志津音の手がかり
「チッ・・・少しだけだからな!」
「「「「「イエィ~」」」」」
「そう来なくっちゃ~!」
「サッサと行くぞ!」
「「「は~い♪」」」
そしてカラオケに来て既に2時間。
「なぁ・・・少し離れろよ。」
「やぁ~だよ~♪」
「麗華さんがどかないなら私もどかないから!」
龍徳の左右を密着する様に麗華と美香が陣取る。
「トイレに行くからどいて貰えるか?」
「えぇ~しょうがないなぁ~」
「分かったけど・・・戻って来てよね!」
『さぁ~な・・・』
トイレを済ませて外に出ると静音がいた。
「あっ・・・龍徳君・・・私先に帰るね♪」
外は既に暗い。外は既に真っ暗だ。
「ちょっと待ってろ・・・送ってってやるから。」
「う・うん・・・ありがとう・・・」
渋谷の駅は何だかんだ言っても誘惑が多い。
学生だろうが男共の格好の的になる。
つい最近も女性陣が絡まれているところを助けたばかりだ。
部屋に向かうとちょうど、省吾が外にいた。
「俺先に変えるから皆に言っといて。
「うん。何だ龍徳帰るのか?」
「ああ。元から忙しかったからな。ここまでの会計は俺の方で済ませておくから皆に宜しく言っておいてくれ。」
「おお。分かった伝えておくよ。」
そして、階段を降りてレジに向かう。
「何やってんだ?」
「え?ああ龍徳君・・・その・・・自分の分だけ先に払っておこうかなぁ~って」
「そこに座って待ってろ。」
「えっ?でも・・・」
「良いから。」
「211号室ですけどここまでの料金で一旦、締めて貰っても良いですか?」
「畏まりました。・・・では、お会計が28800円になります。」
「カードで・・・」
「はい。・・・では、サインをお願いします。」
テキパキと会計を済ませ静音のところに向かう。
「お待たせ。行くぞ。」
「あっ・・・お会計は?」
「みんなの分も俺が払ったから気にすんな。」
「でも悪いよ・・・。」
「お子様が気にするな。」
「お子様って同い年じゃない。」
「俺は仕事をしているからな・・・。」
「そう言えばって・・・そんなの関係ないよ。」
「煩い奴だな・・・俺に奢られるのが嫌だったら俺と一緒に遊びに行かない事だな」
「ズルい・・・。」
龍徳の足が速いから少し遅れて後を付いていく。
「早いよぉ~」
「チッ・・・」
そして、歩く速度を落とす。
「フフ♪ ありがとう♪」
「この辺危険だから一人で帰ろうとするな。」
「うん・・・ゴメンね。」
すると案の定馬鹿な男共が出現したが、あっと言う間に瞬殺。
「ふん・・・これなら誰も見ていないな。行くぞ!」
「ようよう兄ちゃんよ~金かしてくんない?」
っと2人組の男が声を掛けてから僅か5秒後の出来事。
後ろから声を掛けながら肩を組もうとしてきたので、その前に身体を捻りながら左手で相手の右腕を掴むと同時に回転を加えた右をボディーに突き刺した。
そのまま握っていた相手の右腕巻き込んでビルとビルとの間に放り込む。
するともう一人の男が静音に絡もうとしていたが、龍徳の行動に気が付き身体を向けた瞬間に同じ方法で処理したのだった。
余りの早業に静音の理解が追い付かない。
龍徳も何事も無かったかのように駅へと歩いて行く。
「あっ・・・待ってよ~」
「早く来い!」
「フフ♪ でも待っていてくれるんだよね♪」
「ふん・・・。」
入学後少し経った頃の話しだ。
「貴方が、この高校を受験した時から好きでした。」
そう言って入学そうそう工藤静音が龍徳に告白した。
『志津音・・・じゃない・・・チッ・・・名前が・・・クソ・・・顔まで似てやがる・・・』
「悪いが、他を当たってくれ。」
「今じゃなくて構わないから・・・ねえ・・・神山君覚えてるかな?」
「何が・・・」
「受験の時・・・私、貴方の隣の席だったの・・・」
「悪いが覚えてないな・・・」
「そうだよね・・・だからお昼に外へ出て行った貴方が気になって付いて行ったのも知らないでしょう?」
「悪いが覚えてない。」
「アッという間に試験を終えて外に出て行ってしまったから偶然公園で貴方を見つけた時は嬉しかった・・・」
「で?あんたは何が言いたいんだ?」
「あの時・・・木から降りれなくなった子猫を貴方だけが助けていた・・・」
それは、志津音の影響を受けた龍徳の行動の一つ。
惚れた女性が当たり前の様に弱いものを助ける行動に心を奪われた。
「子猫を救い出したあの時の貴方の顔が忘れられないの・・・凄く優しい笑顔だった・・・あの時から私は貴方が好きです。誰よりも優しい貴方の心が好きです。」
『あの時か・・・』
志津音が見ていない時でも胸を張りたい。
志津音と同じ思いを共有したい・・・だからこそ弱い命を救えた時に幸せを感じた。
龍徳の微笑みは全て志津音に向け垂れている。
その微笑みを工藤静音は見たのだ。
「高校に入って貴方に逢えた時、私の胸の鼓動が速くなるのを感じました。私は2度貴方に心を奪われた・・・」
「さっきも言ったが、俺は彼女を作るつもりがない。他を当たるんだな。」
「私も言いました。返事はいりません。」
「だったらもう俺に構うな。」
「そうは行きません・・・だって・・・神山君・・・今にも泣きそうな目をしてるんだもん」
「クッ・・・勝手にしろ!」
「はい♪ 貴方が笑える時まで・・・私は諦めません♪」
龍徳はこの子が苦手だ。
正確には苦手と言うより初恋の女性の面影がある同じ女性を放っておけない。
だが、親しくしようとは思ってもいない。
他のクラスメイトと同様に出来る限り一定の距離を取っているのだが、どうしても
距離が近づき過ぎてしまう時がある。
志津音の時は歩く速度を彼女に合わせていた。
その事だけでも龍徳に取って特別な存在である事が分かる。
他の女の子であれば小走りでついて来いと待つ事はしないのだが・・・
「それにしても龍徳君って歌上手だよねぇ~♪」
「まあな。」
そう言われて悪い気はしないが、龍徳にとっては至極当然の前回の経験がある。
当然、前回の人生でもカラオケは日常茶飯事だった上にバンドのボーカル経験者でもあるのだ。
芸能界に興味がなかっただけで、3回ほど芸能事務所から勧誘があった程であった。
駅まで残り100m程で静音が龍徳に話しかけた。
「龍徳君・・・私・・・諦めないからね。」
「勝手にしろ。」
実は、入学して1週間もたたず最初に告白してきたのが静音であった。
彼女は背中まで伸びた髪をポニーテールにしているのが特徴だが、ハッキリ言ってスタイルも良い。
話を聞くと祖母がフランス人でクォーターと言う分類だそうだ。
4分の1はフランス人の血が入っている彼女は年齢より大人びて見えた。
イメージとしては外人になった志津音を連想させる顔立ち。
似てはいるが別人。
「うん。勝手にするね♪」
「フン・・・気を付けて帰れよ。」
「有難う♪また明日♪」
「ああ。」
駅に背を向けて学校の方へと歩いて行くと自分のオフィスが見えて来た。
「お疲れ様!今日は遅かったんだね。」
「お疲れ様です木村さん。ちょっと友達とカラオケに誘われまして遅くなってスミマセン。」
「今の龍徳君はそれ位遊んだほうが良いよ。」
「そんな事より例の件はどうなっていますか?」
「順調すぎる程、順調だね!さすが龍徳君。」
「では予定通りですね。ブラックマンデーと呼ばれる事になる大暴落・・・ここで一気に資産を増やします。」
「ハハ♪ 流石に今まで何度も信じられない事を見せて貰ったからね♪ 今回は途轍もない金額が動きそうだ。」
「ええ。動きが複雑になるので、欲張り過ぎない様にお願いします。」
「それにしても・・・信じてはいたけど凄まじいな・・・1年ちょっとで、ここまで大きくなるとは・・・」
「これも木村さんを始め優秀な部下のお陰ですね。」
「前から感じていたけど・・・本当に年上に感じてしまうね・・・。高校生になったからか最近は貫禄さえ出てきた気がするよ。」
それは、当然だろう・・・。
「木村さん・・・俺は早く大人になりたい・・・。」
「ふぅ・・・気持ちは分かるけど高校生なんだからもっと楽しんだ方が良いと思うけどなぁ~・・・」
「いくら会社が大きくなろうとも俺は周りから見れば子供だ・・・。」
「そうかなぁ~今や神木商事の社長と紹介して馬鹿にしていた取引先もグゥの音も出なくなっているけどね」
分かってはいる・・・
分かってはいるが、やはり子供である事実は隠せない。
免許も取れないから車にさえ乗れない。
「そう言えば吉報が一つあるけど聞くかい?」
「何ですか?」
「龍徳君の初恋の女性の御父上の生まれ故郷が分かったよ」
それを聞いて龍徳の目が大きく開く。
「本当ですか!!何処ですか!!」
「ハハ♪ 凄い変わりようだ♪」
この数ヵ月、龍徳から生気が抜け落ちている様な感じがしていたのだが、この話をした途端以前の龍徳の目の輝きに戻っていた。
「どうやら・・・新潟県・・・詳しい住所までは分からなかったがどうやら妙高市と言う場所にあるらしい。」
「新潟県・・・妙高市・・・妙高・・・はっ!お・思い出した・・・妙高・・・妙高高原・・・そうだ!妙高高原だ!!」
「ハハ♪ どうしたんだい、いきなり?」
「思い出したんですよ!」
「あ~以前から話してくれるデジャブの事かい?」
「そうです!俺・・・高1の冬に友達と初めてスキーに行くんですよ・・・あ・・・」
「クスクス♪ 本当に凄い能力だよ。お陰で我が社は創立1年で年商2000億を超えるまでに成長した。営業利益だけでも500億。今では龍徳君の御父上にも年間25億もの仕事を出せるようになったし・・・」
木村がペラペラとのたくっているが龍徳の耳には届かない。
『そうだった・・・妙高高原に言ったのは前回の高校での話だ・・・流石に時期までは覚えていない・・・どうすれば・・・』




