少女の決意
遅くなった上に内容が少し雑なところもあって申し訳ないです。
何とか次々と投稿できるようにしますのでよろしくお願いします。
「だ……大丈優一さん」
無茶をして闇雲に悪霊に立ち向かって返り討ちになった玲奈を助けた人物。命の恩人と言っても過言では無い優一が、玲奈の病室にわざわざ足を運んでくれた。
「覚えてくれていたか……すまないが君の嘆きを少し耳にしてね……ここに寄ったんだ」
すると優一は玲奈のベッドの側にある椅子に腰を下ろした。
「単刀直入に聞くけど、大丈夫かな?」
優一は玲奈の顔を真剣な眼差しで見つめた。玲奈は何も言わずに、首を縦に下ろす。
「水澤ちゃんは……ホープ隊員を諦めているのかい?」
「……はい。体が完治次第、私はいつもの日常に戻ります」
玲奈は優一の問いに感情的にならず、目に浮かべていた涙を軽く拭き取った。優一は腕を組んで「ん~」と困った顔を浮かべた。
「私は決してしてはいけないことをしてしまってこんな目に遭っているんです。完治してホープの入隊試験を後日受けても経歴を見られて即不合格です……だから……もう覚悟は出来ています」
「……それは思い過ごしだ」
玲奈の心から出た言葉を優一は跳ね返す。
「ここホープ本部には皆真面目な経歴を持った奴なんてほぼいない。むしろいてもらっては困るくらいだ。何故だかわかるかな?」
玲奈は首を横に振って「分かりません」と静かに呟いた。優一は少し微笑んだ表情で答えを述べた。
「クソ真面目な奴ほど、いざって時にチキって逃げてしまうんだ。だから多少色んなところに問題を抱えている奴の方が果敢に立ち向かって悪霊から人々を守るんだ。君は俺から見たらホープ隊員として一番光るものを持っていると思うよ。諦めないでもう一度、夢見るホープ隊員になってみないか?」
優一はハニカミながら玲奈を見つめるが、玲奈の心は変わることはなかった。
「でも……駆けつけた隊員の人も言っていたことの方が私は正解だと思うのですが……」
「ん? ……ああ、仁のあの言葉か……まあ、確かに人によっては勝手な行動をとる命令無視し放題の奴は煙たがられるだろうな」
玲奈は優一から目を背け、拳を作った。
「まあ、それは入隊してからの問題だな」
「え?」
「仮入隊の身分で取り消しになる条件は3つ。1つは仮入隊者が仮入隊期間中に死亡した場合。2つ目は悪霊の世界に踏み込み、いかなる情報でも漏らした場合。そして3つ目は……身近な人の思いを踏みにじり、人を裏切ること」
玲奈は3つ目の条件を聞いた瞬間、頭の中に遼と詩織の顔が真っ先に浮かぶ。そして急に身体中突き刺さるような寒気に襲われて、呼吸が荒れ始める。
「学生の場合、仮入隊期間中は学校の先生が君らの行動、言動を記録し、ホープ本部に提出している。取り消し通告が来ていないということは、今日まで君は3つの条件を破ることなく、過ごして来たということだ。……でも君のホープ隊員を諦めるという言葉は3つ目の人を裏切る項目に当てはまるんじゃないかと俺は思ってる」
「な! 何を根拠に言っているんですか!!」
冷静を保っていた玲奈だったが、遂に優一の一言で感情的になってしまった。
「俺がここに来る前に君の友達2人とすれ違ったんだ……2人にはすまないが、2人の感情を俺は見てしまった。そして見えた2人の感情は喜びだった……ここまで言えば分かるだろ?」
「やめて!! ……もう……聞きたくない……」
耳を塞ぐ玲奈だが、優一が無理やり目を合わせさせようと、顔を上げさせる。
「目を背けるな! あの2人は……君がいつまでも自分たちの側にいてくれると喜んでいたんだ! 君は2人の思いを踏みにじろうとしているんだ! 分からないのか? 入隊以前の前に人として最低なことをしようとしているんだ!」
「もうやめて!!」
病棟全体に響き渡るかのような玲奈の叫びによって、優一はしばらく話かけなかった。
「……はぁ、面倒くせぇなぁ~」
すると優一はナノマシンの通信機能を使ってある場所に連絡を取った。
「おーい、先生。水澤ちゃんの点滴チューブ外してくれますか?」
「な!」
優一が通信を断つと、玲奈の検診をしてた医師と看護師が、30秒で戻って来たのだった。そして体全体に打っている点滴のチューブを次々と外し始めた。
「水澤ちゃん。点滴を外し終えたらこれに乗れ」
優一は車椅子を用意し、再び座っていた場所に座り込んだ。
50本近く繋がっていた点滴を外し終えた医師と看護師は器具を片付けて、足早に病室を去って行き、玲奈は優一に言われた通りに車椅子に腰を下ろした。
「あの……なんのつもりですか? 優一さん」
玲奈の言葉を優一は返すことはなく、玲奈を乗せた車椅子を病棟の中央にあるエレベーターまで運んだ。
「……あの優一さん、そろそろ……」
「今は黙ってろ」
優しく玲奈を説得していた優一の口調が一変、冷たく、心を鋭く突き刺す口調になっていた。
そしてエレベーターに乗り、優一は静かにある特定のフロアのボタンを押した。エレベーターの扉は閉まり、静かに下の階へと降り始めた。
「水澤ちゃん。俺はあまり重症の怪我人を無理矢理病室から出したくはないが、君には目に焼き付けて貰いたいものがある」
優一が指定したフロアにエレベーターは止まり、静かに扉は開く。エレベーターが開いたその先の景色は、妙に眩しく感じた。
着いた階は飲食を行うフロアのようで、ふと飲食店の敷地の前を通るだけでも様々な料理の匂いが漂う。そしてCafeと書かれた看板が立っている敷地に入り、窓際の席に優一は玲奈を座らせた。
「何を飲む?」
メニューを見て玲奈は静かに「微糖のコーヒー」と呟く。優一は自分の分の飲み物と玲奈の頼んだ飲み物を注文した。そして横にある窓を見つめて、テーブルの上に置いてあった謎のリモコンを手に取った。
「ここのカフェの窓はな、各訓練施設の映像をリアルタイムで見ることができるんだ。だから……」
優一がリモコンのボタンを押した瞬間、窓ガラスがテレビのようにある映像を映し出した。映像の内容は遼と詩織が訓練をしているものだった。
「遼……詩織?」
遼と詩織がバトルサポートによって作り出される翼を羽ばたかせ、弾幕が飛び交う中、飛んでいた。
「今、2人がやっている訓練は無数の弾幕が飛び交う中、空中での回避方法を身につける訓練だ。いくら学校で飛行訓練を授業でしているとはいえ、ホープの1時間耐久回避訓練は新人にとって過酷な訓練の1つだ」
「い、1時間耐久!?」
「よく見てみろ」
玲奈は映像を更に注視して見てみると、2人は完璧に回避してなく、腕や足を掠めていてギリギリの状態だった。そして詩織の翼に弾幕が被弾し、詩織のバトルサポートが強制的に終了して、地面に向かって墜落する。墜落する詩織を気にかけた遼も、一瞬の気の緩みが仇となり、弾幕が翼に被弾し、詩織の後を追うように墜落していった。
「ああ!!」
「大丈夫だ。ホープの訓練はナノマシンを活用して、本人たちの意識を訓練専用の2次元の世界に送って行うんだ。つまり、向こうの世界で怪我をしたり、死亡に至る出血、怪我をしても現実世界では無傷。本来翼が損傷したら飛行用のバトルサポートを1時間使用できない仕組みだが、向こうの世界ではなんでもあり。その上どんな怪我でも教官の指示1つで治癒する仕組みになっているんだ」
「でも痛いんじゃ……」
「どうだろうなぁ? 痛覚は有り無しに変更することは自由だけど、どうやら2人は有りにしているようだね」
「そんな……」
「本来この訓練はBランク以上の隊員が強制で行う訓練だが、2人はまだ入りたてのCランクで、ここまでこなせるのはすごいと思うよ」
玲奈は机を思いっきり叩き、優一に向かって荒々しい口調で怒鳴った。
「今すぐ訓練をやめさせて! いくら現実の体が無傷だとしても精神的に傷つきます! そもそも何でCランクの隊員がこの訓練をしているんですか!?」
「訓練は強要してない。あの2人が進んでやると言ったんだ」
優一は冷静に言葉を返したが、玲奈は止まらなかった。
「そんなの嘘だ! あの2人が自殺行為なことはしない!」
「本当だ。よく見て、聞いてみろ」
優一は映像に目をやり、玲奈は一度深呼吸をして映像を見た。
墜落した2人に駆け寄る男女2人の訓練教官がいた。そして教官2人が詩織と遼に何か話しかけていた。
「どうした? もう終わりか?」
「まだ開始して10分も経ってないぞ。やめるか?」
教官2人は詩織と遼の様子を見て辞退するかどうかを聞いていた。
玲奈の心の中では2人はやめると思っていた。しかし2人は立ち上がり、少し微笑んだ表情で教官2人に「いえ、このまま続きをさせてください」と頭を下げていた。
「え? ……何で?」
「どうしてか分からないか?」
玲奈は答えることが出来ず、只々立ち上がって再び無数の弾幕の中に飛んでいく2人を見ていた。
「……これは俺の仮説……いや、確実に言える事を言っておこう。2人は君が戻ってくるまでに力を身につけると強い想いで無茶をして訓練に挑んでいるんだ。余計な事を考えず、ただそれだけを思っているんだ」
「そんな……詩織……遼……そこまでして私を」
「簡単な話だ。2人とも君の持っている才能をもっと輝かせたいんだ。類い稀な才能に君は気づいていない。ただ彼らは君の才能に惹かれて、今もこうして信じ切って、血が滲むような訓練を行っている……2人の想いに今一度答えてやることは出来ないか?」
優一は玲奈の目を真っ直ぐ見つめ、ただ1つの答えを待っていた。優一の言葉を聞き、遼と詩織の姿を見た玲奈は、心の中にある弱い自分を捨てた。
「……優一さん」
玲奈は深く息を吸い、優一の紫色の瞳を見つめた。
「私、戦います。ホープの隊員になります!」