喫煙者のちょっとした呟き
分煙化が進むこのご時世、元は赤地に白く「たばこ」と書かれていた古めかしい看板は赤銅色に錆びて、行き場をなくしたように煙草屋の脇の生い茂った雑草の中に押し込まれていた。
『今日も元気だ煙草がうまい』
そんなキャッチコピーが過去にあった事など忘れてしまったかのように、喫煙者は随分と肩身が狭くなった。
やれ分煙だの禁煙だのと追いやられ、右肩上がりでホタル族が増えていく。
昔ながらの煙草屋の店内に貼られたポスターはすっかり色が褪せ、「贈答に煙草をどうぞ」と時代に取り残されたまま喫煙を推奨している。
わずか百年ほど前、日本で煙草税が上がるのは、大抵戦争が始まる前だった。
日清戦争しかり、日露戦争しかり。
それが、日本が平和になった現代では財政困難になる度に値上がりし、今や煙草の六割は税で出来ている。
どこぞの鎮痛剤の優しさより多いのだ。
煙草税が上がる度、「一箱幾らになったら煙草をやめるか」という議論が持ち上がるが、所謂「ニコチン中毒者」という奴は、恐らく一箱千円ほどにならないと喫煙本数を減らす事すら考えないと思う。
《喫煙者は喫煙行為によって何らかの病気を発症し、その治療の為の保険料が財政を圧迫する。》
政府の見解はこうだ。
それなら禁煙外来は当然普及して然るべきだが、未だにその認知度は低い。
気になって調べてみたが、在住市にはないと思っていた禁煙外来が三カ所もあった事に驚いた。
市の広報に挟まっている保健センターだよりにも、禁煙外来がある病院のリストは載っていないのに。
これでは、未だに「禁煙は自発的に、そして個人の努力のみで行うものだ」と言っているようなものだ。
政府はもっと本腰を入れて活動すべきだと思う。
そんなに保険料を抑えたいなら、煙草の販売時に、一緒に禁煙についてのリーフレットと、ついでに試供品として一回分のニコチンパッチを配布すればいい。
最初から丸ごとニコチンパッチに切り替えるのではなく、吸いたい時に吸えなくて苛々してしまう時の為に保険として携帯しておけば、「煙草が切れた。でも今すぐには買いに行けない。そうだ、試供品を使おう」となれば、ニコチンパッチを使用するきっかけにならないだろうか。
今時、性病対策としてコンドームを配布している非営利団体もあると聞く。
なぜ政府は率先してそれに倣おうとしないのか。
答えは簡単だ。おそらく煙草の税収が下がると、それに比例して貴重な稼ぎが減って困る、というジレンマがあるからだろう。
電子たばこには疎くて申し訳ないのだが、わざわざセットを買って吸うほどには煙草を吸わないので、多分これからも気が向いた時や苛ついた時に好きなように吸うと思う。
なので、増税直前に駆け込みでカートン買いをする予定だ。
今は煙草を吸っていないので確実に賞味期限を切らすだろうが、それよりも安く買う方を選んだ。
もともと地元にはその銘柄を置いている店がないので、一番近い店までは電車に乗って行かなければならない。
今後も同じ銘柄を吸い続けるなら、店まで買いに行って帰ってくる為の電車代も上乗せされてしまう。
そんなにたくさん吸う方ではないが、塵も積もれば、だ。
電車の往復代で煙草一箱買える、というのは凄く損をした気持ちになるし、勿体ない。
ちなみに俺は、一年通して煙草一箱ぐらいのペース、長いと数年も煙草を吸わない事があるので、周囲には俺が喫煙者だと知らない人が多い。
単純に、吸わない人と一緒にいる時は気を使って吸わないだけなのだが。
煙草を吸う人と一緒の時は「俺もいいですか?」と確認してから吸っている。
これは俺の吸っている銘柄のフレーバーが強いから、「匂いがしますが大丈夫ですか?」という確認の為だ。
煙草の匂いは好きだがヤニ臭いのは駄目、という何とも微妙な嗜好なので、すれ違いざまに香った煙草の銘柄が気になったり、普通に話している相手のヤニ臭さに閉口したりと、結構忙しい。
煙草を一本吸うだけで手がヤニ臭くなるので、それが気になっていちいち石鹸で手を洗うような人間は、そもそも喫煙に向いていないのではないかとも思うが、吸うと精神的に落ち着くし、何より香りが好きなのだ。
今まで色々な銘柄を試してみたが、結局今の銘柄に落ち着いた。
なので、一度だけバイト中に物凄く好みの香りがした時、お客さんに「すみません、それは何の銘柄ですか?」と聞きたくなった事がある。さすがに仕事中なので聞けなかったのは残念だが、あれは何だったのだろう。未だに気になっている。
こんな喫煙者と呼べるかどうか分からない奴の独り言をお読みいただき、本当にありがとうございます。
非喫煙者の皆様、一部のマナーの悪い喫煙者がご迷惑をおかけ致しまして、本当に申し訳ありません。
喫煙者の皆様、これからもマナーを守って喫煙して下さい。
禁煙の努力をされている方、頑張って下さい。くじけそうな時は、お近くの禁煙外来を受診して、お医者さんのサポートを受けてみて下さい。近道なんてありません。まずは本数を減らすことから、着実に一歩ずつ進めていきましょう。