龍徳との出会い
次の日、高校で出来た友人と親睦を深めようと入ったファーストフード店に彼がいた。
『大人たちに囲まれて・・・大丈夫かな・・・』
そんな心配をしていたのだが、聞き耳を立てると。
「そうじゃない。その土地はまだ横ばいだ。良いか?前提として都心に憧れる層を中心に広がって行く。今後は、臨海副都心が広がって行く事は間違いない。」
『臨海副都心? 何だか難しそうな話・・・絡まれている訳じゃないの?』
「ええ。ですから予想図のこの部分が良いかと思っていたのですが・・・」
「考え方は間違っていない。だが、将来電車が通る場所ではないだけだ。」
「どう言う事でしょうか?」
「地価は駅が出来ると跳ね上がる事は分かるな?」
「はい。」
「君達が抑えようとしている場所が違うと言っている。」
「なるほど・・・」
「東京から続くこの路線と将来電車が通る事でメリットがある町を考えれば分かるはずだ。そうなると・・・ここだ。」
そう言って多分、地図に線を引いているんだと思う。
「流石、龍徳君だ。上田君は情報収集。勉君は、社長の言われた場所の調査・・・」
『社長?・・・誰の事だろう・・・』
「中村君は周辺に挨拶に回ってくれ、香君は情報を纏めてデータの作成だ!良いな!」
「「「「ハイ!」」」」
『あの人が社長さんだよねぇ・・・それにしても・・・何で神山君がいるんだろう?』
その他にも絡まれた他校の生徒を庇う為に何度も喧嘩しているところを目撃していた
「あの人・・・凄く強いなぁ・・・」
他の日には・・・
また走っている・・・この辺りに住んでいるのかな?
門限が特にない私は、将来に絶望しているせいか夜遅くで歩く事があった。
そんな時に神山君が走っている姿を見かけてから何故か気になって探す様になっていた。
そして、少し経った頃だった。
「望みっち~今日カラオケいかない~?」
「ごめん。今日は委員長会議があるのよ。」
「そっか~じゃ~仕方ないね~」
「うん♪ また誘ってね♪」
「あぁ~遅くなったなぁ~」
時刻は午後6:40分下校時刻で解散となり一人寂しく駅へと歩いている時だった。
「ラッキー♪上玉見っけ!」
「よう!俺達とお茶しない?」
「えっ?いえ!結構です。」
スタスタと歩いて逃げようとしたら。
「そんな冷たい事言わないでさぁ~」
「俺傷付いちゃうよ?」
「そんな事を言われても・・・急いでいるのでスミマセン。」
「スミマセンて悪いと思っているならちょっと位優しくしてくれても良いんじゃね~の~?」
「ああそうだな。俺の傷付いた心を優しく癒してくんない?」
全然引き下がってくれないから走って逃げようとしたら
「止めて下さい・・・嫌、放して!」
「嫌!だって♪」
「可愛い声~♪」
「お願い・・・放して下さい!」
「大丈夫だよ俺ら優しいから」
「そうそう!ちょっとだけ遊んでくれるだけで良いからよ~」
強引に連れて行かれ困惑する私を周りの人達は見ぬ振りをして自分の身を守っていた。
『周りの人なんか・・・こんなもんよ・・・』
私には幸福は訪れない・・・。
灰色だった人生が黒に変わる程度の話なのかも・・・
そう思って諦めかけた時だった。
「グベッ・・・」
「おいテメェ~なにしや・・・ゲボッ!」
あっと言う間に2人の不良が膝を付いて倒れていた。
「ホントお前等みたいなクズ・・・死ねばいいのに・・・」
私を守る様に彼が立っていた。
「テメェ~・・・イキナリ殴りやがって・・・殺されてェ~らしいな。」
「何だ~その目は!腐った目をしやがって!」
「ゴミにとやかく言われる筋合いはないな。」
「女の前だからってカッコつけてんじゃね~よ!」
「死ねボケが!」
左右から挟み込まれ同時に殴り掛かってきた。
その瞬間、龍徳君の身体が左右にぶれたと同時に2人の男が吹き飛ばされていた。
「ガハッ!」
「グハッ!」
「雑魚が・・・何度来たって同じだよ。チッ!弱い奴が粋がってんじゃねぇ~よ・・・。」
『何だろう・・・物凄く・・・悲しそうな目・・・』
「この野郎・・・女の前だからって調子こいてんじゃねえぞ!」
「テメェ~に惚れた女がそんなに守りてぇなら守ってみな!」
「オメェ~にゃ無理だろうがな!!」
この時の龍徳君の形相は忘れられない。
何て表現したら良いんだろう・・・怒り・・・だけじゃない・・・憎しみ?悔しさ?それとも悲しみ?
「志津音を守れない・・・だと・・・」
『志津音・・・って・・・あの子の事かな・・・』
「ヒャァハッハッハ。そいつをテメーの前で犯してやるよ!」
「おう!悔しがるテメーの顔に唾を吐いて後悔させてやる!」
「・・・」
さっき怒っているって思ったけど・・・違った
龍徳君が・・・怖い・・・。
「もう・・・口を開くんじゃねぇ・・・」
「「死ねクソガキ!!!」」
そこからは、一方的だった。
警察が止めに入らなかったら殺していたかも・・・
アレだけの騒ぎだから学校でも取り上げられるかと思ったのに全体集会もないし何の報告もなかった。
当たり前の様に机に座る龍徳君にどうなったのか勇気を出して聞いてみた。
「昨日はありがとう・・・それと、ごめんなさい。」
「・・・良いよ気にしないで。」
「でも、私のせいで、神山君が警察に摑まっちゃったし・・・」
「大した事じゃない・・・だが、他言するなよ。」
「うん・・・誰にも話してないけど・・・何でお咎めなかったの?」
「ああ・・・警察に知り合いがいるし・・・あいつ等の履歴を調べたら犯罪履歴があったからな・・・クソ・・・調書に7時間って・・・これだから警察はやなんだよ。」
「そうなんだ・・・でも・・・神山君って喧嘩が強いんだね。」
「自慢にならないな・・・どんなに強くったって守れなければ意味がない。」
そう言った龍徳君の目が・・・
『なんて悲しそうな目をするんだろう・・・』
「えっと・・・私ね!横浜のプールで神山君の事を見た事があるの。」
そう言うと不思議な目で私を見た。
「そうなんだ・・・」
「えっと・・・覚えてないかも知れないけど・・・その時、溺れかけた私を助けてくれたのが神山君だったの・・・だから同じ高校で見かけた時は驚いちゃって・・・」
「・・・あの時の子か・・・そうか・・・」
「うん・・・それで・・・昨日の・・・志津音さんって・・・神山君の彼女さんの事だよね?凄く印象に残ってる・・・とっても可愛い子だね♪」
「・・・」
「ごめん・・・なんか余計な事だった?」
「いや・・・」
トクン・・・
『まただ・・・何でこんな悲しい目をするんだろう・・・』5
「だからね!昨日も助けて貰ったし彼女さんにもお礼言っておかないとっと思って・・・ダメかな?」
「・・・ああ。」
『何でそんな辛そうなの?』
「そっか・・・綺麗な人だったから仲良くなりたいなぁ~って思ったんだけどダメならしょうがないね。」
「ああ・・・。本当に・・・ッ・・・」
「あの・・・気に障ったらごめんなさい・・・でも・・・何でそんな悲しい顔なの?昨日も・・・さっきも・・・私の記憶にある神山君は・・・」
「あんたに関係ない話だ・・・要件はそれだけか?」
「ごめんなさい・・・ただ・・・お礼が言いたかっただけなの・・・。」
「・・・ふぅ・・・」
頭をポリポリとかいて溜息を吐くと龍徳君が
「連絡が付かないんだ・・・もう5ヶ月以上あってない。」
「うそ・・・だってあんなに仲良かったのに・・・」
「ああ。喧嘩した訳じゃない・・・本当に突然連絡が付かなくなった。」
「家・・・彼女の家には行ったの?」
「ああ。でもいなかった。」
「引っ越したって事?」
「そうみたいだな。」
「で・でも!彼女から連絡が入らないのはどうして・・・」
「さあな・・・俺もそれが知りたい・・・」
「手紙も電話もないの?」
「ああ・・・それに俺ん家も引っ越したからもう連絡が取れないだろうな・・・」
「そうなの?」
「ああ・・・タイミング最悪だよ・・・。」
「まだ探しているの?」
「ああ・・・」
「会いたいよね?」
「ああ・・・」
「ごめんなさい・・・。」
「何で謝るんだ?」
「だって・・・また悲しい目をしているから・・・。」
「いや・・・返って誰かに話せて良かったよ。俺達の事を知っている人がいるとは思わなかったから・・・あんたのお陰で思い出せたよ。」
「あんたじゃないです。」
「ん?」
「私は木村望って名前ですから。」
「ああ・・・ゴメンな。望ちゃんね覚えておくよ。」
これが切っ掛けで徐々に龍徳君と話す事が増えて行った。
5月の体力測定の時は、圧巻だった。
垂直飛びが1メートルって凄くないですか?
握力に至っては100㎏って
50m走も5.7秒で陸上部からメチャクチャ勧誘されていました。
そう言えば水泳部の人達からも勧誘されていたけど当然よね。
本人は目立ちたくない様なんだけど無理な話だと思う。
今ではファンクラブまで出来ているみたい。
この前も上級生の人から告白されていたし・・・ちょっとドキドキした。
毎回告白されては断っているみたいだけど・・・罪な人だよね・・・
でも・・・やっぱり彼女さんの事が忘れられないんだろうな・・・
そんな時、私の家に神木商事って会社の人達が来た事があったの
お母さんからは「大事なお話があるから望は自分のお部屋にいて頂戴ね」
って言われて窓からのぞいていたら
「なんで・・・見間違えじゃないよね?」
私の目には龍徳君の姿が映っていた。
しかも後ろにいるのは以前、ファーストフードで見かけた記憶がある人たちだ。
部屋から出て階段の上からコッソリと聞き耳を立てると
「お邪魔致します。本日はお時間を頂き誠に有難うございます。木村社長とお会い出来た事を光栄に思います。」
っと龍徳君の声が聞こえた。
普段は横柄な父が
「噂はかねがね聞いております。今やこの業界で神山社長の事を知らないものはおりませんよ。こちらこそ神山社長にお会いできて光栄です。さっ!こちらへ。」
腰の低い父を初めて見た。




