【コント】プロ同意屋
舞台:カフェ
A:プロ同意屋「ぷろどう」
B:依頼人「すずっち」
(舞台中央に1台のテーブル。それを挟むように椅子が2脚置いてある。下手側に足を組んで座るA。スマホを見ながら水を飲む身振り。
ドアベルのSE。上手からBがきょろきょろしながら近づいてくる)
B「あの。ぷろどうさんですか?」
A「(訝しげに)…はい」
B「良かったー。別人に声かけてたらどうしようってドキドキしましたよ(着席する)SNSのアイコン、ちゃんと本人の写真なんですね」
A「はあ。その話長くなります? 私、人を待ってるんですよ」
B「えっ。僕以外にも待ち合わせ相手がいるんですか?」
A「ん? あなたが依頼人の?」
B「ええ。すずっちです」
A「代理?」
B「本人ですけど…」
A「えー! あー、はあ、そうですか」
B「なんかがっかりしてます?」
A「がっかりはしてないですよ。してないんですけどね。いや、てっきり女性が来られると思っていたので」
B「ははーん。さてはアイコンにだまされましたね! あれ、僕の姪っ子の友達のいとこの友達の写真なんですよ。後ろ姿だけど可愛さが滲み出てるでしょう?」
A「それはもう他人じゃないですか!」
B「可愛かったもんで、つい。後ろからパシャっと」
A「しかも盗撮! 絶対ダメですよ。アイコン今すぐ変えてください」
B「えー、気に入ってるのに」
A「訴えられても知りませんよ」
B「わかりましたよ(不満げにスマホをいじる)はい(Aに見せる)」
A「何ですか、この黒いもじゃもじゃは」
B「今朝食べた昆布おにぎりの具です」
A「…まあ、あなたがそれでいいなら、いいんじゃないですか」
A「(咳払い)改めまして、今回はご依頼ありがとうございます。ご利用についての説明は必要ですか?」
B「初めてなのでお願いします」
A「わかりました。私『ぷろどう』はプロの同意屋です。あなたの愚痴を完全同意で傾聴いたします。その対価として、この店での食事代を払っていただきます。また、相談内容は後日ブログ記事として公開します。もちろん個人が特定されることがないよう配慮の上です。何か質問はありますか?」
B「いえ。大丈夫です」
A「私は『店長が日本中を自腹で周り、究極の果物とアイスを集めました。極上の味をお楽しみくださいパフェ』にしたいと思いますが、すずっちさんはどうします?」
B「え? 今のなんですか? パフェ? もう一度お願いします(机上のメニュー表を開く)」
A「店長が日本中を自腹で周り、究極の果物とアイスを集めました。極上の味をお楽しみくださいパフェ」
B「本当に書いてある…。正式名称覚えるくらい食べたかったの? しかも一番高いじゃないですか! 別のものにしてもらえませんか? ほら、この苺サンデーとか」
A「あなたを待っている間に、脳内でメロンを5回は食べました」
B「わかりましたよ…」
(呼び鈴を押すB)
B「これ一つお願いします」
A「あれ、あなたは頼まないんですか?」
B「誰かさんのせいで予算オーバーなんで」
A「そうですか。お気の毒ですね」
B「……」
A「すずっちさんの愚痴をお聞かせください」
B「ああ、そうだった。このために来たんだった。いやね、僕には女の同期がいるんですけど、そいつが上司に贔屓されてるんですよ」
A「はあ」
B「まあ可愛いから贔屓したくなるのもわかるんですけどね」
A「へえ」
B「僕が定時退社しようとすると嫌味言われるのに、そいつが定時前に帰り支度始めても何も言われないんですよ」
A「ほう」
B「なんで急にハ行しか喋れなくなったんですか。もっと同意してもらえませんか? バカにされてる気がします」
A「わかりました」
B「そいつが早く帰るおかげで、僕は毎日残業ですよ」
A「毎日はきついですね」
B「そいつの分まで働いてるのに、嫌味まで言われて。勘弁してほしいですよね」
A「そうですね。勘弁してほしいですね」
B「ぷろどうさんだったらこんな時どうします?」
A「そうですねぇ…」
(無言で見つめ合う二人)
B「あれ? 終わり?」
A「はい」
B「ただの相槌だったってこと?」
A「そうです」
B「意見を言うのは同意じゃないから?」
A「はい」
B「めんどくせえな」
A「そうですね」
B「さっきまで普通に会話できてたのになんでこうなっちゃうの? ふざけてんの?」
A「そーですねっ!」
B「ふざけたらだめだろ!」
A「おっしゃる通りです。全くもって同意します」
B「完全同意ってそういうことですか。僕の話聞く気ないですよね? もういいです! 帰ります」
(Bが早足で上手に向かう。Aが立ち上がる)
A「あっ、待ってください!」
(上手にはけるB。ドアベルのSE)
A「はあ。失敗した(店員が来た体で)ありがとうございます。いただきます。あー、やっぱ脳内で食べたメロンよりおいしいな。でも自腹かぁ。プロ同意屋も楽じゃない(頭を抱える)」
A「(起き上がりスマホを操作)そうだ、ブログ記事にしよう。タイトルは『やばい!ぷろどう、依頼人に逃げられる!やたら長い名前のパフェ、自腹の危機』っと」
(暗転)