よりも神山龍徳は、鈴木志津音を愛している。」

「お前!俺の女に何言ってんだよ!!」


「水野君は黙ってて!!」

『この人との時間を邪魔しないで!!』

「なっ!・・・何でだよ!!」


「分かんない!!分かんないけど・・・この人が泣いているのを見たくないの!! この人が傷付くところを見たくないの!! 何でって・・・私にも分かんないよ!!」



「俺は分かるよ・・・俺が記憶喪失になっても同じだと思うから・・・」

「ヒック・ヒック・・・同じ・・・?」


「ああ・・・君だけは特別なんだ・・・だから、俺の魂に刻み込まれている・・・例え俺が記憶を失っても魂が忘れない。」

「魂・・・」


「志津音の言葉が凄く嬉しい・・・記憶を失っても君の命が俺を覚えていてくれた事が本当に嬉しい・・・さすが俺が惚れた女だ・・・。記憶を失ってるのに惚れ直すとは♪」


「わ・私も・・・私も・・・」

『分からないけど・・・分かる・・・この人だ・・・この人が・・・私の運命の人だ・・・。』

「私も・・・嬉しい・・・フフ♪変だね・・・でも・・・でもね、命が・・・命が喜んでいるのが分かるの・・・。」


龍徳の手を頬に付けたまま幸せそうに目を閉じる。

「志津音・・・ここから始めようよ・・・最初からやり直しても俺は必ず君を好きになる。」


「フフ♪ 経験したような言い方だね♪」

記憶が戻っていないのに龍徳に向ける笑顔は昔の微笑み。

「ああ♪ 経験済みだ♪」


その時、水野と呼ばれた男が激怒した。

「ふざけるな・・・ふざけんなよ!!・・・志津音は俺の女なんだよ!!」

「何言ってんのよ!私は水野君の彼女じゃないでしょう!!」


「これから告白するところだったんだ・・・このゲレンデで・・・俺が!!告白するはずだったんだよ!!!」

「あっ・・・」


感情的になった水野が目の前に龍徳を庇うように立ち上がった志津音を薙ぎ払う。

「志津音!!」

ゲレンデの端はすぐ横に谷間がある。


水野が力一杯突き飛ばした事で、よろめいた志津音が落ちる寸前で、誰よりも早く龍徳が救いに入る。

「ゴメンな・・・」

そう言って一瞬だけ抱きしめて志津音をゲレンデに突き飛ばす。


ズサァ~っと滑り落ちる音と共にゴン!バキバキバキっと岩にぶつかったような音や木が砕ける音が聞こえた。


「えっ?・・・」

一瞬の出来事・・・

ゲレンデに倒れ込み事態が飲み込めない。


「お・俺は関係ないから・・・」

そう言い残して水野が去っていく。


すると他の人達が騒ぐ声が聞こえた。

「おい!!人が落ちたぞ!!」

「大変だ!!レスキューを呼べ!!」


周りの人達が指さす方へ志津音が恐る恐る目を向ける。

「うそ・・・うそよ・・・龍徳君・・・いやぁ~!!!!!」

本来であれば立ち入り禁止のロープが張ってあるのだが、前日まで続いた豪雪で隠れてしまう。


新雪の積もった谷間は上級者コースだと傾斜と70度を超える急斜面もある。

新雪が崩れ落ち10メートル程下に生えている木に強くぶつかった事が分かる跡が付いていた。


「おい・・・ヤバいぞ・・・」

立ち上がった志津音の目に映し出された光景は夥しい血痕の跡が広がっていたのだった。






どこだ・・・ここ・・・

目覚めても身体が動かない・・・


薄っすらと目を開けると真っ白な世界。

そう言えば落ちたんだったか・・・


冷たさは感じない・・・。

志津音は無事だろうか・・・。


なんか・・・眠いな・・・。

頑張って開いた眼が閉じて行く。


『って!これダメなやつだ!!』

気力を振り絞り目を開けると・・・


「なっ!・・・どうして・・・」

身体が動かないから目線だけを動かした時にみえたもの


「何で幽霊が・・・」

またしてもお腹と頭に幽霊がいる。

頭の上にはオッサンの幽霊が龍徳の頭から何かを引っ張り出している。


「まさか・・・戻されるんじゃないよな・・・嫌だ・・・まだ俺は・・・」

そして次に目を覚ますと・・・


「こ・ここは・・・」

見慣れた景色。

汚れた部屋・・・


時計を見ると朝の2時。

ベッドから立ち上がり階段を降りて洗面所に向かう。


「ハハハ・・・夢・・・夢だって言うのか?」

そこには髪が薄くなった49歳の龍徳の姿があった。


上に戻って最愛の息子に会いに行く。

スヤスヤと眠る我が子を愛おしそうに眺める。


『あの出来事が・・・夢・・・』


翌日会社に行きいつも通りに指示を出す。

だが、魂が抜け落ちたかのようにやる気が出ない。


暫くすると日常へと戻って行く。

だが、鮮明に思い出せてしまう夢をどうしても忘れられない。


子供の修学旅行のタイミングで会社に有給休暇の申請を出す

妻・・・正確には離婚しているから今は他人だが、既に愛情の無い妻には会社の出張と嘘を吐き一人で夢の出来事をなぞる。


幼少期に育った団地。

昔の記憶も残っているが、かなり変わっていた。


「懐かしい・・・ここで良く一人でボールを投げたっけな・・・」

そして、公園の中に入り

「ここは昔のままだ・・・」


そこは、夢の中で志津音と遊んだバスケットコート。

「どうしても夢とは思えない・・・。」


そして、向かった先は横浜。

ここで、夢では無かった事が分かった。


「やっぱりあった・・・」

志津音が住んでいたマンションは建て壊されたのか違うビルが建っているが、公園だけは残っていた。


本来であれば一度も訪れた事がない場所

それなのに覚えている。

「この木だ・・・」


そう言って1本の大きな気に近づき幹を見る。

記憶の中には・・・

「そんな馬鹿な・・・」


もしかしたら・・・

そんな気がしてはいたが、本来なら有り得ないはずのものがあった。

「何で・・・何でこれが残っている?」


そこには相合傘に神山龍徳と神山志津音と彫り込んであった。

先程も言ったが、あるべき未来では来た事がない場所だ。

そうなると書いてあるはずが無いのだが。


「どうなっているんだ・・・過去が変わったって事なのか?」

さらにプールは廃園となっているが確かに存在していた。


「ここは・・・なんなんだ・・・」

少なくとも以前とは違う。

だが、雪山からの記憶が抜け落ちている。


「どうやら・・・2つの未来がくっついたって言うのか?」

そこである会社が頭を過る。


「神木商事・・・まさか・・・あるのか?」

そして、会社があった場所に行くと


「流石にある訳がないか・・・」

記憶にあるビルではなく高層ビルになっていた。

だが、龍徳が住んでいたマンションは存在していたのだ。



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