変わらない初恋
毎週水曜日と土曜日にアップします。
作者的には自分で書いていて泣いてしまうような物語だと思っています。
文字総数334000文字で完結迄書き終わっているので、良ければご一読ください。
7月21日
東京タワーに行った事がないと志津音が電話で話した事が切っ掛けで久しぶりのデートを東京タワーで待ち合わせる事となった。
この場所には車で来た事は何度もあったが、公共交通機関を使って来たのは初めてだった。
待ち合わせ場所を決めたくても志津音が詳しくないので、俺が一旦、志津音を迎えに行ってから一緒に行こうと話したのだが・・・
「嬉しいけど・・・出来れば龍徳君を待っていたいなぁ~って思って・・・ダメ?」
この言葉の破壊力は半端じゃなかった。
声だけでも可愛いのに電話越しに抱きしめそうになった位だ。
「赤羽橋駅で待ち合わせじゃダメなのか?」
「出来れば現地で待ってたかったんだけど・・・迷惑だよね?」
電話越しでもションボリとしたイメージがハッキリと分かった。
「だったら・・・東京タワーの入り口の左側の階段を降りると公園と言うか広場があるからそこで待ち合わせでどうだ?」
「いいの?」
良いですとも♪
電話越しでも首を傾げた可愛いイメージしか伝わってこない♪
そして、10時に待ち合わせた公園に15分前に到着して既に10時を過ぎていた。
「この時代は携帯がないから本当に不便だ・・・来週の志津音の誕生日プレゼントはアレに決まりだな・・・。」
もしかしたら迷っているのかもと思い。周囲を走って探したがやはりいない。
そう思っていないと思いつつも木が茂っている場所も探した時だった。
「おいで♪ 大丈夫だから・・・」
っと優しい声が聞こえて来た。
「今の声・・・」
その声の聞こえた方に振り向いたが誰もいない。
「おかしいな・・・こっちから聞えたと思ったんだけど・・・」
すると
「大丈夫だよ♪ 今助けてあげるからね♪」
その声は木の上からだと気が付き上を向くと志津音がいた。
「志津音何やって・・・」
良く見たら志津音のさらに1メートル程上に子猫の姿があった。
「後少し・・・ん~・・・」
次の枝に何とか手を伸ばして掴もうとした時、枝がボキッっと折れた。
「バカッ!」
体勢を崩して慌てて他の枝を掴もうとするが掴めない。
次の瞬間、志津音の身体がフワッと空中に放り出された。
『あの位置で落ちたらマズい』
一瞬、下で受け止めようと考えたが、2メートル程下にある太い枝にぶつかってしまう。
アドレナリン全開によって加速された思考が一瞬で最適解を導き出す。
俺は、スローモーションとなった世界で、助走をつけて全力で跳躍し、上昇中の状態で次々と枝を掴んでは自分の身体を上へ上へと持ち上げた。
「キャァァァ~!!」
『ダメだ・・・助けて龍徳君・・・』
っと私が声を出した時だった。
落ちていく私の身体を優しく支える感触と共に龍徳君の声が聞こえた。
「本当にお転婆な女だ・・・約束した場所は、ここだったっけ?」
恐怖によって目を瞑ってしまった目を恐る恐る開けると龍徳君の顔があった。
「龍徳君・・・どうして・・・」
「それは、こっちのセリフ!・・・ったく心配させるな心臓に悪い。」
「ありがとう・・・フフ♪本当にスーパーマン見たい♪」
「それより怪我はないか?」
「うん・・・大丈夫かな? 龍徳君が助けてくれなかったらヤバかったね♪」
「ヤバかったね♪ じゃありません!」
「ごめんなさい・・・」
ショボ~ンっと落ち込んだ志津音の可愛さに
「クソッ・・・可愛いから許す!」
「へへ♪ 本当に有難う♪」
「その子猫を助けたかったんだろう?」
見上げるとミャ~ミャ~っと鳴き声が聞こえた。
「うん。鳴き声が聞こえて気になっちゃって・・・待ち合わせ迄30分以上あったから助けられるかなぁ~って思ったんだけど・・・」
「全く・・・可愛い少女が、子猫を助ける為に木登りって・・・本当に変わらないな・・・」
「えっ・・・」
「後は俺が助けるから先ずは降りるぞ。」
「う・うん」
運動神経が良すぎるのも考え物だ。
木登りは昇る時よりも降りる時の方が難しい。
一人では降りられそうもなかったので、俺が先に降りて志津音をフォローした。
「重ね重ねゴメン!」
っと両手を合わせて頭を下げた。
彼女は子猫を助けたいが一心で木に登ってしまい降りる事など頭になかったようだ。
「クス♪ まぁ~そう言うところも好きだけど・・・」
「えっ・・・」
「ちょっと待ってな♪ 直ぐ助けてくるから♪」
そう言って助走をつけて同じ要領で一気に上に上がって行く。
「うわぁ~龍徳君・・・重力って言葉知らないのかな・・・」
子猫のいる枝まで、ものの数秒で上がってジャブの要領で子猫の首を摘まんだ。
「こりゃ!お前も志津音と一緒だな♪」
ミャ~ミャ~っと泣く声が志津音の耳に届く。
「大丈夫~?」
「ああ、捕まえたから今から降りる。」
そして、下に降りて志津音に子猫を渡すと
「ウフ♪ 良かったね♪」
志津音の優しさが、伝わったのか子猫も安心したかのように志津音の両手の上から離れなかった。
「可愛いなぁ~♪ もう登ったらダメだからね♪」
そう言って彼女は子猫をソッと地面に放してあげた。
その光景を見つめる龍徳の顔が優しくなっていく。
「志津音は本当に変わらないよな・・・」
「さっきも言っていたけど何の事?」
小学5年生の夏だったっけっと龍徳が話を始めた。
「神山は、ルール知らないから入っちゃダメ!」
「えぇ~お豆で良いから一緒に遊んでよ~」
「お前が入ると邪魔なんだよ!」
そう言われてションボリと友達達から離れて行くと丘の上から女の子と声が聞こえて来た。
「大丈夫だよ♪ 今助けてあげるからね♪」
その声がする方に目を向けると木の上に志津音の姿があった。
「志津音だ・・・凄いな~木登りも出来るんだ・・・」
この頃の龍徳は運動音痴・・・否、正確には体力測定では、全種目とも上位だったのだが、周りの龍徳パッシングのせいで強制的に悪いと思わされていた。
その為、木登りなど怖くて出来なかったのだ。
「あっ!逃げないの! ヨッと♪ ほら捕まえた♪」
『凄い・・・』
爽やかな微笑みを子猫に向ける志津音の姿に目を奪われた。
そして木から下りて来た志津音に声を掛けられた。
「あれ?もしかして見てた?」
「うん・・・」
「アハハ♪ お転婆がバレちゃったね♪」
そう言って笑う志津音の笑顔が眩しかった。
「ううん・・・僕には出来ない事をした志津音は凄いと思った。」
「クスクス♪言い過ぎだよ♪ 困ってたら誰だって助けると思うよ♪」
『僕ならどうしたんだろう・・・見て見ぬ振りをしたのかな・・・』
「でも!本当に優しい人だから出来るんだよ。本当に凄いよ!」
「フフ♪ ありがとう神山君♪」
嫌みの無い笑顔。素直に喜んでくれている事が分かる笑顔だ。
「子猫って可愛いよねぇ~♪ フフ♪ 可愛いなぁ~♪」
トクン・・・
満面の笑みを浮かべて喜ぶ志津音の姿に心を奪われた。
これが龍徳の初恋のきっかけとなった。
その次の日から毎日、龍徳は公園に行っては木登りをし続けた。
それこそ毎日毎日、何十回と木に登り続け、気が付けば周辺で一番高い木でさえも簡単に登れるようになっていた。
この事が龍徳の腕力を鍛える一役を担っていた等、当の本人は大人になるまで気が付く事はなかった。
木に登り続けて半年もしない内に片手で自分の身体を持ち上げられるほどの力。
それが、あったから体力測定で実際に上位の能力があったのだ。
その他にも小学4年生の頃から友達に誘われて始めたゴルフも龍徳の運動神経を伸ばす一役を担っていた。
それは、家から片道10㎞程にある大学のゴルフ部専用のコース。
父である昌男に教わりボクシングに嵌るまでの2年間は、陽の早くなる5月から9月まで朝の4時にはコースで遊ぶようになっていた。
これも大人になってゴルフを始めたから分かった事だが、子供と言うのは漫画の世界が真実なのだ。
遊んでいたゴルフコースは実際には、普通の人が回る様なコースとは違い超難関のゴルフコースと遜色がなかった。
そんなコースとは知らず行けば必ず27ホールを回っていた。
しかもフルバックから・・・
高低差30メートルものコースで下手糞ながら駆けずり回っていた為、知らない間に想いゴルフバッグを背負って15㎞以上を走っていたのだ。
それも舗装された道路ではなく高低差のあるコースの中を。
最終的には、そのコースでベストスコア82を出せるまで上手になっていた。
この事を親が知っていたらプロになる為にコーチを付けたかも知れない。
しかし、残念ながら龍徳の父親はゴルフをした事がなく龍徳の成長を知る事はなかった。
自分達で決めた漫画に出て来るような難しいコースをプロが使うフルバックティーから友達から借りているクラブで平均スコア86はレディースティーからであれば、10打以上少ないスコアの可能性がある。
実際、100メートルまでのアプローチであればピンまで3メートルいないにつける確率が90%を超えていた。
その上パターが得意で、2パット以内で決める確率も90%を超えていた。
唯一苦手だったのが、大人の倶楽部だった事で使いにくかったドライバーだ。
身長の低かった龍徳が使うと寝かせて打つ感じになってしまいヘッドが斜めに傾いてしまう。
その為、ドライバーだけは真っ直ぐ飛ぶ事が殆どなかったのだ。
友達3人で遊びまくったコースだが、3人共同じ様なスコアだった。
小学4年生から始めたスイミングスクールがある時にゴルフも遊ぶとなると笑える程の運動量だ。
重さ10㎏のゴルフバッグを背負ってママチャリで20㎞以上走り、コースを15㎞走り回り、公園で500球を超える壁当て、さらに団地のベランダ側を昇り降り、そして3㎞を超える距離の水泳。
言うなれば毎日ミニトライアスロンをしている様なものだった。
これが、当たり前の日課となっていたので、気にもしなかったが、大人になった時に異常だったと気が付く事になった。
この出来事の全てが龍徳の初恋の女性に近づくための努力の一つだとは志津音は知る事はないだろう。
龍徳が志津音を特別な女性とする理由は上げたらキリがない。
過去も現在も未来でさえも志津音の影響を強く受けて今がある。
時間と共に美化されると思っていた出来事でさえも真実であったと志津音は教えてくれる。
だからこそ、周りに何十人もいる中、木に登って降りられなくなった子猫を助けようとしていた少女が志津音一人だけであった事が誇らしい。
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