筋肉は科学だ_その6
次の夏まであと半年。その時にたくましい身体を披露できるように、ちょっと筋トレやってかない?
さて、前回まではダイエットに有用な筋トレ、みたいなテーマで話を進めてきました。ザックリまとめてしまうと、有酸素運動はたしかに良いトレーニングではあるけれど、速筋が鍛えられないばかりか、速筋に多く含まれる『ミトコンドリア脱共役タンパク質(UCP3)』が少なくなる。これは、エネルギー効率的には良いのですが熱生産的な意味ではよろしくないので、結果的に平常時の熱生産量が減って、運動をやめたとたんにリバウンドしやすくなってしまうという憂き目に遭う。それを避けたいならば程よい筋トレが必須だということ。
筋トレに関しては、速筋を鍛えたいなら最低でも50%以上、求めるならば70%以上の負荷を上げる運動をしなければなりません。ただそれだけが手段というわけでもなく、それらの運動をゆっくりやるとか、伸張性収縮を利用するとか、とにかく筋肉を『オールアウト』まで追い込んでみるなどすれば、脳は速筋を運用せざるを得ない状況へ導いてくれます。
今回も理学博士であり、若かれし頃よりボディビルダーとして世界で活躍した『石井直方』氏著作『筋肉の科学』より、わたしなりの解釈や知識を動員してまとめていきたいと思います。
本日のテーマは『筋肥大』。ダイエットなどの話題については前回まででひとまず解決したとして、これからは筋トレでおっきくなりたいという方向けのお話をしていきましょう。
筋肥大を目的として筋トレするならば、すぐにでもやるべき筋トレは『80%1RMを8回の3セット』でしょう。初めて見る方にとってはなんのこっちゃ? という話ですが、これは筋トレをする方にとっては基本と言えるようなものです。
RMとは(Repetition Maximum)の略で日本語では『最大挙上負荷重量』。要は『1回上げられるギリギリの重さ』のことを指します。100kgのバーベルを1回持ち上げるのが精一杯であれば100が1RM。3回上げ下げできるなら3RMとなります。で、80%とついていますから最大重量の80%。100kg上げられるなら80kgの負荷を8回。それを3セットやりましょうということですね。
ただし、これをガチで正確に実行するには非常に高いハードルがあります。1RMを確実に測定する方法はなく、あくまでも普段のトレーニングから「これが最大だな」と感じるところでしかわかりません。筋肉は以前までに書いた通り、脳が潜在能力を制御していたりするのでなかなかその人本来のポテンシャルを測れないのです。
いちおう、普段の筋トレで上げられなくなる限界まで挙上運動を続け、各重量ごとに何回までやれたかという結果をグラフにすればだいたいの見当は付きますが、そんなことやるならさっさとやりたい重量で挑戦すればいいじゃねーかって話になります。
なので、はじめてのうちは『アナタが無理なく挑戦できる重量』を3セットやると良いでしょう。
ちなみに、この3セットは『セット法』というやりかたで決められているので、決して「はじめから8×3の24回やればいいじゃん」なんて単調な考え方はしないでくださいね。正確には、8回挙上を繰り返したあと1分程度の休憩をとり、筋肉を休み切らない程度に休息させたあとまた8レップ(回数のこと)やって休憩。また1分後に8回やって終わるというメニューです。
詳しいことは省きますが、筋肉は負荷をかけてほどよく刺激すると成長します。ただ刺激しすぎると逆にタンパク質を分解する作用が始まってしまい、逆に良いトレーニングにならなくなります。この『80%1RMを8回×3セット』は古くから行われてきた"基本"ですので、まあみなさん基本にならってまずはこれから始めましょうね。
理論的な話をしましょう。最近の筋トレは進んでるので、最近は科学的な知見から多用なトレーニングが工夫されています。トレーニングとはすなわち筋肉を成長させること。筋肉を成長させるためには5つの要素があると考えられています。すなわち――
・メカニカルストレス
・筋繊維の損傷・再生
・ホルモン・成長因子
・代謝環境
・酸素環境
よく利用されているのは『メカニカルストレス』ですね。筋トレとは言うまでもなくバーベルやダンベルを持ち上げたり、腕立てやスクワットをすることでしょう。これをやらずに筋肥大なんて臨めるわけもありません。強い筋肉をつくるには強い負荷を持ち上げられるようにすることから。こんなのふつうに考えればだれにだってわかることです。
ただし、最近の筋トレはそんな常識を打ち破ります。強い筋肉には強い負荷、というのはつまり、以前までに説明した、筋肉は遅筋から働きだし、強い力でないと速筋は働かないという『サイズの原理』があるため、筋肥大に必要な速筋が重たい重量を上げなければ活性化しません。
そこで、上に挙げた5つの要素を見てください。筋繊維の損傷・再生はすなわち『筋肉を使いまくって壊す』という昔からある手法ですね。ただ筋肉を壊す、という次元はプロのボディビルダーでも困難で、素人がジムでえんえんとやっていても、せいぜい筋繊維に小さなキズがついた、程度でしかダメージを与えることはできません。だからといってヤリすぎるとタンパク質の分解が始まってしまうので、ここは意識せずにまずはメカニカルストレスを追求するようにしましょう。
ホルモン・成長因子はまさにそのままの意味です。成長ホルモンと呼ばれるそれらが分泌しまくる子どもは、日毎に身体が成長していき、身長や体重、それに合わせて筋肉だってたくましく成長していきます。
大人でも筋トレをすることで筋肉用のホルモンや成長因子を生み出すことはできますが、これらは基本的に血液に循環して全身を巡っていく存在であり、みなさんが想像しているような大きな効果を筋肉に与えるようなことはありません。ただし、よくスポーツ大会などで行われている『ドーピング検査』があるように、ホルモンのなかには凄まじく強力な効果を表す物質も存在し、近年では『インスリン様成長因子(IGF1)』をウイルスを介して注入された筋肉が、トレーニングを要しなくとも凄まじい勢いで筋肥大化したという研究結果がでました。これは証拠を残さず手軽にできる『ドーピング』として、将来警戒されることになるでしょう。
たしかに筋肉を成長させるホルモンは存在しますが、それを自在に操れるかと問われれば疑問が残ります。ただし、男性ホルモンに多いとされる筋肥大効果も、女性だって筋トレすることで筋肉から放出させることができるので、やっぱり筋トレをするのは前提ということになるのでしょう。
個人的に重要と感じているのはその後ろの2要素です。そのためのトレーニングも合わせて紹介しましょう。
代謝環境と酸素環境は筋肉内部のことを指しており、筋トレをする場合、代謝は筋トレのレップ数をこなすことによって悪化していき、酸素は筋肉を使い続けることによって使われることで徐々に不足していきます。ただこれこそが実は速筋にとって良い傾向であり、脳は徐々に悪化していく環境を鑑みて、必然的に速筋を働かさなければならなくなります。
要は『数をこなして代謝しまくり酸素を不足させれば、糖を利用する速筋が働かざるを得なくなる!』という理屈。これならば遅筋をメインに使うレベルの軽い負荷であっても、きちんと速筋を稼働させることができるようになります。具体的なトレーニングをご紹介しましょう。
ひとつは『スロートレーニング』です。ゆっくりと動かすことでいつもより筋肉を使いまくり、しつこく力を発揮させられた筋繊維は酸素不足に乳酸地獄とまあ阿鼻叫喚になってしまうわけです。この運動は強い負荷をかけることがないので、たとえば子どもやリハビリ中の方、さらにはご高齢の方まで幅広くカバーしてくれる効果的なトレーニングです。
例えば腕立て伏せの場合、立ちの状態から3~5秒かけて伏せ、伏せの状態から3~5秒をかけて立ちへと遷移していくことでスロートレーニングになります。終始力を発揮する必要がある筋肉を感じながら、どんどん苦しんでいく筋繊維の悲鳴を聞きながら、笑顔で楽しく筋肉を追い込んでいきましょう。
その際、腕を伸ばし切って休む時間を作らないようにご注意ください。筋肉は力を入れると筋繊維が膨らんだ結果血管を引き締め塞ぎます。こうすると酸素環境が悪くなるので「シメシメ」と思ってさらに繰り返しましょう。
筋トレを繰り返していると、どこか筋肉が張ったような状態になり動きにくくなる瞬間があります。これは速筋が糖を分解して『乳酸』を作った証拠。さらに「シメシメ」と思って繰り返し筋トレしましょう。ただしやめ時はしっかり見極めて、ムリない範囲でね。
スロートレーニングは『自重トレーニング』でとくに有効です。自重トレはさらに、ジムなどで行う特定の筋肉のみを使うためにデザインされた器具を使わないため、自分でバランス感覚を鍛える長所もあいまりかなり良い刺激となってくれます。わたしはジムに通わない人間なのでずっと自重トレーニングを繰り返していますが、それでもかなり筋力の成長を実感しているところです。
正直な話、わざわざ月数千円払って無知のままとりあえずジムに通えばいいやって発想よりも、石井直方氏のような素晴らしい先駆者の知識の結晶である本を読んだ上で、自分で工夫して自重トレーニングしたほうが何倍も有意義だと思います。
ほか、血流や代謝をほどよく抑えるという意味としては『加圧トレーニング』がありますね。これはベルトなどをつけて筋肉を締め付け、血流を制限することで素早く筋繊維の環境を悪化させることができます。
ひとつご注意いただきたいのは、血流を制限すると言っても制限するのは『静脈だけ』です。エネルギーを送る動脈まで制限してしまうと単純にエネルギー不足に陥ってしまうので、筋肉が本当に意味で悲鳴を上げてしまいます。これを履き違えてしまうと筋トレにならないどころか締め付けた箇所の筋肉が死んでしまうのでガチのマジでやめてください。
ほどよい力で『加圧』された場合、例えば腕を加圧した場合は手のひらが赤く紅潮し軽く痛みを感じるようになります。血管が流れを作ろうともがいている状況ですね。逆に『制限』までいってしまうと血が巡らないので手のひらが真っ白になります。痛みを感じなくなり、ここまできてしまうと血栓まで発生してしまう可能性が生まれます。加圧トレーニングは素人がやるには危険と判断したほうが良いでしょう。必ず専門家に相談して、正しいアドバイスの元トレーニングを行いましょう。ネットで通販されているバンドもあまり信用しないほうがええんでない?
いやぁ今日はなんかスッゴイ量書きましたわ。ちょっと気分がハイになっちゃったね、うん。正しいトレーニングをすれば健康は必ずついてきます。筋肥大も夢じゃないし、なんだったらフィジーク部門のコンテストにでも参加してみっか! なんて意気込みでやりはじめるのも悪くないのではないでしょうか?
アナタの健康、体力向上、そして自分の姿を鏡で見て悦に浸るその瞬間の一助になることを願いつつ、わたしは今日もダンベル片手にキーボードを叩くのであった。
正しい筋トレには正しい結果がついてくる。試行錯誤で自分に最適な筋トレを見つけよう!




