確信犯
私の父は木村建設と言う中堅の会社を経営している。
中堅と言ってもかなり有名な会社みたい。
私の婚約者も建築会社の跡取りだと聞いた事がある。
家にある応接室で話しているのが気になって扉に耳を付けて聞き耳を立てても中の様子が良く分からなかった。
ある日、気になった私は龍徳君の後をコッソリつける事にした。
尾行には敏感みたい。
そりゃ~そうだよね。追っかけの女の子達が金魚のフンの様に後を付いていくんだから・・・
龍徳君がちょっと本気で走っただけで付いていけない。
まぁ~私もその中の一人なんだけどね。
でも私はラッキーだった。
以前、ファーストフードであった人達がビルに入って行くところを偶然目撃した。
そのオフィスビルに入って表札を確認したら・・・
「あった!神木商事・・・。」
その時、このビルの名前が目に入った。
「うそ・・・このビル・・・神木ビルって書いてある。」
そう・・・この建物ごと龍徳君の所有物。
「何者なんだろう・・・。どう考えても普通じゃないよ・・・。」
気が付けば、私は龍徳君の姿を目で追っていた。
友達も龍徳君の事が好きな子ばかりだ。
何かにつけて遊びに誘い何とか落とそうと必死な姿に驚く日々。
龍徳君が参加する時だけ私も参加しているっと言っても龍徳君は大体断るんだけどね。
今では、龍徳君を尾行する事が楽しくなっていた。
私って変質者かも・・・。
そんな中、神木商事を出てきた龍徳君が5分程離れたマンションに入って行くところを見る事が出来た。
「何このマンション・・・凄っ・・・」
後で調べたら有名なマンションだった。
「ここに一人暮らししているの?」
次の日、偶然を装ってマンションの近くで張っていると
「き・来た・・・」
今日も尾行を振り切った龍徳君が安心した様子でマンションに歩いている。
「い・今がチャンス!」
向かい側の建物から飛び出すと
「あれ?龍徳君?このマンションに住んでいたんですか?」
その時の龍徳君の表情が面白かった♪
「なっ!ななな・何でこんなところにいるんだ?」
「偶然だね♪ それにしても凄いマンションに住んでいたんですね♪」
「ん?・・・な・何の事だ?」
「フフ♪な~に?何かバレちゃ不味い事でもあるんですか?」
「何を言っているのかな?別にここに住んでいる訳じゃないし・・・」
『それは無理があるよ龍徳君♪』
「クスクスクス♪ 大丈夫よ♪誰にも話さないですから~♪」
「望こそ何を言っているんだ?何か勘違いしてないか?」
「クスクスクス♪龍徳君・・・自動ドア開いていますけど♪」
当時としては珍しいカード型のセキュリティ。
「・・・ナハハハハ・・・無理があるか?」
「うん♪」
「ハァァァ・・・誰にも言うなよ?」
「もちろん♪」
「それにしても・・・望・・・もう8時だぞ?家は大丈夫なのか?」
「うん。私の家ってそう言うの煩くないの。」
「そうか・・・でも!こんな時間に女の子が一人でいたら危ないだろう?こんなところで何していたんだ?」
そう言われて一瞬戸惑ったけど・・・そうだ!
「えっと・・・お父さんのお客様の会社がこの近くにあるって聞いて興味があったから見に来たら迷っちゃって♪」
「アホだな~・・・何処の会社だよ?」
ウフフ・・・どんな顔するんだろう♪
「神木商事って会社です♪」
「ブフッ!」
「クスクスクス♪な~に汚~いどうしたのよ突然♪」
「い・いや・・・そ・そうか・・・」
「もしかして・・・知っている会社だったりした?」
「い・いや・・・そ・そうだな・・・知っているって言えば知っているかもしれないな」
「プッ♪な~にその言い方♪」
「望のお父さんの会社って・・・」
「木村建設って言うの♪」
「ブフッ」
『可愛い♪こんな龍徳君・・・見た事がない♪』
「そ・そうか・・・も・もしかして・・・何か聞いているか?」
「何の事ですか?」
「い・いや・・・知らないならいい・・・。」
「な~に?気になるんですけど・・・?」
「いや・・・大丈夫だ。」
「えぇ~全然大丈夫じゃないですよ~あぁ~分かりました~!!」
「な・なんだ・・・」
「さっき何か聞いているかって言ったでしょう?」
『ウフ♪ ギクッてしてる♪』
「な・何か知っているのかな?」
「えっとね~・・・社長の名前が~・・・神山さん♪」
「ブホッ・・・」
「あれ~?神山さんって凄い偶然ですね♪こんなマンションに住んでるし・・・もしかして・・・龍徳君の会社だったりして♪」
「おまえ・・・確信犯だな?」
「え~何の事ですか?」
「やれやれ・・・」
「フフ♪やっと認めましたね♪」
「やっぱり確信犯じゃないか!」
「だって~私の家に突然来たの龍徳君の方ですよ?」
「うっ・・・そ・そうだな・・・」
「プッ・・・クスクスクス♪ 龍徳君ってそんな顔するんだね♪ その方が良いよ♪」
「煩い!」
凄く楽しい・・・。私の口調が柔らかくなっていく・・・。
灰色の私の人生に初めて色が付いていく。。
「兎に角、誰にも喋るんじゃないぞ!」
「えぇ~どうしようかな~?」
「・・・悪女め・・・」
「酷~い。真面目な私に悪女って・・・悲しくて口が滑りそう・・・」
「コイツ・・・わぁ~ったよ・・・悪かった。ギブアンドテイクだ!何か望みを言え。叶えてやるから、その代り今日見た事は誰にも喋るな。」
「ギブアンドテイク?」
「ああ。望みを叶えるから俺の言い分を聞いて欲しい。」
「へぇ~・・・でも何で隠そうとするの? こんな綺麗なところに住んでいたらモテたい放題でしょう?」
「俺は、惚れた女が良いんだよ。そいつ以外にモテたいとは思ってない。」
「志津音さんか・・・良いなぁ~そこまで思われて・・・」
「ん?望みだって可愛いんだから彼氏の一人や二人作れば良いじゃん」
「・・・私は・・・そう言うの・・・諦めているから・・・」
また・・・灰色が襲ってくる・・・。
「ふ~ん・・・俺には関係ないけど・・・」
「けど?」
「後悔は・・・しない方が良いぞ・・・。」
『何だろう・・・物凄く実感が籠っている気がする・・・』
「うん・・・。」
「それに・・・」
「それに?」
「その・・・なんだ・・・俺の事を一番知っているのは望みだからな・・・勘違いするなよ!隠し事がバレたってだけの事だからな!」
『ふふ・・・そっか・・・私が一番龍徳君の事を知っているのか・・・』
トクン・・・
まただ・・・何で・・・吊り橋効果・・・じゃないよね・・・
「フフ♪ そっか♪じゃ~私って龍徳君に取って特別って事だね♪」
「ち・違う・・・ん~・・・俺の会社もバレたし・・・お客様の娘さんだし・・・特別っちゃ~特別・・・なのか?」
「クスクスクス♪ じゃ~ギブアンドテイクしてあげる♪」
「おぉ!何だ!俺に出来る事なら何でも良いぞ!」
「その前に私の名前を言ってから望みを叶えてくれるってもう一度言ってくれる?」
「ん?ああ・・・コホン・・・望の望みを叶え・・・って!」
「キャァハハハハハ♪ 下らな~い♪ 親父ギャグ~♪」
「なっ!お前が言わせたんだろうが!!」
「プププ・・・望の望って・・・キャァハハハハハ♪お腹痛~い♪」
「チッ・・・これだから子供は・・・」
楽しい・・・景色に色が・・・
モノクロだった私の景色が・・・色鮮やかに染まって行く・・・。
不思議・・・龍徳君といるだけで・・・
トクン・・・
また・・・
「それより望みを早く言え!」
「プッ・・・えっと・・・ププ・・・」
「ったく・・・」
「キャァハハハハハ♪ お腹が~♪ ヒィィィ~助けて~」
「お子ちゃまめ・・・」
「はぁ~面白かった~♪」
「フン・・・望みもそんな顔で笑えるんじゃないか・・・」
「えっ?」
「いつも詰まらなさそう顔や羨ましそうな顔をしている印象だったから気にしてはいたけど・・・そう言う顔の方が良いと思うぞ。」
「えっ? 私の事・・・心配してくれていたんですか?」
「気が付かない訳がないだろう?」
『な・なんだろう・・・むちゃくちゃ嬉しいかも・・・』
トクン・・・
トクン・・・
胸が・・・苦しい・・・。
「そ・そっか・・・笑っていた方が良いかな?」
「当然だろう?その方が可愛いよ。」
「・・・・・」
『か・可愛い? なんだろう・・・恥ずかしくなってきた・・・』
「う・うん・・・分かった・・・そうしてみますね。」
「それより早く望みをって・・・無いのか?」
「あ・あります!!」
『私を貴方の・・・』
トクン・・・。
『あぁ・・・そっか・・・』
トクン・・・。
『そうなんだ・・・』
トクン・・・。
『これって・・・』
トクン・・・。
『私の初恋だったんだ・・・』
全てを諦めていた私に鮮やかな世界を見せてくれた人・・・。
気が付いてしまった・・・私は・・・この人が・・・好きなんだ。
「あるならサッサと言え!もう遅いんだ早くしろ!」
「うん・・・あの・・・これからも私の事を守ってくれる?」
「ん?俺の目が届くなら当然だろう?ってそれが望みで良いのか?」
「うん♪」
『そっか・・・龍徳君に取って・・・当たり前の事なんだ・・・フフ♪』
それからも何度か2人で食事をしたり遊んだこともあった。
望んではいけない事だと分かっているけど・・・
私の細胞が龍徳君を欲しがる。
私の誕生日まで後数ヵ月・・・。
そうなったら婚約が待っている・・・。
逃れられない宿命・・・。
せめて最初は龍徳君と・・・
ギブアンドテイク・・・これにしておけば良かったかな・・・
はしたない女って思われるかも・・・
嫌われたらどうしよう・・・
でも・・・これだけは譲れない!
私の初恋は龍徳君だ!
私の初めては龍徳君が良い。
それが叶うなら・・・これからの人生も色鮮やかに思えるかも知れない。
大好きな人との思い出を胸に秘めて・・・
私は決意した・・・。
母も政略結婚だったらしく私の思った通りにしなさいって言ってくれた。
何度も何度も謝る母に私は感謝した。
『久しぶりのカラオケに龍徳君も行くって話が聞こえたから一緒に行ったのに先に帰るって・・・そりゃ~私は彼女じゃないけど・・・今から・・・行ってみようかな・・・でも・・・行ってもいないかも・・・』




