ロールシャッハの投影法
色彩心理は未だ発展途上の分野だと思います。今回はそんな色を使った心理テストを紹介してみようと思います。
色には力がある。これは心理学的にだいぶ研究が進みわかってきたことで、私がよく例としてあげるのは『赤と青』の対比です。これらは実際に身体に影響を与え、脈拍などに強く現れる要素です。みなさんのイメージ通り、赤色を見ると脈拍などが上昇し、青色には鎮静作用があります。これを利用したコーディネートなどもありまして、例えば赤一色の部屋であれば1日中興奮してしまって夜も眠れなくなるかもしれません。逆に寝室を青を基調とした落ち着きのある色づかいで揃えると、わりとそれだけで快眠できる人もいるかもしれませんね。
もちろん、色の心理学は数ある要素のひとつであるのでそれ『だけ』ですべて解決するとは断言しませんが、それでも色にはたしかな力と可能性が秘められていることはすでに現代科学が証明済みなのです。
本日はこの『色』を利用した様々なテストやリラクゼーションを紹介できればと思います。
色を扱う心理テストはよく『投影法』と呼ばれています。これは『ハッキリとせず曖昧で多用的な刺激』を対象者に見せ、それらに対して『自由な反応』をさせそれを分析するという手法です。ようはその人の発想に着目するのです。発想とは心の奥にある基本的感覚から生まれるものですから、人の心の奥深くを観察するにはもってこいというわけですね。
曖昧で多用的な刺激。これはつまり『どうとでも言える』みたいなものだと思ってください。有名な投影法のテストは『ロールシャッハ・テスト』でしょう。しかし、投影法はただのテストではなく治療としても扱えます。本人に己の気持ちをありのまま話させたり、自分の感じた世界を眺めつつカウンセラーと『深い理解と共感』をうまく生み出し自己を見つめ直す機会を得られます。
ロールシャッハの他にも、たとえば曖昧な図板を見せて対象者に頭の中でそれらをつなぎ合わせたストーリーを考えてもらう『主題統覚検査(TAT)』や、言葉にたいしてどのような色をイメージしたかを答えてもらう『色彩象徴テスト』など、投影法には様々なアプローチ方法があります。曖昧な世界でテストするということは、その人からにじみ出る深い心の部分もわりと滲んだような形をとります。こういったテストは他のテストと併用するか時間をかけ数をこなしていくことでジワリと効果を発揮していくのでしょう。
『ロールシャッハ・テスト』は投影法でも最も歴史ある、そして現代でも広く使われているテストです。1921年にスイスの精神科医『ヘルマン・ロールシャッハ』により考案されたものです。まるでペンキをぶち撒けたような、本当になんの意味もないような模様に対しどのようなことを感じたか答えてもらうテストです。おそらく画像検索で溢れんばかりに例が表示されると思うので検索していただきたいと思うのですが、どれもこれもほんとうに『意味のない』模様でしかありません。それら10枚ほどの図版を対象者に見せ感想やイメージしたものを聞かせてもらい、そこでどのような言葉を使ったか、どんなイメージをしたか、イメージしたときの挙動はどうか? など大量の情報を集めて分析に役立たせます。
10枚の図板の色使いは『黒のみ』や『黒と赤のみ』のもの、それと『多色表現』の3パターンあり、これらを見た被験者の回答パターンから『思考、感情、行動パターンから病理性』まで多くの側面を考察できます。色彩に対する反応は主に情緒的側面、形態への反応は知的側面に繋げられ、対象者がどのようなバランスで答えているかも分析できる。たとえば「これ虫っぽい形をしているなぁ。そういえば近所にこういった虫がいたよ」という答えならば形態を主として見ているので、対象者にはどちらかというと知的側面のほうが大きのでは? という推察ができます。もちろんこれひとつで断定できませんから、合計で10枚のテストをしますし、質問などをして心にある無意識を開放させようともします。
色に対しての反応も面白い。暖色と寒色でそれぞれ感情や行動を表に出すか抑圧するかなどを考察できますし、例えば『赤色』に強く惹かれつつ、しかし嫌悪しているという相反する反応を示す場合は『ヒステリー患者』に多い傾向だそうです。色の好みはあれど、心の奥、つまり本能で反応する色までも暴くことができるのは投影法ならではの面白さですね。
このテストだけで非行少年を高い確率で的中させたとして、現代でも公的機関や医療機関で盛んに利用されている手法です。すべての投影法や色彩的心理テストは『色は人間の情緒に直接働きかけ、反応にはちゃんとした意味がある』の前提から行われます。もしアナタがこのような実験を受ける機会があったのなら、どうか心をおおらかにして色に対して正直に受け止めましょう。ムリして隠そうとしてもわりとわかっちゃうものなので、隠そうとしている、心に壁をつくっているな? という分析をされてしまう可能性が大きいですわよ?
このテストが生まれたのは、生みの親であるロールシャッハの父が画家であったことや、幼い頃に『クレックス(インクの染み)』というあだ名をつけられるほどいつも絵を描いていたことがあったからかもしれません。
1884年に誕生した彼は、彼ははじめ芸術家を志しつつも、高校卒業前に己の道に迷いドイツの生物学者である『エルンスト・ヘッケル』に手紙を送ったようです。ヘッケルはダーウィンの進化論が広めるきっかけとなった人物でもあり、心理学や哲学などにも理解ある人物です。結局彼の後押しでチューリッヒ大学の精神療法家を目指すことになりました。後に精神医学に大きく貢献した『オイゲン・ブロイラー』の弟子となり『カール・グスタフ・ユング』のヒステリーにまつわる精神病理学も聴講していたようです。しばらくは医者としての人生を歩み、スイスの宗教学などにも足を踏み入れるなど迷走(?)するも、1919年に精神分析学の実験が評価されスイス精神分析協会の副会長に任命されたようです。そして1921年に『精神診断学』という書物の主著となり、そのなかでこの『ロールシャッハ・テスト』を発表したのですが、この時期には末期の盲腸炎を起こしてしまい、1922年に37歳という若い人生を終えました。
しかしロールシャッハ・テストは大きな効果を生み出すため、後にフランスの心理学者『アルフレッド・ビネー』が理論を発展させ、最終的にアメリカの心理学者『ジョン・E・エクスナ―』が現代の洗礼されたシステムにまで研磨していった。彼は生涯にわたりロールシャッハ・テストの研究にうちこみ、その貢献により1980年にブルーノ・クロッパー(アメリカの心理学者に贈られる権威ある賞)を受賞した。
ロールシャッハが作り上げた理論は、はじめは偶然できたインクの染みを利用しようとしたものでした。それが現代ではこういった積み重ねのもと、世界中の人々の心理テストとして用いられています。いまだ議論が多いこのテストですが、彼が精神分析界に残した功績は多大なものでしょう。もし、彼が夭折することなく己の理論を発展させ続けることができたらと思うと非常に残念でなりません。
人の心はただ1度のテストで全てわかるわけではありません。ですが、ちょっとした話の種として、もしくは友人たちとの楽しい語らいの手段として、このテストをやってみてはいかがでしょうか?
ロールシャッハって名前だけだとなんかスッゲー強そうな技に感じる。これもひとつの性格診断。




