朝の添い寝と請求の目覚まし
◇
午前8時。起きろと言わんばかりの大音量で、スマホのアラームが鳴りだす。
「んん……」
眠い目を開きながら、アラームを止め、起きる…… のではなく、アラームのスヌーズ機能をセットする。始業までに余裕があるこの時間帯に鳴るようにアラームをセットし、二度寝・三度寝を貪ってから起床するのが私のルーティンなのだ。身体に良くないと知りながらも、私は自身の体温で温かくなった布団に再び潜り込む。
すぅ……
小さな寝息がひとつ。
(……ん?)
今の寝息は私のではない。違和感と少しの恐怖を覚えた。私の横腹に何かが当たり、布団も不自然に盛り上がっているのだ。
私は被っていた布団を払いのけた──
「!?」
目に映ったものは、昨晩のあの謎の少女だった。幻覚じゃなかったのか。私の布団の中で、私の隣で、それは心地良さそうに寝息を立てている。
昨晩はよく眠れたのだ、疲れているはずがない。ともすれば、まだ夢から覚めていないのか。私は夢から覚めるときのお約束のように自分の頬をつねってみるが、ちゃんと痛い。夢ではない。
「ふわぁ…… ん…… おはよぉ、ほのちゃん……」
少女が目を覚ます。起き上がり、目をこすりながら私に朝の挨拶をしてきた。
「なんであなたがここで寝てるの……!?」
「昔は一緒に寝てたよ?」
目が醒めきっていないのか、寝ぼけたことを言っている。『寝言は寝て言え』という言葉が相応しいのは、この少女の今の状態以外にないだろう。
「……ねえ、あなた何者なの……?」
「わたしはほのちゃんが持ち主の、くまのぬいぐるみだよ。昨日も変身を解いて見せたよね?」
変身……? なんのことかさっぱり分からない。
さも当然のように言っているが、人間に変身するぬいぐるみなどいるはずがない。
「そうだ!補修サービスのスタッフさんから、ほのちゃんに渡してほしいものを預かってるんだ!」
「?」
彼女はベッドから降りて、昨晩家に押しかけてきたときに持っていた小さなカバンの中から封筒を取り出し、私に差し出した。
受け取った封筒の中には、紙が2枚。1枚の内容は手紙だった。
『この度は本サービスのご利用、誠にありがとうございます。お帰りになったパートナーとの暮らしが華々しいものになることを、スタッフ一同、心よりお祈り申し上げます。同封されている請求書の額を下記の口座にお振込み下さい。』
読んだ後、2枚目の“請求書”に目を移す。
記されていた数字は、左から1、2、4、8、続けて0が2つ。
「じゅうにまん、よんせん、はっぴゃくえん……!?」
驚きで目が覚めてしまった。いくら何でも高すぎる。『お命吹込み』故のものなのか……?
命の重さを金で測れないのは当然だ。それと比べれば十万など大した額じゃないだろうが……
(それにしたって高すぎるでしょ!? せいぜい5万とかじゃないの!?)
…いや待て。もしかするとこれは詐欺かもしれない。きっとこの子は詐欺集団に加担させられているんだ。昨晩は疲れ果てて頭も働かなかったが、今考えるとその線だってあり得る。
私が利用したサービスは『ルピナス』。もし本物からメールが来ていなかったら、すぐにこの子を追い出せばいい。そう祈りつつ、私は急いで溜まった未読メールを洗いざらい確認した。
その中の差出人リストには、『ルピナス』の文字が──
なかった。
鼻炎、ぴえん
じんましん、ぴえん越えてぱおん
早くもスランプ気味なんですが大丈夫ですか?
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