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花言葉

作者: 柚子

「今日、帰り家寄ってくれる?」


1週間ぶりに来た彼女からのメール。

仲が悪いわけじゃない。

だけど、もう4年も付き合っていたら毎日ラブラブなメールを

しなくたって、そんな頻繁に会わなくたって・・・というのが俺の考え。

きっとあいつもそう。

今でも大好きなのには変わりない。


「いいよ。でも、どうした?」

「なんでもないよ。なんか会いたい気分なだけ。

 田舎から野菜も届いたし楽しみにしてて!」

「了解。18時くらいには着くように行くよ」


今日はちょっとゆっくりめに仕事するつもりだったけど、急ぐか。


結局上司に捕まったり、部下がヘマをしたりと色々あって、

19時前になってしまった。


「ただいまー」

「あ、お帰りー」

「ごめんな。お前のことだから来る時間に合わせて作ってくれてたんじゃ?」

「何年の付き合いだと思ってんの。それはちゃんと考えてるわよ。」

「何だそれ。あ、今日泊まっていい?」

「あー、今日は帰って。ごめん。明日早いからゆっくりしたいの。」

「そっか。まぁ、仕方ないか」

「とりあえず座ってよ。もう出来るしさ」


テーブルから彼女を眺めていると、愛しくなる。

なのに、まだプロポーズも出来ない自分の意気地なし加減には

ため息がこぼれる。


「なに?仕事で何かあった?」

「いや、考え事。おー!田舎の野菜来たとき特製カレー」

「ネーミング。頭の悪さが出るわね」

「うっせえ。俺の方が学歴上だろ」

「出た、学歴ひけらかしてくるやつ」

「こんにゃろ!」

「いたいってww」


そんなくだらない言い合いで笑って、たまにチグハグな言葉の

キャッチボールで話して、それなりにお酒も入ったらちょっとずつ

スキンシップを増やしてって・・・

片付けを終えて、一段落した後、向かい合わせになった彼女が

いきなり抱き着いてきた。


「・・・何があった?」

「え?」

「特製カレー振舞いたいがために俺のこと呼ばないだろ?」

「だから、なんか会いたくなったんだって」

「そんな泣く一歩手前な顔ずっとしてんのに?」

「・・・」

「責めてるんじゃない。ただ心配してんだよ」

「あたしのこと好き?」

「好きだよ」

「どんなことがあっても好きだって言い張れる?」

「当たり前だろ」

「約束ね?裏切りはなしね?」

「一体どうしたんだっ」

「その前に渡したいものがある」


そういって彼女は隣の部屋から花を持ってきた。


「これ、スイートピー。あたしね、いつ倒れるか分からないの。

 いつ消えるか分からないの」

「俺はお前の言ってることがわかんねっ」

「最近連絡が時々だったのはしなかったんじゃない。

 出来なかったから。

 ここ半年くらいかな?たまに病院に行ってたの。

 でも、病名とか全然わかんなくてさ?

 普通に生活出来るの。普通に仕事して、遊んで、恋して。

 でも、どんどん蝕んでってんだって、何か分からないものがあたしを。

 それで今日ね、久々に病院に行ったらね先生に言われたの。

 -もういつ倒れてもおかしくないです-って。

 もしかしたら50年生きれるかも知れない、だけど、もう1週間も

 生きれないかも知れない。26にしてさ、人生ギャンブルになる

 なんて想像しなかったよ」


言葉が出なかった。

こんな時なのに涙も見せないんだ、こいつは。

きっとずっと前から覚悟決めてるからなんだろな。


「でね、スイートピー。花言葉はね『私を覚えていて』なの。

別にもう恋をしないでとか言ってるんじゃない。

あたしより燃える恋をしてくれてもおおいに結構。

だけど・・・だけどね?こんな訳の分からない女と

付き合ってたってことだけは覚えててほしいの」

「覚えててって・・・別れるってことか?」

「こんなギャンブルに巻き込めない。

 あれだけはっきり好きだって言ってくれたその気持ちだけで

 あたしは大丈夫。分かってるでしょ?そんなに弱くないんだよ」

「弱れよ。頼れよ。なんで抱え込んでんだよ。何のための恋人

 なんだよ。この4年間、俺は遠慮ばっかさせてきたのかよ。

 そんなことも言えないほど俺はっ」

「本当は何も言わないままさよならするつもりだったの。

 何聞かれても押し通そうって。だけど、やっぱり最後に会いたくて。

 その変わらない優しさと温もりを最後にもう一度確かめたかったの。

 我儘に付き合わせてごめんなさい。」

「我儘だなんて思うかよ。そんなことなら一晩中抱き締めててやるよ。

 出来る範囲のお願い聞いてずっと話して笑わせてやるよ。

 今日だけじゃなく、ずっと、さ」

「あーズルいんだー。ずっと意気地なかったくせにこんな時だけ。

 ・・・・でも、もうおしまい。願いを聞いてくれるっていうのなら、

 このままさよならさせて。ほら、立って!歩いて!・・・・・ね?帰って」


これがこいつの最後の願いなら。

我儘だということで通すなら。

何を言っても無駄だろう。

押し付けてきたスイートピーを持ち、最後の口付けを交わし、俺は家を出た。



3ヵ月後、彼女は死んだ。

葬儀には行かなかった・・・いや、行けなかった。

せめてもの思いで、場所を聞いて墓参りに向かった。

そして、見つけ出したお墓にスターチスを供えた。

花言葉は『変わらぬ心』『途絶えぬ記憶』

女々しいと思われたって構わない。

誰かと恋をしてもいいって言ってたけど、まだまだ

そんな気にはなれない。

似ている人がいると今でも後を追いたくなるんだ。

だから、いつかまた、どこかで。

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