【感想】「君たちはどう生きるか」を観てきた_1【ネタバレ】
ネタバレ注意。
注意:はじめの段落はまえがきです。感想本編は次の段落に書くから感想だけ知りたいって方はこの段落はすっとばしてね。あとけっこーネタバレが多くなるから気をつけてください。まあウィキペディアに書かれてる内容以下に収めるつもりです。
宮崎駿氏の「引退する」誰も信じてない説、あると思います。
スタジオジブリといえばだれもが知ってる、世界に羽ばたく日本のアニメ制作会社だね。一時期は本当の意味で『天下』というモノを獲っていた気がします。
『天空の城ラピュタ』にはじまり、となりのトトロや火垂るの墓、魔女宅ぽんぽこ耳すまもののけとまあ錚々たる作品群です。省略した名前を連ねても「ああ、あの作品ね」と通じることが、ジブリアニメというブランドの偉大さを示しているでしょう。
そのなかで第一線を走り続けた巨匠が『宮崎駿』氏です。1986年公開のラピュタから原作脚本監督を務め、2023年の『君たちはどう生きるか』でもまた原作脚本監督を務めて素晴らしい作品を仕上げた。これだけで、世のアニメーターたちがハンカチを噛みながら羨ましがっているように思えます。あるいは尊敬の拍手喝采や「こいつにゃぁ勝てねぇ」という感慨かもしれません。
2023年公開の映画『君たちはどう生きるか』は、事前広告まったくなしという状態で7月14日に放映されました。それまでわかったことと言えば『トリ公のクチバシ下に人の目』的なキービジュアルと、直前で公開された『音楽は久石譲氏が担当する』くらい。それ以外は全くナゾということで好奇心をくすぐられた方も多いのではないでしょうか?
はい、わたしもそのひとりです。ってことで、今回は『君たちはどう生きるか』を視聴した感想を書いてきますが、感想を読む上で必要な事前知識だけ書いときましょう。
このタイトルは明治生まれの作家『吉原源三郎』氏のデビュー作『君たちはどう生きるか』からとられていることを抑えときましょう。2017年にマンガ化されたから知ってる方も多いかな?
ただ物語自体は『君たちはどう生きるか』ではなく、アニメーション中に出てくる主人公がこの本を読んだ、という設定になっています。なので、気になる方は原作小説を読んでみるのも良いかもしれません。新作ジブリ映画のタイトルを見て「なんか説教くさくなりそうな映画だなぁ」と思った方はそんなコトないのでご安心ください。どっちかってと原作小説が説教くさいとされる類の作品ってだけです。
じゃあ、前置きはこんくらいにして早速感想を書き書きしていきましょう。
まずは物語の背景をご紹介。時代設定は太平洋戦争中の『1943年』です。主人公の名前は『牧 眞人』くん。今でいう中学生くらいの年齢です。思春期やね。
物語は彼の母親『久子』を失うシーンからはじまります……ここからすでに『ジブリアニメ』という圧倒感に襲われました。
実写じゃないか? と思わせるほど背景が"リアル"に満ちていました。キャラクターは作画のフレームが無いほんとうに"生き物"のようにぬるぬる動くし、バタバタ動き回る姿はある種のヤバさを感じるほどの描写具合。わたしはオタクでもなんでもありませんが、よくアニメオタクの方が「作画がヤバい」と絶賛する理由がわかったような気がしました。
いやマジでぬるぬるとかそういう次元を超えてました。キャラが慌ててるシーンはほんとうに「ああ、慌ててるんだなぁ」とわかる動きになっていて、セリフや効果音がなくとも『慌ててる』っていうのが伝わるレベル。階段をドタバタ移動してくシーンなんかマジで緊急事態以外のなにものでもなかったわ。
さて、イロイロな経緯があって眞人くんは実母の久子さんを失うのですが、今までのリアルさと比較してこのときの描写は妙に幻想チックというか……そうねぇ、例えて言うなら『眞人の心情を加味した世界描写』になっていたと書いたほうがいいかもしれません。必死になって走り続ける眞人の姿はそのままに、周囲の景色はどこかぼんやりしていて、声がとおくなって、それは眞人が聞こうとしてないからで、彼がその時求めていたものは『母』だけであって――結局、彼は目的を果たせず終わってしまいましたが、この経験がその後の彼に大きな影響を及ぼしたことは間違いないでしょう。
臨床心理に携わる人がこの作品を観たら彼をどう感じるだろう? そのようなことがふと頭に浮かびました。
戦時中の疎開先として、眞人くんは父『正一(読みは忘れた)』の工場があり、同時に母方の実家である田舎へと移ります。その折、正一は母久子の実の妹『夏子』と再婚しましたが……眞人くんはまだその事実を受け入れられないままでいました。
そこから疎開先の描写がありますが、これもまたやっぱり『ジブリ』という感じのアニメーションです。そりゃあもう絶景のひと言であって、昔ながらの日本の原風景というか、ほんとうに『昭和時代の写真』にある風景がそのまま飛び出してきたような舞台がそこにありました。うん、やっぱりジブリだ。ジブリってよか『ザ・宮崎駿』といった書き方のほうがいいかもしれません。
田舎の描写も素晴らしかったですが、わたしがそれ以上に笑ったのが『おばあちゃんたち』の描き方です。宮崎駿氏が書く『ババア』どもはどこかかわいげがあるのですが、今回はそんなババアが大挙して押し寄せてきました。七人の小人ならぬ七人のババアです。いや実際は何人だったっけなぁ……まあいいや。
「やっぱ駿氏はババア好きなんやなぁ……」っとリアルでつぶやいたのはいい思い出。
ババアたちは屋敷の女中でした。で、こっから「ああ、戦時中だわコレ」と思わせるような描写が連続します。っていうかプロローグから戦時中だというメッセージがこれでもかと描写されていましたね。
当時の木造建築はもちろん。人を運ぶ台が用意された自転車に油が詰まりガチな自動車、それらの風景や効果音、キャラクターのセリフまで戦時中のそれを思わせます。女中のみなさんも、正一さんが持ってきた缶詰や砂糖、タバコなどのぜいたく品に群がっていて、当時いかに物資不足だったかがうかがえるところです。
こんな描写ばかりでしたから、この『君たちはどう生きるか』という映画は「戦時中はゼイタクできなかったんだからお前らしゃんと生きろよ」とい駿氏のメッセージなのかな? なんて感じたりもしましたね。
さて、疎開先にはひとつのふしぎがありました。妙なアオサギが屋敷周辺をほっつき歩いてるんですよね。いや飛んでるけど。
当然こやつのことが気になる眞人。んで、アオサギは妙なことに、まるで眞人を誘うかのごとく、森の奥にあるとんがり帽子屋根の洋館に飛んでいきます。っていうか窓へぬるっと消えたわ。気になる眞人はババアどもに尋ねるも「知らぬ、行くな」的なニュアンス。建物の主が夏子の大叔父だということはわかったものの、入り口は埋め立てられて入れないとのこと。
今は入れない。が、やはりきになる眞人くんでした。
さて、この作品ちょくちょく『眞人の心情を察せられる描写』があります。しきりに夢で"母"を追い求めてる描写が最たるものですね。ってかさ、まだ"母"への想いが強い状態で父と継母のキスシーン見せつけられるのはヤバいッスよ(確信)。
正一さんの工場、どうやら戦争に関わるアレコレを作ってるようで地元でも力あるタイプのようです。彼らの会話でもしきりに「裁判~~」とかいろいろ言ってたし、まあ戦争終結間近なタイミングだからタイヘンだったんでしょうね。
眞人くん、母を失うしいきなり環境が変わるしでとても参ってたんだと思います。さらにぼんぼんの転校生がやってくる珍しさから絡まれてしまったことで、彼のなかで何かが切れてしまったのでしょう。
はい、青春の汗は暴れることで解消されるものです。が、彼は意地を張ってなのか父がメンドウなコトをしないためなのか、それとも己のトラウマを悟らせないためか石を自分自身の頭に打ち付けて「ころんだ(メソラシ」なんてことをしちゃうのね。彼のなかで精神状態が『折り合い』つかないんですね。
医者を呼んで外科手術を受けるって描写がまさに『昭和初期』って感じがしてよかったです。と同時に、このヘンで「これは宮崎駿の宮崎駿による宮崎駿のための映画だ」なんてワケワカメな感慨をもったりしたのですがいかがでしょうか?
さて、このヘンでアオサギのちょっかいがしつこくなってきます。アオサギの存在についてはイロイロと妄想が捗るのですが、とにかくこやつは「母は死んでない。アナタを待ってるよ」的なメッセージを出すんですよね。まるで眞人が望んでることを宣言してくれてるワケだけど……このあたりで映画を視聴中のわたし、妄想が捗ってきました。
これらすべてをそうとまでは言わんけど、ある程度『(精神が不安定になった)眞人の生み出す幻想』がちらほら混じってるような気がします。リアルとふしぎ、そして眞人の幻想の3点セット。まだ継母を『母』として受け入れられない眞人は、森の中へ消えていく継母を気にも留めませんでしたねぇ。
どこまでがボーダーラインかはわかりませんが、眞人くんが『折り合い』をつけるきっかけと出会うことになります。それこそが『君たちはどう生きるか』 ――まさに映画の題名となった小説です。作品中の眞人くんは、自室に散らばってしまった本を整理する際これを手に取りました。
彼はこの小説を読み感動の涙を流します。原作小説はあらすじしか知りませんが、主人公の少年とその叔父がいっしょに多くの体験をし、叔父が少年にノートを通して『メッセージ』を贈る、という内容。そこにはものの見方、考え方、関係、社会構造などがふんだんに盛り込まれており、最終的に少年は「自分はこう生きる」というメッセージを叔父に書き終了するというもの。
この物語を見て、眞人は何を感じたのだろう? なにをどう揺さぶられたのだろう? それについては原作小説を読むと『眞人の心情』に近づけるかもしれませんが、劇中たった数十秒間しかないこの描写のなかに、この作品の『すべて』が詰まってるような気がします。
少年はここで『折り合い』をつけるきっかけを得たのでしょう。そして、この『君たちはどう生きるか』という作品は『母からの言葉』だからこそ響いたのでしょう。さて、ここから話が大きく揺り動くのですが――今回はこのヘンで区切りましょう。このアニメ、たった3000文字で感想を書ける代物じゃありませんです。
アナタはもう『君たちはどう生きるか』を観ましたか? 実は公開されてることすら知らなかったなんて方もいるかもしれませんね。わたしが観に行った映画館、座席はだいたい40%くらい埋まってる感じでした。これが多いのか少ないのかわかりませんが、事前広告いっさいナシでこの結果はすごいのではないでしょうか。
創作に触れることで、人の心やより豊かになっていきます。もし興味がおありでしたら、ぜひとも映画館へ足を運んで眞人くんの成長物語を見守ってみてください。実はわたしたちのほうが(駿氏から)説教を食らってた、なんてオチが待ってるかもしれません。
原作小説も呼んでみようかな? ――ってことで今回はここで打ち止め。残る感想は次回までのお楽しみとしましょう。アナタの人生に乾杯。
結論:本を読め