【音楽心理学】モーツァルトを聴こう
音楽は人の心を揺さぶる。教わらずとも、人は太古の昔から知っていた。
音を楽しむから『音楽』というのです。人間ははるかな過去より音を利用し、いつしか音楽という文化を生み出して楽しむようになりました。世界初の楽器はなんだ? 言うたらそれは『声』になるでしょうが、たとえば自らの『身体』を叩いて打楽器にしたでしょう。
今からウン万年前、どこぞの遺跡で鳥の骨を利用したフルート的な楽器が発掘されていますが、それらは各自ググッていただければ幸い。もしかしたら以前の『つれづれグサッ』書いてあるかもしれません。
人類が古くから習慣的に親しんできた音楽。しかし、音楽がどのような効果を人間にもたらすか? という科学的根拠はまだ研究途上にあります。
人間はよく『光』を目にします。いわゆる可視光線のなかで、人は『赤』を見ると心拍を上げたり『青』を見ると逆に落ち着いたりします。光の波長ですらこうなのですから、空気の振動だって人間に様々な影響を与えるに違いありません。このヘンは今後の科学に期待するとしましょう。
たかだか空気の振動がどのような効果をもたらすのか? 今回はそんなお話を紹介できたら幸い。
『モーツァルト効果』って聞いたことあります? イメージされるのは『モーツァルトの曲を聴くと頭がよくなる』って感じでしょうか。まあ実際にモーツァルト聴いただけで頭良くなるならそれを間近でいちばんよく耳にしてたモーツァルト自身が天才になっちまうでしょうが、これはちょっとした事情というか歴史があったりします。
ことの発端は1900年代初頭。世界的に有名な科学雑誌『ネイチャー』へ寄稿された、カリフォルニア大学の心理学者『フランシス・ローシャー(Frances Rauscher)』の報告。モーツァルトの『2台のピアノのためのソナタ ニ長調(曲番号448)』を10分間、大学生に聴かせました。曲はYouTubeで検索すりゃイッパツです。まあ以下でもシェアしときますか。
YouTubeチャンネル、Lucas & Arthur Jussen
ttps://youtu.be/VIItKRaP2vc?si=bqXdFd10kX5f3bhS
この曲を聴かせた直後、その大学生ら36名の空間的知能を測定するテストをした得点が、他のリラクゼーションテープを聴いた後や無音状態で10分間待機するなどの条件よりも、IQ換算で8~9ポイントの有意な上昇を示したというものです。
これはビックリな指標ですよね。たしかに「モーツァルトを聴くとアタマが良くなる!」という認識を得ても不思議じゃないと思います。しかしこの結論に達するには肝心な情報を忘れています。
上記の実験では、空間的知能の上昇は15分程度しか保てずすぐ消失してしまうという記述もありました。つまり短期バフ効果だったワケですね。
しかし人間って都合の悪い情報を無意識的に避けちゃうんですね。上記の報告は一般ジャーナリズムによって「モーツァルトを聴くと知能が向上するんだ!!」という過剰とも言える拡大解釈になって広まっていきました。
もちろん、他の心理学者たちもこの研究結果をさらに研磨しようと実験に乗り出します。各研究所でモーツァルトの音楽について研究がはじまり、モーツァルトのみならず他のクラシックに手を伸ばしたり、それらのデータを収集し『メタ分析』して総合的な結論を出そうとしたり――それらを鑑みた結果、モーツァルトの曲には確かに一定の効果があるっぽいなって話がどんどん生まれることになります。
メタ分析というのは『それまでの同系統の研究をまとめて分析し、精度が高いデータを集計してさらに検証を重ねていく手法』です。膨大なデータを緻密に分析しなければならないぶん得られる結論はかなりの信頼度で、これまで3つ行われたメタ分析によって得られた結論は――
①モーツァルト条件と無音条件の間では、成績に差は示されなかった
――しかし、モーツァルトとリラクゼーションを比較したときはモーツァルトのほうが有意な上昇があった
②モーツァルト効果は存在する。しかしそれは『心的回転』という、心のなかで物体を想像し自由に回転させる能力を要する特定された空間的課題に限られる
③モーツァルト(曲番号448)の聴取と音楽なし条件の比較では、大きな差はないがモーツァルト条件の成績ほうが有意に勝った
モーツァルト以外の音楽聴取と音楽なし条件の比較では、大きな差はないが音楽聴取条件の成績のほうが有意に勝った
モーツァルト(曲番号448)の聴取とそれ以外の音楽聴取条件の比較では、大きな差はないがモーツァルト条件の成績のほうが有意に勝った
これらの評価を見ると、研究者の間ではまだ「大きな差はないが、まあ効果はあるんでね?」的な玉虫色の結果なんだね、はい。
③のメタ分析は2010年に行われたわりと最新のもの。10年以上前とはいえ、この実験は36件の分析で総勢2400名で行われたものですから信頼度は高いと思われます。しかもあの音楽の本場ウィーン大学の心理学者が行った実験だからね。
ちなみに、モーツァルト効果はネズミの実験でも実証されています。マジで。なんでネズミがモーツァルトでアタマ良くなるんだって話なんだけど、なんか結果が出ちゃったんだからしかたないじゃん?
実験内容はというと、60日間モーツァルトの音楽を聴かせたネズミを迷路に迷い込ませ学習実験をしたんです。そしたら無音環境だったり、他の音楽を聴かせて育ったネズミよりモーツァルトチューチューのがよい成績を叩き出したんですって、ハハッ。
ウソのようなホントの話。
ざっくり言ってしまえば『モーツァルト効果はある。しかし効果は大きなものではなく、空間認識能力を一時的に高めるもの』という感じでしょうか? ただし、他の音楽を聴かせた時よりも成績がよくなるというのがミソですよね。
なんでこのような変化が生まれるのでしょう?
モーツァルトの他にも、クラシックなどの曲を用いた音楽と成績の研究は行われてきました。そのなかで共通する要素は『テンポが速く(アレグロ)長調の曲』です。上記モーツァルトの楽曲でも、テンポを緩めたり短調にアレンジした場合は効果が現れなくなったようです。
つまり、モーツァルトの曲番号448に限らず、アレグロ程度のテンポで長調の曲ならある程度同じ効果が期待できるんじゃね? ということになります。ホントかぁ~? って感じですが、まあこういう結果がでたのだから仕方ない。どうしても気になるって方は自らを実験体にして試してみてはいかがでしょうか?
モーツァルト効果の研究は、さらに別の方向にも発展していきます。モーツァルトの音楽はなぜか(ここ重要)情緒障害児(11~12歳)を鎮静させる効果がある、という事実が研究により明らかになっています。
分析によると、モーツァルトの音楽がもつ独特な音の周波数に関わる特質が、子どもの心拍、体温などを安定させるとのことです。他にもBGMとして『気分を鎮める音楽』が子どもの集中力を促す効果があったり、もうとにかくなんか知らないけどモーツァルトの音楽は情緒的な鎮静を与える効果があるようです。
基本的に、音楽には上記のような鎮静作用が期待できるので、よく『勉強する時はBGMをかけろ』なんてアドバイスをする方も少なくはありません。ただし、これにはアナタのパーソナリティやら性格やら曲の好みやらが関わってきます。
もし、アナタがスキな曲で燃え上がってしまうような場合は過度な覚醒を促されぜんぜん集中できなくなっちゃう! って場合もあるでしょう。
内向的な方は、もともとの覚醒レベルが集中して勉強するのにちょうどよいので、音楽をかけると逆に煩わしく感じるかもしれません。もし、内向的な方で音楽を利用したいって場合は、勉強を始める15分前からBGMを流して、いざ勉強を始めるというタイミングで曲を切りましょう。そうすると、曲を静かに聞きつつ集中力を研ぎ澄ませた状態で勉強をスタートさせられるかもしれません。
ちなみに、子どもの頃からモーツァルトを聴かせてアタマの良い子に育てようってんなら、上記の通りあまり劇的な変化を期待しないほうが良いでしょう。空間認識能力に短時間のバフをかけるようなもんですから、長期的にやるにはモーツァルトを聴かせ続けるとかいう拷問に等しい行為をやらなアカンのです。いくら心理的に良い響きだからってそれはないでしょう?
ただし、音楽に慣れ親しむことで脳の使い方を広げることは可能です。
幼少期からピアノやってましたとか◯◯やってましたとかいうのはそういう脳の使い方をして育ってきた、という意味です。普通より脳に刺激的な人生を送ってきたという意味では、幼少期からの習い事はやっておいて損はないでしょう。実験によると、やらなくなってから1年経つと効果が薄くなってしまうようですので、そのヘンは子どものやる気と親の洗の――えー、きょ、教育の問題でしょうね。
一説によれば、音楽は他の認知能力とは別の、ほぼ独立した認知だという考え方があります。そのへんは個人的に『多重知能理論』でググっていただければと思いますが、おそらく体感的にみなさんも体感してるかもしれません。他の動物に「音楽を理解しろ」と言っても難しいでしょう。犬が音楽にわんわんしてるのは、たとえばオオカミの遠吠えのように『声』に対し反応してるという認知です。
歌詞が思い出せない。でも音楽が流れると自然と歌えてしまう。これこそ音楽の認知が別物であるという証拠です。たとえば、アナタがスキな曲の歌詞を紙に書いてくださいと言われた時、それをスラスラ~っと書けるかと問われるとむずかしいでしょう。試しにやってみてください。しかし、アナタは歌を歌う時になれば自然と言葉が発せられているはず。紙に書く時も、おそらくメロディーを口ずさんでみたり、思い出しながら書いていくことになるでしょう。
音楽はまさに人間が独自に開発した知能なのでしょう。アナタはどんな音楽を好んで聴きますか? わたしは最近図書館にてモーツァルトを借りましたが……けどアタマが一向によくならないんですがどういうことですかモーツァルトさん!!
アナタの人生に音楽があらんことを。
ノーミュージック・ノーライフ




