告白じゃないなんてズルいよ
「うん♪ 毎日惚れ直しているけどね♪」
「はぅ・・・持って帰りてぇ~」
「クスクス♪ また心の声が駄々洩れだよ♪」
いつもなら龍徳は志津音を持って帰りたいなどと言う事がないため、この件の会話は全て龍徳の心の声である事を志津音は知っている。
「あれ・・・また何か言っちゃったか?」
「うん♪ 言ってた♪」
「そうか・・・我慢し過ぎて限界に来てるな・・・」
「フフ♪ こんなに会っていても我慢できないの?」
「う~ん・・・毎日会いたいし・・・ずっと一緒にいたい・・・」
カッコ付けるでもなく笑うでもない心からの本音。
『もぅ・・・それってプロポーズだよぉ~・・・でも・・・』
「私も・・・一緒にいたい・・・」
結局似た者同士なのだ。
誰でも一度は経験する想い。
だが、龍徳だけは人生を繰り返した上での想いなのだ。
同じ言葉を他の人が言ったとしても重みが全ての仕草に出てしまう。
志津音は感受性が強い。
それだけに龍徳の言葉の重みを感覚的に捉えてしまう。
切ないまでの愛情を感じてしまうのだ。
その後、志津音の2人の友達と別れ志津音と2人でデートを楽しむ。
なんて事の無い日常の1ページ。
それでも1分を惜しむように楽しんだ。
「わわわ・・・」
「いきなり来たな・・・そこで雨宿りしよう」
上空ではゴロゴロと雷の音が聞こえる。
そろそろ帰りの時間となり志津音を家へと送って行く途中で大雨に降られてしまう。
帰りはタクシーで帰ろうと思っていた為に海を見に埠頭迄足を運んだことが仇となった。
螺旋階段の下に身を隠せる場所があったので、身を寄せ合って雨をしのぐ。
「濡れるからもっと近くにおいで。」
「う・うん・・・」
『なんだろう・・・凄くドキドキする・・・。』
志津音の肩には龍徳が羽織っていたシャツがかかっている。
『龍徳君の匂い・・・ずっと抱きしめられているみたい・・・』
少しでも雨から志津音を守ろうと志津音を奥にして自分が正面に立つ龍徳をチラチラ見上げては照れてしまう。
「スゲェ~雨だ・・・ゲリラ豪雨だな・・・」
その時、近くに雷が落ちた。
「び・ビックリした~・・・」
「今のはビビったな・・・」
そして互いの顔を見つめ合う。
「「プッ!」」
「何だその顔♪」
「脱徳君だって変な顔だもん!」
こんな状況でも笑ってしまう。
『もぅダメだ・・・龍徳君がいない人生なんて考えられないや・・・』
「寒くないか?」
「うん・・・龍徳君は大丈夫?」
「ああ♪鍛え方が違うからな♪」
志津音の方へ振り返って腕を曲げてアピールする。
「バカは風邪ひかないって言うから、龍徳君は風邪ひいちゃうよ?」
「ん~~? 俺って意外とバカな事をしていると思うんだけど・・・」
そう言われて志津音も思い返す。
「あぁ~風邪ひかないかもね・・・」
「今頭をよぎった事を聞かせて貰おうか♪」
「エヘヘ♪・・・え~っと・・・内緒♪」
「まぁ良いけどね!馬鹿だし!」
「クスクス♪ 龍徳君も濡れちゃうからもっとこっちに来て♪」
そう言って志津音が龍徳の腕を引っ張る。
ドキッ・・・
思ったよりも強い力で引っ張っられた事で志津音を壁ドンの体制にしてしまった。
「はぅ・・・」
『なに・・・何この体制・・・ヤバい・・・恥ずかしい・・・』
「ゴメン・・・」
そう言って龍徳が離れようとすると志津音が龍徳の腰に手を回した。
「寒いから・・・このまま温めて欲しいかなぁ~・・・なんて・・・」
『何その顔・・・メチャクチャ可愛いんだけど・・・ゴクリ』
「こ・こうで良いか?」
「うん♪ 温かい♪」
ただでさえ露出の多い服装なのに意識し過ぎてしまう。
「志津音さん・・・そのなんか恥ずかしいんだけど・・・」
「ダ~メ♪ 今日はイチャイチャするって龍徳君が言ってたもん♪」
『くぅ~♪ 龍徳君が此処まで照れるの初めて見たぁ~♪ 恥ずかしいけど・・・龍徳君が可愛い~♪』
「そうなんだけど・・・何か志津音が綺麗すぎて・・・意識しちまう・・・」
『綺麗すぎて・・・もぅ~・・・そんな褒め言葉・・・ズルいよ・・・』
「龍徳君・・・こっち向いてよ・・・」
チラッと龍徳の顔を見ると恥ずかしそうに頬を染めて志津音から顔を背けていた。
『あぁ~龍徳君・・・耳まで真っ赤になってる・・・ウフ♪ 可愛い♪』
「ダ~メ♪」
そう言って龍徳の顔に両手を当てて自分の方へと向ける。
「クッ・・・」
『今日はマズい・・・我慢出来そうもない・・・ったく・・・可愛すぎるんだよ・・・』
「龍徳君・・・大好きだよ♪」
「志津音・・・ダメだ・・・それ以上刺激しないで・・・理性がヤバい・・・」
「じゃ~ギュってしてくれる?」
「はぁ~ダメだ・・・もう限界・・・」
左手で志津音の頭を抱きしめ右手を背中に回して抱きしめる。
「はぅ・・・幸せ・・・龍徳君・・・だ~い好き♪」
志津音も龍徳の愛情を確かめる様に抱きしめ返した。
「だ・ダメだ・・・キスしたい・・・グヌヌヌヌ・・・」
「ダ~メ♪ 私の事を口説いてからなんでしょう♪」
『な~んてね♪ もうとっくに口説かれて龍徳君にメロメロです♪』
ドキン、ドキン・・・
「ダメだ・・・身体が言う事をきかん・・・」
徐々に徐々に志津音の唇に近づいて行く。
『キスされたいけど・・・やだ・・・意識したら恥ずかしくなってきちゃったよ・・・だめだよ・・・そんな目で見られたら・・・』
ウットリとした目で龍徳を見つめるものの、龍徳の顔から眼が反らせない。
ドキン・・・ドキン・・・ドキン・・・
「そんな目で見るな・・・我慢が出来ない・・・」
『告白出来てないのに・・・ヤバい・・・吸い込まれる・・・本当に15歳かよ・・・エロい訳じゃないのに・・・興奮しちまう・・・』
「無理だよ・・・私も龍徳君から・・・目が離せない・・・」
ドキン・・・ドキン・・・ドキン・・・
息がかかる距離で、互いの目に吸い込まれてしまう。
『止まれ・・・止まれ~!! この女だけは・・・告白してからじゃないと・・・嫌なんだ!!! 止まれよ龍徳!!!』
後1ミリ程しかないところでギリギリ耐える。
どちらかが唇を動かせば触れてしまう距離。
それでも、大人の矜持がある。
誰でも良いなら何の抵抗もなくキスしただろう。
だが、志津音だけは何十年もの想いが蓄積されている。
龍徳自身が決めた事なのだ。
高校生になってから・・・
我慢する事が難しいとは思ってはいたが、これ程惹かれるとは予想を遥かに超えていた。
理屈ではない・・・
命がお互いを求めあってしまう。
歳を重ねるごとにキスに対して抵抗が無くなって行く。
それでも、恋焦がれた最愛の女性とだけは、ゆっくりと愛を育みたいのだ。
ここでキスが我慢出来なかったら最後まで我慢できなくなるのは分かっている。
それは、志津音も同じ。
恥ずかしいと言う気持ちがない訳ではないが
それ以上に女性の本能が龍徳を求めてしまう。
唯一龍徳といる時だけが、女でいられる。
会えば逢う程、惹かれて行く自分の気持ちが抑えきれない。
それ位、2人の全てが惹かれあってしまう。
「はぁはぁはぁ・・・ったく・・・何て女だ・・・」
「はぁはぁはぁ・・・ドキドキしたね・・・」
唇が触れたのでは?と思うタイミングで龍徳が志津音の頭を抱え込んだ。
触れていないのにキスをした時以上に興奮が収まらない。
触れていないはずなのにハッキリと互いの愛が流れ込んできた。
「もうちょっと俺が慣れるまでリップ禁止!」
「クスクス♪ 大袈裟なんだからぁ~♪」
「大袈裟じぇねえよ・・・興奮し過ぎて・・・俺の心臓がヤバい・・・」
「・・・うん・・・聞こえる・・・」
「ダメだ~俺・・・志津音を好き過ぎてヤバいや・・・頭ん中グチャグチャだ・・・」
「私もだよ♪ でも・・・涙が出る程幸せ・・・」
『龍徳君の想いが、私に流れて来るよ・・・こんなにも愛されてるんだって伝わって来るの・・・それが、言葉にできない程、嬉しい・・・』
そして、バッと志津音から離れると自ら豪雨の中に入って行く。
『一旦頭を冷やさないと・・・大声を出さないと我慢出来ねえ・・・』
「龍徳君なにを・・・」
驚く志津音に自分の手を前に突き出し制止する。
「ちょっと大声出したいから耳塞いでな・・・」
「えっ?」
キョトンっとする志津音を見つめいつも通りの微笑みを志津音に向けると目を閉じて深呼吸する。
スゥー・・・ハァー・・・
閉じていた目を開くと・・・
「俺は志津音が好きで!好きで!大好きで!たまらねえんだよぉ~!!!! もう分け分かんねぇ位好きだぁ~!!!! 愛おしいんだよ~!!!! 舞い上がっちまうんだよぉ~!!!! 俺はお前に惚れてんだよぉ~!!!! はぁはぁはぁ・・・チクショウ・・・言葉が見つからねぇよ・・・」
魂からの雄叫び。
抑えきれない想いを口に出さないと気が狂いそうだった。
それでも伝えきれない想い・・・
「バカ・・・どれだけ私が好きなのよ・・・それでも告白じゃないなんてズルいよ・・・」
口元に手を当てて溢れ出る涙をこらえきれない。
龍徳の想いを全身に受け志津音の全身が歓喜する。
止めどなく溢れる涙は雨の様に零れ落ちた。
『もぅ・・・ダメだ・・・嬉し過ぎて涙が止まらない・・・私はこの人しか愛せない・・・龍徳君・・・好き過ぎて胸が痛いよ・・・』
その後、シッカリと握られた2人の手からは互いの想いが流れ込んでくるようだった。
帰りのタクシーの中、2人は一言も話さない。
話をすれば、お互いの気持ちに歯止めが効かないと分かってしまう。
それでも何かにピクンっと反応しては互いに微笑み合った。
たったこれだけでも一瞬で心が満たされてしまう。
「風邪ひかないでね?」
「ああ・・・このままタクシーで帰るから大丈夫だよ♪」
これ以上話すと我慢出来なくなると龍徳が話を切って車を出した。
そして、志津音は自分の部屋に戻ると羽織っていた龍徳から借りていたシャツを脱いで、それを抱きしめベッドの上で見悶えた。
好きな人の匂いを思い出すかのように。
「この匂い好きだなぁ~♪」
『もぅ~龍徳君のバカタレ~!・・・どれだけ惚れさせる気なのよ~!! 本当に私の気も知らないで・・・今日はドキドキしたなぁ~・・・エヘヘ♪ 幸せ~♪』
さっきからベッドの上でゴロゴロ転がっては恥ずかしがったり嬉しがったり忙しそうだ。
『あ~ん、もう会いたいよぉ~♪』




