ゲノムは謎がいっぱい
生物にはDNAがある。そのDNAの謎が全て解明されれば、あるいはその生物を人工で生み出すことができるかもしれない。
DNA。それは人間を形作る『設計図』であるということは、1週間ほど前に投稿した『セントラルドグマ』にて解説しています。DNAがあるからこそ、そこでセントラルドグマの機能が生まれ、DNAからタンパク質が合成され、タンパク質がそれぞれの細胞を維持し、私達の身体は命をつないでいられるわけです。
しかし、そのDNAのなかで、実際にタンパク質を作り出すための設計図になっている領域が『たったの2%』しかないと言ったら、アナタがたは信じられるでしょうか?
本日は、そんなわけのわからんDNAについて、理学博士であり東京大学分子細胞生物学研究所の教授である『小林武彦』氏著作『DNAの98%は謎』を参考に、私なりの解釈や解説をもって書いていこうと思います。
まず遺伝子について軽くおさらいしましょうか。人間の遺伝子は23個が2対ある46の『染色体』によって構成されています。そのうちのひとつが、あの『X染色体』と『Y染色体』であり、Y染色体があることで雄の個体が生まれる、というわけですね。三毛猫の雄が珍しいとされているのはこの影響で、X染色体に"黒"と"橙"の色情報をもっている関係で3色目が発現するのです。
染色体は、DNAの鎖が『ヒストン』というタンパク質の塊に巻き付くようになっており、数珠つなぎとなってまとまった形を形成してくことで生まれます。さらに細かく見ていくと、やがてみなさんがテレビなどでよくみるDNAの本体が見えてきます。2本の鎖と、はしごのようになった『塩基』が螺旋構造のように連なったアレですね。塩基は『アデニン・シトシン・グアニン・チミン』の4つから成り、アデニンはチミンと、グアニンはシトシンとそれぞれが"水素結合"でくっつき鎖同士をはしごでつなぐような形となっております。
このような素晴らしい構造をしているDNAですが、これらの遺伝子のうちタンパク質を作り出す働きをする遺伝子はわずかの2%であり、ほかの98%にそのような機能はありません。これはいったいどういうことでしょうか?
これらは『非コードDNA』と呼ばれています。文字通り、コードにならない。タンパク質を生産しないDNAです。研究者のなかでは『ジャンクDNA』とも呼ばれ、一時期はまったく意味のない"ゴミ"のようなものという扱いさえされてきました。2000年代にアメリカを中心とした研究により人間のゲノム(全ての染色体)の解析が終了したというニュースが世界を駆け巡りましたが、それこそまさしくこの"ゴミ"のDNAを抜いた、タンパク質をつくるDNAのみを扱った場合の話でした。
しかし、近年の研究により残る98%の非コードDNAが、DNAにとって無くてはならない働きをしているということが徐々に明らかになっていったのです。
非コードDNAは様々な機能を持つ領域に分けられています。100%のうち2%が『コードDNA』として、まず40%は人間の遺伝子に侵入した"ウイルスたちの残骸"である『レトロトランスポゾン』です。うーん、まあこれだけ書くとまさに"ゴミ"ですね。これらは人類誕生からの歴史を通して人類に感染してきたウイルスです。現在でも体内で増殖しようとする悪いヤツですが、DNAにはちゃんとそれに対する防御策がありますので、生物は生物のままでいられます。
10%は『偽遺伝子』と呼ばれています。以前はタンパク質を合成する役割があったものの、長い歴史の過程で働かなくなった者たちです。しかしまったく働かないのかというとそうではなく、これもタンパク質を作る"準備"まではするのですが、それらを壊す物質がいるために壊されてしまうタンパク質を作る遺伝子たちの『デコイ』として働く場合もあります。
5%ほどの割合で『重複配列』、『反復配列』があります。いわゆる『テロメア』などですね。テロメアは染色体の末端にありますが、その用途は未だに謎が多い部分です。DNAが分裂、増殖する際、どうしてもこの部分のコピーが完全にはいかず、テロメアのさきっちょが少し削がれてしまいます。これが人間の寿命を決定づける要素のひとつともされますが、ちゃんとした生活習慣である程度は抗うことができますよ。なのでみなさんきちんとした食生活、運動を意識しましょう。
残る40%以上の割合で存在するのが『イントロン』や『エンハンサー』などという名前がついた遺伝子配列です。これらを総称した名前は存在しない(あるいは、私の不勉強のせいで知らない)のですが、強いて名付けるとすれば『タンパク質形成配列』としても良いのではないでしょうか?
なんだよと、タンパク質を作るのは2%じゃないのかよと思われそうですが、これは"実際にタンパク質を作る配列"が2%ということです。それは『エクソン』と呼ばれる領域ですが、ここだけだとタンパク質を作ることはできません。タンパク質を作るためには、DNA情報を"転写"する『メッセンジャーRNA』に「ここだよー!」とコピーする場所を教える存在が必要なのです。その役割を担うのが『プロモーター』と呼ばれる領域で、ほかにも転写を活性化、つまり「このあたりに転写するヤツあるからいっぱいコピーしてね!」と教えてくれる『エンハンサー』だったり、「ここで転写はおわりだよ!」という目印になる『ターミネーター』だったりと、なかなかに個性が揃っている遺伝子群だったりします。
しかし、これらもまた"タンパク質を作る遺伝子というわけじゃない"ということで非コードDNAとされています。コードDNAとはすなわち『エクソン』だけを示すと考えてください。
しかし、今の説明のとおり、この非コードDNA配列が存在しなかった場合、DNAの転写が行われず大変なことになるということはご理解いただけたかと思います。これらのタンパク質を作るために働く非コードDNAについて詳しく説明してみましょう。
DNAの転写を行う『メッセンジャーRNA』は、まず『プロモーター』を目印にDNAにくっつきます。それ以前に存在する『エンハンサー』は、目印となる遺伝子配列の転写数を増加させる効果があります。DNAにくついたメッセンジャーRNAは、様々な酵素の働きによりその配列をコピーしていきます。そこにはタンパク質を実際に作り出す『エクソン』と、なにもない領域の『イントロン』が交互にありますが、メッセンジャーRNAはそれごとコピーしていきます。
終端の『ターミネーター』まで転写し終えたらメッセンジャーRNAはその場所を離れていき、細胞核から外へと脱出します。その際に『スプライシング』という処理のもとでエクソンだけを選別するのですが、その際に剥がされるエクソンも存在します。これが、たったひとつの遺伝子で多くのタンパク質を生み出す秘密です。エクソンの組み合わせによって生産できるタンパク質が変化するというこの工夫は、少ない遺伝子数でたくさんのタンパク質を作れる生物の大きな工夫でした。
このように、非コードDNAは"ゴミ"なんかじゃないんですよ。ちゃんとした役割をそれぞれが担っており、本当にジャマ、ゴミとなじられるべき存在は、おそらく一部のレトロトランスポゾンたちだけなのでしょう。そして、DNAはこれらを無力化する構造をも持っています。
DNAは、ふだんヒストンというタンパク質に巻き付きギュッと引き締まった状態でいます。この時は遺伝子の転写を行えない『ヘテロクロマチン』という状態でいるのですが、レトロトランスポゾンはこういったヘテロクロマチン化された領域に存在しており、普段は転写されたり自由に暴れさせることはさせません。
しかし、それでもスキあらば自分を増殖しようとするもの。これらはmRNAに一度転写された後、外部へと出ては行かずに再度DNAに戻ってもう一度転写することによって、DNAの内部で増殖しようとします。そうして増殖したDNAは、配列の変更などで『突然変異』などの異常が発生することがあります。そいつらをやっつける対応策も内部にあるにはあるのですが、これを防ぐためにはヘテロクロマチンを維持する必要があり、これの維持にはやっぱりと言いますか、規則正しい生活、適度な運動、食事などがいちばんでしょう。みなさんも健康的なDNAになれるよう、日々の生活には気をつけましょうね。
人間のゲノムにはまだ謎が多いです。これら非コードDNAの謎が全て解明されたその時こそ、人類はヒトゲノムのDNA解析を終了したと言えるのです。はたして、それはいったいいつのことになるのですかねぇ……。
生物の定義は、自分でタンパク質を作れるかどうかにあるようだ。つまりエクソンの配列だけが生物ってことかなぁ?




