アートセラピー
芸術は人の心を癒やす。これは『芸術療法』として以前からよく研究されている分野です。今回はそんなアートセラピーのはじまりと概要、色を利用したいくつかの例をご紹介します。
色彩心理の理論はまだまだ発展途上にあります。というのも、色のイメージというのはそれぞれの地域差が大きく、なかなか統一的な心理の解明が難しいからです。人間がもつ色覚の細胞は『赤・緑・青』ですあり、これらの色が人間に共通して与える影響はある程度わかってきており、様々な研究所の意見も揃ってきてはいますが、まだこの色の心理的影響はこれ! とハッキリ言い表せる色の数は多くありません。そのため、例えば絵に色を塗ってもらいその人の心理を分析するテストや、色を見てどのようなことを思うのかを教えてもらうテストなどの種類は様々ですが、どの国民どの民族全てに対応できるテストがあるかどうかもわからず、これらは継続的に多様な種類を実践することで少しづつわかってくるものと言えるでしょう。
このように、まだ多くが謎に包まれている色彩心理の世界ですが、人間はそんな色に惹かれる生き物であることはもはや否めないでしょう。芸術は様々な色を表現し、人間の心に深く入り込んできます。色には力がある。それはわかっているのですから、これを治療に使わない手はないということで誕生した『芸術療法』というものがあります。これは絵画などの創作活動を通してカタルシス――自らの心を表現する事によって得られる浄化的な感覚作用――を感じることからと考えられます。言語で説明できないようなモンモンとした気持ち、ありますよね? 無意識的に湧き上がるイメージを、言語ではい情報によって表現することは人間にとって非常に大きな意味をもちます。例えばダンス、例えばスポーツ、歌なども、歌詞という言葉にのせたメッセージではありますが、そこには音楽の律動という言葉にない表現が加えられています。
本日はそんな芸術療法のいくつかをご紹介できればと思います。
芸術が心を清める採用があること自体は心理学発祥以前の時代から知られていました。それを『芸術療法』という言葉として使い始めたのはイギリスの芸術家『エイドリアン・ヒル』とされます。彼は1895年に誕生し、美術を学びつつも第一次世界大戦の影響から砲兵として従軍し、西部戦線の様子を絵画にて記録していきました。しばらく美術教師として活動していた彼がアートセラピーの力に気づいたのは自身の経験からのこと。1938年に彼は結核を患い、療養中そこから見える景色を描いていくなかで自分の回復に役立っていることを見出しました。同じく療養している人々に絵を描かせることでその効果を実感し、その効果をイギリスの赤十字社と協力して少しづつ広めていく活動を初めたのです。
彼は1942年ごろにはすでにアートセラピーという言葉をつくりだしていたようです。元来芸術家である彼は心理学や精神分析的な考え方とは相反しつつも、芸術が人の心を救う存在として大きな力をもっていることを確信していたのですね。彼は1977年にこの世を去りましたが、彼が残した精神はたしかに受け継がれていることでしょう。
芸術療法のいくつか、と言っても、やることは総じてシンプルであり簡単です。要点として『表現を通して自分の無意識の情動を表現する』ことができればその時点でも大成功なのです。絵画を描くことによって自分の心を表現するでもよし、歌をうたうことによって抑圧された心を開放するでもよし、陶芸や粘土細工に触れることで自らの想いを形にするのもよし、短歌や俳句に慣れ親しみ侘び寂びを感じるのも良し、ダンスで汗をかきオリジナルの振り付けを考えるでもよし、とにかく『表現する』ことこそがミソなのです。個性的なものとしては、砂の入った箱に、人、動植物、乗り物、建物なのどミニチュア模型を置き、それに対してなにかを表現してもらったり遊んだりすることを通して行う『箱庭療法』という心理療法もあります。これははじめ子どもを対象とした治療法でしたが、今では幅広く取り扱われているアートセラピーです。
こういった表現をしていくと、自分のなかに抑圧されていた『なにか』に気づくことができます。無意識の奥底に潜んでいた自分自身の抑圧された想いに気づくことは、その後の治療にとてもよく役立ちます。というか、気づいたらもう半分治療できたようなもんです。もちろん油断しちゃいけないでしょうが、自らの想いを『認知』したのなら、あとはその認知を元にどう『行動』するのかという話にシフトしていきますからね。うん、やっぱ認知行動療法最強だなと。
色を利用したアートセラピーとしては『フィンガーペインティング』や『交互色彩分割法』、『スクイッグル法』などがあります。フィンガーペインティングはその名の通りで、指に絵の具を塗り用紙に自由に描いてもらう手法です。道具を使わず指を直に利用するというのがミソなのでしょう。相互色彩分割法は、1枚の用紙にて、患者と治療者が交互にラインを引いて区切りを作り、できあがった区切りの中へ、さらに交互に色を塗っていくという手法です。おそらくセラピストはこのなかで意図してラインを引いたり色を選択したりして、患者の様子を見るのでしょう。スクイッグル法は、はじめペンで適当に線を引いてもらい、自分で書いたその線を見て何を思い浮かべるか説明し、それを絵にしてもらう方法です。さらに、これを物語様式に連続して書いてもらう『MSSM』なんて手法もあります。患者さんたちは、これらの過程で心に潜んでいる『なにか』が『象徴的な形』となって現れることに気づき衝撃を受けることでしょう。それを治療者と一緒になって考え、そこにある問題を同時に味わい、場合によっては解釈し、患者と一緒に見ていくのです。ラインの勢いが少ないとか、長いラインを書くことが好きだとか、ある色をたっぷり使うとか、幼い頃にあった、記憶から消し去っていた悲しい出来事を象徴する色だったとか……そこにある気づきは十人十色です。アナタはどのような『無意識』をもっていますか?
こういった表現療法は、べつに心理的に病んだ方たちの特権ではありません。ふだんの生活を営んでいるアナタだって日々様々な表現をすることでカタルシスを得ることができます。たとえばカラオケだったり同人としてクリエイトしたり、この『小説家になろう』に作品を投稿することだって一種の表現と言えます。そして、その表現をはじめた瞬間から、その人は何かが変化しはじめます。心に潜んだ影の正体が徐々に明らかになり、自らの抑圧された心に気づくのか、それともまた別の可能性を見出すのか……それは物事を表現している人にしかわからない境地です。わたしもいつかそんな世界を体感してみたいものですね。
表現しすぎて心(隠喩)をあけっぴろげにしちゃう方もいるようですねぇ……。




