お手続きは引っ越しと共に
お気に入りのぬいぐるみには魂が宿る──
そんなことを親から教わり、3歳の誕生日に、クマのぬいぐるみをプレゼントしてもらった。私はその愛嬌のある顔に釘付けになった。それ以来、幼い頃はどこに行くにも一緒で、遊園地、旅行先、親の帰省先にも連れて行ったものだ。
歳を重ねるにつれて学業が忙しくなり、ぬいぐるみと相手をする時間も無くなっていったが、それでも手放そうなどとは微塵も思っていなかった。「親からもらったものだから大事にしよう」とかそういうことではなく、本当にお気に入りだったから……
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「よし、だいたい片付いたかな」
高校を卒業し、春から大学生になる私、藤島葡華は、進学先が遠方にあり、一人暮らしをするべく引っ越しの荷造りをしていた。私物を一通り段ボールに詰めた後、
「あとはあなただけね」
最後の品、誕生日にもらったクマのぬいぐるみに手をかける。出会った当時は柔らかな肌触りだったその感触は、一緒に暮らしていく内に失われてしまい、色も黒ずみ、目もくすんで輝きを失っていた。
(もう洗ってあげられるのも限界かな……)
汚れる度に何度か自分で洗ったことはあるが、これ以上素人知識で洗おうとすると、もう布地も持たないだろうと親からも言われ、洗うのを諦めようとしたが……
── そういえば
ふとネットで話題の「ぬいぐるみ 補修サービス」があるのを思い出した。急いでスマホからサイトにアクセスする。
ぬいぐるみ 補修サービス『ルピナス』。このサービスは名前の通り、ぬいぐるみを直してくれるものだが、コースを選ぶことで必要な補修オプションをセットで選択できるシステムになっている。シミ抜き、目の輝きの入れ直し、ほつれなおし、綿取り換えなど、様々な修繕オプションがあり、コースには『布地移植』『身体矯正』『エステ』など、ぬいぐるみの補修らしからぬコース名が並んでいた。
「ぬいぐるみの病院みたい……」
と少し笑いながら、最後のコース名に目を向ける。
『お命吹込み』という一風変わった名前のコース。大方、設けられているオプションを全て詰め込んだものだろう。
(これならまだ直せるかも……!)
最後の望みをかけ、早速申し込みを始める。
「葡華ー? ちゃんと荷造りしてるの?」
別の部屋から聞こえる母の声にも耳を貸さず、手続きを進めていく。費用はそれなりにかかるだろうが、バイトをすれば何とかなるだろう。
そんな考えで「お命吹込み」コースを選択し、申し込みボタンをタップした。
初めまして。始めました。本当はマンガにしたかったのですが、
画力がお察しなもので…ええ
よろしければブクマしていって下さいね
著者が泣いて喜びます