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そこにいる君に逢いたくて。  作者: 神乃手龍
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志津音に会いに・・・そして・・・


そして、迎える12月

一足先に志津音の入試が始まった。


心配して学校をさぼって駆けつけたもののその表情は自信に満ち溢れていた。

試験終了後に話を聞くと自信満々に

「私受かる!」

全く凄い女性だ。


後日電話で

「受かったぁ~♪」

っと電話だけでも嬉しさが伝わってきた。


「じゃ~24日は遊びに行くね♪」

「うん♪」


「志津音に早く逢いたい・・・。」

「うん・・・私も逢いたい。」


24日はクリスマスイブ。

流石に泊まり込みは無理だが、志津音の我慢した事を全部やってあげようと思った。

大人の時間ではない・・・それでも、こんなに幸せな時間はそうはないだろう。




何時だったか・・・

何かの本で読んだ事がある・・・


人間が天界だと思っている場所には実は第六天の魔王が住んでいるらしい。

人間界に住む人間が天界を求めて辿り着く世界の大半が、その天界だそうだ。


その名も“有頂天”。

有頂天界地獄に通ず


第六天の魔王は有頂天となった人間を地獄に突き落とす。

幸福であればある程、地獄が深い。


幸福の絶頂だからこそ気を引き締めよう・・・。

自分を律して第六天の魔王に付け入るスキを与えてたまるか!




そして、1987年を迎え俺も受験へ向けてラストスパートが始まった。

志津音が今度は私が我慢する番だと言ってくれた事で、1ヵ月以上顔も見ていない。

正直、禁断症状が出てきた。


会いたくて、会いたくて気が変になりそうだ・・・。


2月初旬とうとう俺の受験が始まった。

最後の全国模試で12位となった俺にとっては簡単な試験だった。

結果は分かっている。


最後の2週間は、会った時の喜びが大きくなるとポケベルさえ封印していた。

「受験が終わったから電話位なら・・・」

何度もそう思った・・・否、何百回かな・・・。


でも、あと数日の我慢だ。

高校に入ったらもう我慢しない・・・


毎日・・・毎日、志津音に会える。

お母さんも俺となら外泊もOKと言ってくれた。


恋焦がれた志津音と泊りがけの旅行にだって行けるんだ・・・

胸が何とも言えない程、ワクワクしてしまう。


4月になれば・・・

そうだ!マンションを会社で購入しないと!

形式の眺めの良い高層マンション・・・そうだな・・・デザイナーズマンションが良い!


ゴールデンウイークになったらどこに行こう・・・

夏になったら絶対に海だな!

クゥ~・・・高校生になった志津音の水着姿・・・早く見てぇ~!!


祭りに花火大会に・・・旅行も行きたい!

秋になったらどうするかな・・・


我慢が長かった分、妄想が留まる事はない。

そして、結果発表の日を迎え龍徳の姿が志望校の合否が張り出された掲示板の前にあった。


『よし!』

この当時は、インターネットなどない。

だから、学校まで行って直接確認した。


「このまま横浜に・・・」

その前にポケベルに・・・

今は数が少なくなった公衆電話もこの時代ならどこにでもある。


俺は、一目散に電話を取りポケベルに数字を入力した。

「114106」

「194」


そして、渋谷の駅へと全力で走り出す。

ハッハッと吐く息が白い季節・・・


周りから見れば、受験に合格して喜んでいるかのように見えるのだろう・・・

それほどに年齢相応の顔つきになっていた。


朝一で合否の確認に向かったので空腹だったが、食事も取らずに電車に駆け乗った。

会いたい・・・会いたい・・・会いたい・・・。

俺の合格を聞いた志津音が喜ぶ姿が目に浮かぶ・・・


逢いたい・・・

今すぐ抱きしめたい・・・

心から愛してる・・・理屈じゃない・・・人生を何度やり直そうが俺は・・・必ず志津音しか愛せない。


もう頭じゃない・・・身体でもない・・・命が彼女を欲している。


前回の人生で、数え切れないほどの女を抱いた。

付き合っていた女性だって3ケタであっても、こんなに心を惹かれた事はない。


常識で考えれば、大人の女性の方が、綺麗でスタイルも良い

龍徳が大学生の頃の女性関係は、そんな女性ばかりだった。


モデルやミスコンなどが当たり前だった・・・

そんな女性たちと比べても比較にならない女性が志津音なのだ。


龍徳の中で、志津音と比肩する存在がないのだ。

龍徳の全細胞が、彼女を求めている・・・。


未だにポケベルに返事がない。

当然だ。

彼女は授業中。

横浜に着いたがどこで待つべきか・・・。


彼女の中学校の前で待ったら迷惑だろうか・・・うん。これは止めた方が良いな。

直接、彼女の家に・・・この時間は誰もいないか・・・。

喫茶店・・・自分の歳を考えろ・・・この時代は流石に不味い・・・


自分の歳が憎い。

彼女にあったら欲望を抑えられる自信がない・・・。

分かってる・・・まだ中学生・・・大人じゃないんだ・・・。


彼女に会いたい・・・。

今度こそ思いを全て吐き出すんだ。

前にも少し吐き出してしまったが、俺の愛情はあんなものじゃない。


当然だ・・・こっちは35年以上の思いが詰まっているんだから・・・

あったらどんな顔をするんだろう・・・。

いつもの笑顔で微笑んでくれるに決まっている・・・。


あの天使の様な微笑みが好きだ。

全てを包み込むような太陽の様な温もりを感じる。

彼女の微笑みを見ただけで息をする事を忘れる。


時計を見れば時刻は午後2時。

後少し・・・後少しだ・・・。

彼女と初めて気持ちが通じ合った公園のベンチに腰を掛けて発狂しそうな程の思いを我慢する。


時間が経つのが遅く感じる・・・。

午後3時・・・後1時間もすれば、ポケベルを見た志津音がこの公園を通るはずだ・・・。

落ち着け・・・クソ・・・1秒でも早く逢いたい・・・。


午後4時・・・

中学生が帰ってくる姿が見える度に犬の様に反応してしまう。


次こそ・・・次こそ志津音が・・・

「良く考えたら・・・中学生が・・・ポケベルを学校に持って行ける訳がなかったな・・・」

って事は・・・この公園を通らないで家に帰ったのかも・・・。


落ち着け俺・・・。

騒ぎ立てる感情を押し殺して時計を見る

「4時30分か・・・今頃着替えて・・・ポケベルを見て・・・」

そろそろ俺のポケベルが音を鳴らすはず・・・


午後5時。

当たりがスッカリ暗くなっていく。

「もしかして・・・ポケベルを見ていないのか?」


そう思って公園の外れにある公衆電話へ駆け込み志津音の家に電話を掛ける。

「おかけになった電話番号は現在使われておりません・・・。」

「間違えた・・・落ち着け俺。」


もう一度電話をかけるが・・・

「おかけになった電話番号は現在使われておりません・・・。」

「なんだ?・・・どう言う事だよ・・・。直接、志津音の家に・・・」


脇目を振らず一目散に彼女のマンションを目指す。

エレベーター・・・早く降りて来い!


インターホンを鳴らし彼女が出て来るのを待つ。

ビックリするだろうか・・・そりゃ~驚くに決まっている。

驚いた顔も可愛いんだよな・・・。


もう一度インターホンを鳴らす。

「音鳴ってないのか?」

扉に頭を当ててもう一度インターホンを鳴らすが・・・


「鳴ってないな・・・」

なのでノックをする。


「コン!コン!コン!神山です!」

返事はない。


「コン!コン!コン!神山です!」

さっきよりも大きな音と大きな声で・・・

だが、何の返事もない。


「ゴン!ゴン!ゴン!!ごめん下さい!!」

すると

ガチャ・・・


隣の住人が出て来てこう教えてくれた。

「鈴木さん引っ越しましたよ?」


えっ?・・・何言ってんだおばさん・・・

引っ越した?

いやいや・・・そんな分けないじゃん・・・。


「引っ越した・・・んですか?どこに?」

「さぁ~」

「いつ!・・・いつ引っ越したんですか!?」


「分かんないけど・・・少なくとも10日以上前にはいなかったんじゃないかな~」

「10日以上前?・・・あの・・・他に何かご存じな事はありませんか?」

「ごめんね~本当に知らないのよ」

「そ・そうですか・・・」


その後の記憶が曖昧だ。

予想外・・・呆然自失・・・この言葉がピッタリと当てはまる。


近くのコンビニに入ると部活帰りの学生がいて、こっちをチラチラ見てきたので話しかけた。

「あの・・・イキナリで悪いんだけど・・・鈴木志津音さんってご存知ないですか?」


何も考えずに不用意に女子学生に声を掛けてしまったらキャァ~っと驚かれてしまった。

当たり前だが不審者扱いされたようだ。


興奮した様子のだったけど3人の中の一人が冷静に口を開いてくれた。

「もしかして・・・神山さんって方ですか?」

えっ?何で俺の名前を・・・

「はい!俺の苗字です・・・なんで・・・」


「やっぱり・・・以前、志津音先輩が好きな人の事を話しを良く聞いていたので・・・何でここにいらっしゃるんですか?」

緊張した様子で話をしてくれる。


「えっと・・・話すと長くなるんだけど・・・彼女に・・・志津音に会いに・・・」

「会いにって・・・もういないでしょう? まさか知らなかったんですか?」


「っ! い・いない?・・・どういうことだ?・・・何か知っているなら教えてくれないか!」

「教えるって言っても・・・」

「頼む!お願いだ・・・。」


そんなに詳しくは知らないけど・・・っと彼女が知っている事を教えてくれた。

「志津音のお父さんの会社が・・・倒産して引っ越した?」

「やっぱり・・・知らなかったんですね。 ちょうど2週間くらい前だと思うけど・・・」


突然だったらしい・・・。

上層部は知っていたのだろうが、中間管理職以下だと知らされない事も多かった時代・・・。

彼女の家は、会社の社宅だとそう言えば言っていた。


普通なら住んでいる人は守られるのだが、この時代にそんな常識はない・・・。

学校を数日休んだと思っていたら突然、引っ越したと先生から聞いたそうだ。


実家には泊まると伝え木村さんにホテルを取って貰い翌日、彼女の学校の先生に話を聞く事が出来たが、詳細は知らないとの事だった。

子供の俺には為す術がない・・・。


「何で・・・ポケベルの返事が返ってこないんだよ・・・何で鳴らないんだよ・・・」

あまりに突然の出来事に涙が零れ落ちる・・・

ポケベルの最後に彼女から送られていた最後の番号が映る。


「114106」

龍徳が何かにつけて送信するから意味も分からず彼女も真似をして寝る前に必ず送信していた。


肉体が若返ったからなのか・・・

零れ落ちる涙が止まらない。


「なんでだよ~~~~!!!!」

『逢いたい・・・志津音・・・君はどこにいるんだ・・・』




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