SIDE:志津音 切れない電話と想い
新年に最初に話す人は決まっている・・・
「明けましておめでとう♪」
「明けましておめでとう♪ いよいよだね。」
志津音としては受験の話をしたのだが・・・
「ああ・・・いよいよだ・・・・後少しで志津音に告白できるぜ!!」
「アハハ・・・受験は眼中にないんだ・・・」
「受験なんかどうでも良いし!」
「ハハハ・・・流石全国12位・・・」
因みに私は、全国10285位でした・・・
これでも!かなりいい方なんだからね!
龍徳君が異常なだけだから!
「今度こそ俺に惚れさせてやるから待ってろよ!!」
「フフ♪ 楽しみにしてる♪」
『バカ・・・とっくに惚れてるよ~っだ!』
「それでも受験が終わった人は羨ましいよ♪」
「でも龍徳君なら楽勝でしょう♪」
「まあね♪」
「でも!油断大敵だからね!」
「分かってるって。だから逢いたいのに我慢してんだろうが・・・」
「うん・・・でも・・・龍徳君が私の為に言ってくれた言葉が今なら分かるかも・・・」
「どう言う事?」
「えっとね・・・なんだろう・・・自分より龍徳君が大事・・・そんな感じ・・・」
「あ・・・」
「違う? 多分そう思ってくれていたんだろうなぁ~って・・・私って龍徳君に会いたいって我が儘ばかり言ってた気がする・・・でもね。だから邪魔したくないって思ったの。 龍徳君が幸せになると私も嬉しいって・・・」
「・・・」
「あれ?龍徳君聞いてる?」
「ああ・・・聞いてる。」
「どうしたの?」
「いや・・・何て言うか・・・感動しちゃって・・・言葉が出なかった・・・。」
「フフ♪ 大袈裟なんだからぁ~♪」
今なら分かる・・・ずっと本心だったんだね・・・。
「参った・・・。」
「どうしたの?」
「俺も志津音の気持ちが良く分かる。」
「ん~どう言う事?」
「会いたくて、会いたくて仕方がない・・・。」
「・・・・・」
私も・・・本当は凄く会いたい・・・
「今すぐ志津音を抱きしめたい・・・。」
「・・・もう・・・私だって・・・」
大好き・・・私も・・・抱きしめられたい・・・。
「でも我慢だ。」
「うん・・・でも、その方があった時に喜びも倍だよ♪」
『この人が好き・・・たったこれだけの会話だけで涙が出る程・・・多分これが愛なんだ・・・』
「倍どころじゃないね! 次にあったら我慢なんかしないもんね!」
「フフ♪ 何の我慢かは聞かない様にするね♪」
『キャァ~♪ あれだけ色々あったのに・・・うぅ~・・・何されるんだろう~♪ あんな事や・・・そんな事まで・・・ヒャァ~♪ 龍徳君のエッチ~♪』
「どうした?」
『ウッ・・・不味い・・・妄想し過ぎた・・・』
「エへへ・・・な・何でもないです。」
「そうか?・・・まあ良いけど・・・それにしても後1ヶ月ちょっとか・・・長いなぁ~」
「私も我慢しているんだからね!」
『もぅ~本当に我慢してるんだから!・・・次逢ったら私だって我慢しないんだからね!』
「クスクス♪ その言葉だけでも嬉しいよ♪ そっか・・・志津音も俺に逢いたくて逢いたくて仕方がないんだな♪ そっかぁ~♪」
『むぅ~私を揶揄おうったってダメだからね!』
「当然じゃん! 龍徳君に逢いたい・・・龍徳君は私に逢いたくないの?」
「なっ!何言ってんだ!俺が志津音に逢いたくない訳ないじゃん! 逢いたくて逢いたくて気が狂いそうだっつうの!!」
「エへへ♪ そっか・・・私も気が狂いそうなくらい龍徳君に逢いたい・・・」
「ウッ・・・くそ・・・電話でも可愛いなぁ~・・・どうしよう・・・我慢したくなくなってきた。」
「フフ♪ でも私は、龍徳君の方が大事だから我慢するね♪
「クッ・・・そんな事を言われたら我慢せざるを得ないな・・・」
「クスクスクス。それと!2週間前になったら連絡もしない様に我慢する。」
「えぇ~俺が我慢できないんだけど・・・」
「フフ♪ その方があった時の嬉しさが倍になるでしょう♪」
「倍じゃ無いもんね!」
「クスクスクス拗ねないの♪」
「うぅ~次にあったら、あ~んな事やこ~んな事をしてやる。」
「キャァァァ~♪ エッチ~!変~態♪」
「はぁ・・・逢いたい・・・けど頑張るよ俺。」
「うん・・・私も逢いたい・・・でも我慢するから。」
「くそ・・・電話切りたくねぇ~」
「フフ♪ でも勉強しないとね。」
『うそ・・・私も電話切りたくない・・・本当に切りたくないよぉ~・・・』
「はぁ~・・・俺って忍耐力あると思っていたんだけどなぁ・・・」
「クスクス♪ がんばれ受験生!」
「クッ・・・はぁ~・・・勉強頑張るかぁ~・・・」
「フフ♪ うん♪ 私の為に頑張ってね♪」
「・・・今の言葉・・・かなりやる気出た・・・」
「フフ♪ 大袈裟なんだから♪ でも・・・身体はこわさないでね?」
「ああ・・・」
「うん・・・」
とっくに電話を切らないといけない時間は過ぎている事が分かっているからこそ会話が減ってしまう。
『ダメだ・・・電話切らないと・・・でも・・・切りたくないよぉ~・・・』
「ここは、俺がシッカリしないとな・・・長電話してゴメン・・・お母さんに俺が申し訳ありませんでしたって伝えておいてよ・・・」
「ううん・・・私が電話を切りたくなかっただけだし・・・」
電話が終わる・・・
そう思うだけで切なくなる程の互いに惹かれあっている。
ほんの少しの沈黙が、お互いの気持ちを確かめ合うかのように過ぎていく。
「ごめん・・・また明日も電話するから・・・」
「うん・・・待ってる・・・」
「お休み志津音・・・」
「お休みなさい龍徳君・・・」
そして、ガチャっと電話が切れた。
その後、自分で言った事だけど日に日に龍徳君への愛情が募って行く事がわかる。
そして、龍徳君の受験本番まで後2週間・・・今日から電話で声を聴く事さえ叶わない・・・
そう思うと胸が締め付けられそうなほど切なくて・・・改めて龍徳君への愛情の深さを感じてしまう。
「姉ちゃん・・・どうしたの? そんな顔して?大丈夫?」
余程、辛そうな顔だったのだろうか・・・心配した健一が声を掛けてくれた。
「うん・・・後2週間の辛抱だから・・・大丈夫。」
『身が引き裂かれそう・・・龍徳君と逢えない事が、ここまで苦しいとは思わなかったよ・・・逢いたい・・・次にあったら私を強く抱きしめて欲しい・・・』
「それよりも父ちゃん昇進するのかな?」
「何で?」
「だって会社から緊急の呼び出しがあったんでしょう?」
「バカね!そう言うのは、呼び出される物じゃないの。」
「ふ~ん・・・まっ!俺には関係ないか♪」
「ほら!もう遅いんだからサッサと寝なさい。」
「うん!お休み姉ちゃん」
「お休み」
「ポケベルだけなら良いよね・・・」
そして、受話器を上げて龍徳のポケベルを鳴らして番号を入力していく。
「1・1・4・1・0・6・・・これで良し♪」
満足そうに優しい笑顔でそう呟く
「これが愛してるって意味だったらどうしよう・・・でも・・・そうだったら龍徳君も喜んでくれるかなぁ~♪ はぁ~逢いたいよぉ~」
その後、食卓の上に突っ伏していたけど母に促され自分の部屋に戻った・・・
「龍徳君・・・頑張ってね・・・チュッ」
話しかけているのは増えた写真立てに写る龍徳の姿。
「はぁ~クリスマスイブ・・・幸せだったなぁ・・・」
思い出すかのように写真を見るとディズネーランドの写真が見える。
「フフ♪ 全部エスコートしてくれて・・・お姫様みたいに・・・キャァ~♪ 殆どの乗り物を並ばないで乗れるし・・・食事もロマンティックだったなぁ~♪」
既に株主となった龍徳は大半の乗り物を並ばずに乗る事が出来たのだ。
食事も大人が選ぶような雰囲気の良いレストランを予約して中学生であってもウットリしてしまう。
「それにしても・・・本当に完璧超人よね・・・あ~んカッコ良かった~♪ もう・・・大好き・・・」
そう言って写真に写る龍徳にキスをする。
「気持ちは分かるけど遅いから静かにしなさいね・・・」
「なっ!何いきなり入って来てるのよお母さん!!」
「ノックはしたからね。」
「どこから・・・」
「クリスマスイブあたりかな・・・」
「いやぁ~!!」
「ウフフ・・・お母さんは何も見てないから・・・」
はぁ~どっと疲れた・・・・
でも・・・後2週間!
「・・・次にあったら我慢しないって・・・何されるんだろう・・・」
龍徳と次に会った時の事を想像し悶々とする。
「そ・そうなったら・・・私も我慢出来ないかも・・・キャァ~♪ 私の変態~♪」
どんな妄想をしているのか・・・
自分のベッドの上で枕に顔を埋めて見悶える。
そして、翌日の夕方・・・。
「うそ・・・冗談なんだよねお父さん?」
「何とかしようとしたが既に手遅れだった。」
「マジかよぉ~! やっと友達も出来たのに・・・」
「あなた・・・2ヶ月もお給与が遅れてたのに・・・そうなったら・・・」
「お父さんどうなるの私達・・・この家はどうなるの?」
「残念ながら既に引っ越しの手配は済ませてある。」
「うそ・・・」
「マジで!!」
「引っ越すってあなた・・・どこに引っ越すの?」
「取り敢えずは、一度実家に戻る事になる。幸い付き合いのあった会社の社長から声を掛けて貰えた。」
「あなたの実家って新潟じゃないの・・・健一の学校は?志津音だって高校受かったばかりなのよ?」
「我慢して貰うしかない」
「あなた我慢って・・・」
「マジかよ父ちゃん!! 俺と姉ちゃんはどうなるんだよ!学校辞めないといけないのか!?」
「そうなる・・・」
「うそ・・・」
目の前が真っ暗になった
パニックの余り手が震える・・・。
取り敢えず・・・龍徳君に電話・・・その前にポケベルに・・・
そう思って電話に向かおうとした時だった。
「やだよぉ~!!俺学校辞めたくないよぉ~!!」
ショックだった健一が突然、身を翻して志津音と衝突してしまった。
その時・・・
「あっ・・・」
運悪くシンクに溜まっている水の中にポケベルが落ちてしまう。
「嘘!」
急いで取り出して慌ててふき取るが・・・
「嘘・・・壊れてないよね・・・うそ・・・」
龍徳からもらった大事なもの・・・
この当時に防水機能などなかった事が悔やまれる・・・。
「龍徳君に・・・電話・・・電話しないと・・・」
「悪いが電話も既に解約済みだ。」
「うそ・・・なんで・・・」
「社宅だからな・・・今日中に引っ越ししなければならん」
私の中の何かが音を立てて崩れて行く。
取り敢えず引っ越ししてから龍徳と連絡を取り合えば・・・
そう考え荷物を片付けて行く。
さっきまで・・・あんなに幸せだったのに・・・
新潟って遠いよね・・・龍徳君なら何て言うんだろう・・・
また・・・近いって言ってくれるかな・・・
やだ・・・離れたくない・・・
子供って無力だ・・・
夜遅くある程度の荷物をまとめ終えた時、引っ越し業者がやってきた。
深夜、車で新潟に向け出発。
高速道路を使ったにも拘らず雪が積もっていて物凄く時間が掛かった。
そして、朝方8時。
涙で目が腫れた志津音の目に一面銀世界が映る。
「こんなに・・・遠いの?」
子供がおいそれと遊びに行ける距離ではない。
高速道路を降りて国道を進んでいた時の事だった。
急にお父さんが大声を出した。
「なっ!馬鹿野郎! 皆どこかに摑まれ!!」
その言葉が聞こえると同時に私は意識を失った。




