望の願い
そこまでされて切れた。
「止めろっつってんだよ!」
「いやだ・・・いやぁ~・・・ッツ!・・・は・入った・・・ンン」
「入ってねえよ!・・・ったくバカが・・・良いんだな!俺はお前を抱いても何の感情も湧かないからな!それでも良いなら抱いてやるよ!」
「そ・それでも・・・それでも良いの・・・お願い・・・」
前回の人生でも同じ様な事が何十回とあった。
周りの友人達からもモテ方が異常と言われる事が多々あったが、殆どが女性から声を掛けられる事が多かった。
当時の龍徳は、途切れる事のない女性関係に何時しか感情を失ってしまった。
狂おしい程の恋愛を経験した事がない。
言い寄って来る女の大半が、龍徳の顔か身体。もしくは金かステイタスであった。
中には、龍徳の優しさに惹かれる女性も多かったのだが、その頃の龍徳の世界はモノクロだったのだ。
これは比喩ではなく本当に白と黒の世界になってしまっていた。
それからは、女性の顔を見ても誰もが同じ顔に見えた。
会話も誰と話しても同じ様な会話。
大学時代の親友の一人久我と一緒にナンパに明け暮れたのは、自分から惚れられる女生と運命の出会いを一度でも良いから体験したかっただけなのだ。
だが、異常な程、モテてしまった事で、その小さな願いが叶う事がなかった。
愚かな女性が自分のせいで苦しむ姿を見るのが辛い。
愛情を知らない自分なんかに惚れると後悔する。
そう思って女性には辛辣な言葉を浴びせる事が多かった。
「悲しくないのか? 虚しくないのか? 愛情がないんだぞ?」
「それでも良いんです! 初めての人は龍徳君じゃなきゃ嫌なの!!・・・都合の良い女で良いから・・・だから・・・お願い・・・」
「お前も相当に病んでるな・・・」
このセリフは、前回の人生で龍徳が良く使っていたセリフだ。
遊び過ぎたせいなのか、どの女性を見ても同じに見えていた龍徳は人生の楽しさを思い出せなくなってしまい龍徳の視界はモノクロの世界が広がっていた。
それでも、自分と出会った女性が不幸になる事だけは避けたかったのだが、今の望の様に心に何かしらの闇を抱えている女性にだけは肉体関係を持ち続けたのだ。
自分と同じ様に病んでしまった女性・・・それが悲しい事だと分かってしまったから・・・
「龍徳君が惚れている女性がいるのは知っています・・・だから・・・その人が目の前に現れるまで・・・それまでの一人で良いから・・・」
「バカだなお前・・・」
「バカ扱いするのは龍徳君位です。」
「続きはベッドでだ・・・」
「アン・・・」
「言っておくけど俺・・・上手いからどうなっても知らないぞ・・・。」
「嬉しい」
「ちゃんと家には連絡しておけよ」
「うん♪もう入れてある♪」
「やっぱり確信犯じゃね~か。」
「フフ♪」
龍徳の一番は志津音だ。
だが、まだ本格的に付き合っている訳ではない。
裏切り行為の様な気がするものの、それは青臭い15歳ならの話。
前回の人生でも同じ様な事は何度も経験しているからこそ本気の女性に恥をかかせる事はしないのだ。
聞こえは良く聞こえるだろうが、事実、恥をかかせた女性が、気が狂っていく様を何度も見たし、風俗に落ちていく女も何人も見てきたのだ。
そして、中には自殺を図った女性までいたのだ。
龍徳は最善を尽くす。
それが、非難されるような事であっても・・・
その人が幸せになれるのであれば・・・
自分と係わった女性が不幸になる姿だけは見たくない。
そして、夜は耽って行く。
SIDE:木村望
「うん・・・無理言ってゴメンお母さん。」
『良いのよ・・・お母さんも貴方と同じだったから気持ちが痛いほど分かるから・・・』
「有難うお母さん・・・」
『これで覚悟は決まったのね?』
「うん・・・16歳になったら縁談を受けます。」
『そう・・・ごめんなさいね・・・本当なら子供にこんな思いをさせたくなかったのに・・・貴方だけは自由にさせてあげたかった・・・』
「ううん・・・仕方がないよ・・・」
「ごめんなさいね・・・」
「ううん・・・龍徳君との事・・・許してくれてありがとう・・・。」
「お父さんには内緒♪ 私達2人の秘密ね。」
「フフフ♪ そうだね♪」
「今日はゆっくり休みなさい。お父さんがアメリカから帰ってくるのは、当分先だから、それまではお母さんが守ってあげるからね。」
「うん・・・ありがとう・・・お母さん。」
電話を切って先程までの事を思い出す。
「はぁ・・・さっきまでここで・・・」
ボッと顔から火を噴く。
ポテっと枕に顔を埋め見悶える。
「凄かった・・・初めてって凄く痛いって聞いたけど・・・き・気持ち良かった・・・。」
そぉ~っと布団を持ち上げてシーツを確認する。
「私・・・大人になったんだ・・・フフフ♪・・・夢が叶っちゃった・・・。」
私の名前は木村望。
物心ついた時から私には許嫁がいるらしい。
小さい時は、白馬の王子様を夢抱いていたから何とも思わなかったけど友達が増えて行く度に違和感が募っていった。
中学生になると周りの友達が、恋愛トークを始める中、私一人が浮いていた。
友達の中には、既に男の子と付き合っている子も結構いた。
私もお母さんに似て顔が整っている方だと思う。
何度か告白された事があったけど期待には応える事が出来ない。
何故なら私は16歳になった時に婚約させられてしまうからだ。
恋愛出来る子が羨ましい。
周りの友達が色鮮やかな世界を満喫する中、私の人生は灰色に映った。
中学3年生の夏。
受験生の息抜きと友人たちがグループデートをしようと企画していた。
近場だと周りの目があるからとわざわざ横浜まで行くのだそうだ。
灰色の人生を送っている私には関係のない話・・・そう思っていのだけど
「望ちゃんも一緒に行かない?」
「そうだよ~偶には息抜きしないと♪」
後で、知ったけど本当は私の事を好きな男子とくっ付けるつもりだったそうだ。
私の結婚まで2年を切った。
一回くらいは人並みに楽しんでも良いのかも知れない。
そう思って一緒に行く事にした。
日焼けしたくないと企画段階から男子に訴えていた事で、男の子達の荷物は凄い量になっていた。
私達がプールについて男性陣がテントを不慣れな手付きで組み立てている時だった。
私達から15m程離れたところにいる後から来たカップルが目に入った。
『年上かな・・・それとも同い年位かな?』
他人のカップルを見ても羨ましいと思ってしまう。
『女の子・・・凄く幸せそう・・・良いな~・・・』
そう思って見つめていたら
「見てろよ♪」
そう言って男の子の方が座布団位の何かを取り出して放り投げた瞬間。
『何あれ・・・一瞬でテントになっちゃった・・・』
彼女の方も驚いている。
その後も慣れた手つきであっと言う間に快適な空間を演出していた。
『凄っ・・・周りの大人達も驚いているから余程の事だよね・・・』
その事があったからか私の目は常にその男の子を追っかけていた。
その後、友達達と流れるプールに入って皆、楽しそうに遊んでいる中
『あ・・・さっきの人だ・・・。』
彼女を浮き輪に乗せて凄い速さでちょっかいを出していた。
『彼女さん・・・幸せそう・・・』
他にも楽しそうなカップルが沢山いるのだが、何だろう・・・凄く印象に残った。
その後も、
『一人であの量を食べちゃうの?・・・あぁ・・・まただ・・・』
彼女さんの顔が、物凄く印象に残る。
「今度は中央に行ってみようぜ!」
友達の彼氏がそう言いだし行きたくもないのに移動する。
「きゃぁ~速~い♪」
友達が自分の彼氏の泳ぎに声を上げていた。
友達の彼氏は水泳部のエースで、常に大会では上位入賞する男子だ。
泳ぎが自慢だから見せつけたかったのが見え見え。
その時、さっきの彼が泳いでいるところが目に入った。
『凄い・・・メチャクチャ早い・・・』
彼女さんも驚いている。
周りの人達もそうだから余程の事だよね。
それを見た友達の彼氏がムキになって泳いだけど・・・
何だろう・・・可哀そうに見えた。
どうしてだろう・・・あのカップルが気になって仕方がない。
その後、流れるプールで私とくっ付けようとしていた男子をウザったく思いながらも浮き輪で流されていると
「キャッ!」
ゴムボートにぶつけられ引っ繰り返ってしまった。
イキナリの事で慌ててしまう。
慌てて上に上がろうとした時ボートが私の上にあったせいで、上がる事が出来ない。
『苦しい・・・だ・誰か・・・・助けて・・・』
転覆した私が上がって来ない事を気にした男子達が見当違いのところを探している。
誰にも気が付かれない。
『怖い・・・』
ボートを避けようとしても全体的に流されているから中々抜け出す事が出来ず一人でパニックに落ちかけた時だった。
プールの中を凄い勢いで泳いでくる男性の姿が目に入った。
その人が私の手を力強く引っ張ってくれて私は脱出する事が出来た。
「ゲホッ、ゲホッ、ゲホッ・・・」
「大丈夫か?」
誰もが私の事に気が付かない中、その人だけが私を救ってくれた。
そのまま階段がある場所へと連れて行ってくれ
「水は・・・少しだけ飲んだだけか・・・大丈夫そうだな・・・。吐き気はあるか?」
「だ・大丈夫です・・・。」
「そうか。ここなら日陰だし友達が来るまで休んでいた方が良い。」
「はい・・・あの・・・有難うございました。」
「ん? あぁ~別に大した事はないよ♪ 無事で何より♪」
爽やかな笑顔が私の心が奪われた。
トクン・・・
『なんて優しい笑顔なんだろう・・・』
「あの・・・お名前を・・・」
「気にするな♪ 助けられて良かったよ♪」
そう言ってまたしても爽やか笑顔を私に向けてくれ、彼女のところへと戻って行く。
その笑顔が私の脳裏に焼き付いた。
トクン・・・
『あぁ・・・コレ・・・吊り橋効果って奴だわ・・・私には必要のない感情ね・・・』
その後、第一希望の高校に受かり、入学式に彼と再会した。
あの時の爽やかな印象はなくなっていたけど間違いなく彼だ。
入学式前に一度クラスに集まった時に私の横に彼がいた。
名前は、神山龍徳君・・・。
新入生代表で挨拶をしているからには、学年主席と言う事だろう。
「頭良いんだ・・・」




