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禁書図書館へようこそ  作者: 徳川レモン
三冊の禁書
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第三話 宮木隆


 今日は学校は休みだ。僕は部屋で勉強をしている。


「ΘΛ*§」


 召喚しているシフルが話しかけてくるが、何を言っているのかさっぱり分からない。ただ、クレヨンを渡してやると喜んでお絵かきを始めた。


「どれ、見せてみろ」


 画用紙を取り上げると、僕らしき人物とシルフらしき人物が、敵と戦っている様子が描かれていた。色から察するに敵は炎を使うみたいだ。


 ……ちょっと待てよ。

 もしかしてシルフの能力って予知とかじゃないのか? 


 そう思ってシルフを見ると、ニコニコと嬉しそうだ。

 まさかな……予知ならかなり大きな情報源になるが、そう上手くはいかないだろう。


 シルフを召喚して、すでに六時間は経過している。僕にどれだけのMPがあるのか気になって始めたのだが、意外に平気だ。もしかすると、召喚時より維持する時の方が消費は少ないのかもしれない。


 それに佐々木さんが居た時は、五体を召喚した。あの条件がもしかすると何かのヒントだったのかもしれない。


「ウンディーネ召喚」


 三十㎝ほどの水の少女が現れた。シルフは少女に抱き着く。


 実は五体召喚で分かった事だが、精霊にはそれぞれ相性と言うものがあるようだ。例えばシルフとウンディーネは仲が良い。ノームとサラマンダーも同様だ。

しかし、サラマンダーとウンディーネは互いに近づこうとはしなかった。これは元素である火と水が原因だろう。同じようにノームとシルフも互いを警戒しているようだった。


 だが面白いのはスライムだ。


 スライムが間に入ると、彼らは互いに手を取り合う。僕と佐々木さんが話をしている間、スライムは精霊たちを仲裁し、場を取り持っていた。見た目通り緩衝材の役割をしていたのだ。これには密かに驚いた。

 スライムと聞けば最下級のモンスターを連想しやすいが、召喚魔法禁書に一番最初に載っているのだ。イメージ通りのモンスターではないのだろう。


「奥が深いな召喚とは……」


 考えることを止め二体を見ると、彼女たちはテーブルの上にあるお菓子を二人で食べていた。見ているだけなら可愛いが、彼女たちは小さく見えても精霊だ。雑に扱えば、どのような仕返しが待っているか分からない。


「昼食でも食べるか」


 部屋を出ると、一階へと降りる。


 僕の家は三人家族だ。両親と僕が住んでいる。部屋は二階にあり、割と広い部屋を貰っている。一人息子だから自由にさせてもらっているのだ。


 リビングへ入ると、両親からのメモが残されている。


「出掛けるから、好きな物を食べろ……か。ウチの両親らしい」


 はっきり言うとウチは放任主義だ。それほど干渉してこないし、好きなようにさせてもらえる。欲しい物があれば、買ってもらえる。とは言え、玩具はダメかな。ほとんどは勉強の為の教材だ。


 キッチンにあるパンを焼くと、卵とベーコンをフライパンで炒める。


「トーストに目玉焼きとベーコンか。我ながら質素だな」


 そう言って食べようとすると、ウンディーネを抱えたシルフが一階へ降りてきてテーブルへ飛び乗った。


「§Λξ」


 ウンディーネが、皿に乗せられたトーストを指差し、今度は自分を指差す。後ろにいるシルフも頷いた。

 ああ、自分たちも食べたいと言う事か。意外と食いしん坊だな。


 結局、二体分のトーストと目玉焼きとベーコンを焼くと、渡してやる。


「ξξΛ!!」


「ΦΘΛ!」


 二体は何を言っているか分からないまま、喜んで齧りつく。僕も二体を横目にトーストを齧ると、仄かな甘みが広がった。うん、美味しい。


「あ、ニュースを見ておかないといけない」


 日課である情報収集は、もっぱらTVニュースだ。時々ネットでも調べるが、僕からすると何処まで本当か分からないのは面倒だ。


 リモコンを手に取ると、電源を入れた。


『では、次のニュースです。連続放火魔事件が相次いで起こっている中、再び事件は引き起こされた模様です。では現場に居る――』


 連続放火魔事件とは、かれこれ一ヶ月前から起こっている事件だ。

 犯人は不明。動機も不明。犯行方法も不明。分かっているのは、無差別に放火を繰り返していると言うことくらいだ。大きな事は警察も被害者と言う事だ。


 何処からともなく火の気が立ち始め、警察署を半分ほど燃やした。現場には遺留品としてライターが残っていたそうだが、専門家によるとライターの火であのような状態にはならないと言っていた。何より火の手が速すぎるらしい。

 結果的に半分で済んだのは、近くにあった消防署がすぐに駆け付けたおかげだろう。でなければ、全焼していたらしい。


「ΛΦΨ」


 シルフがTVを指差して僕に声をかける。


 なんだ? 何が言いたいんだ?

 シルフはジェスチャーを繰り返す。


 絵を描いた? 僕に渡した? TV?


 ……まさか!


 走りだした僕は部屋の画用紙を見つめる。やはり敵は火を自在に操っている様子が描かれている。そして、よく見れば手には本らしき物を持っているではないか。

 

 再びリビングへ戻ると、TVを確認する。

 今は炎に包まれる現場が映し出されていた。やじ馬が集まり、消防員が消火活動を続けている。

 

 だが、僕は見逃さなかった。

 野次馬の中に、赤い本を持った少年が居たのだ。


 間違いない。禁書だ。シルフはこれを教えていたんだ。


「でかしたシルフ!」


「ξξΦ!」


 よく分からないが、褒められて喜んでいるのだろう。シルフはニコニコと笑顔だ。

 僕は野次馬の中に紛れ込んでいる少年をじっくりと見る。やはり見覚えがある。


 確か……宮木隆みやぎたかしだったか? ウチのクラスメイトで一ヶ月前から不登校になった筈だ。

 連続放火魔事件が始まった期間とピッタリ当てはまる。そして禁書。


 宮木隆を思いだしてみれば、彼は非常に大人しい部類に入る人間だった。特に虐められていたという感じでもなかった筈だが、どうしてこのような蛮行に及ぶようになったのか理解に苦しむ。しかし、保有者が分かった以上は接触しないといけないだろう。


 禁書は危険だ。力に溺れる者が出ても可笑しくない代物なのだと、やはり改めて感じる。僕のように自制心が強く、正義感がある者でないと非常に危険なんだ。


 再び椅子に座ると、食事を続けようとトーストを見た。


「ΨΛΘ」


「ξΦ」


 シルフとウンディーネが楽しそうに僕の食事を食べているのだ。彼女たちの皿を見ると、すでに空になり、満足できずにとうとう僕の物も手を付けたと言う訳か。


「いいよ、好きなだけ食べるといいさ」


 画用紙を手に取ると、絵を見つめる。これはどう見ても戦っている様子を描いているだろう。やはり戦いは避けられないのか?


 僕はため息を吐いた。



 ◇◆◇◆



 教室で席に座ると、佐々木さんが話しかけてきた。


「葛城君、シルフちゃんは元気にしてる?」


「ああ、ほら」


 胸のポケットを見せると、シルフが佐々木さんへ手を振る。


「あ~可愛い! 食べてしまいたい!」


「いや、食べないでね。僕の精霊だからさ」


「葛城君には精霊さんの可愛いさが分からないの? こんなにも可愛いのに。私が保有者なら、可愛い服を作ってあげて着せてあげるのに」


 人目のつく学校へ精霊を連れてきているのには理由がある。シルフはどうやら索敵能力があるようなのだ。風を使い敵意を探すらしい。もちろん他の精霊でも同様の事が出来るだろうが、シルフが一番無難だろう。


 そして、他にも理由がある。シルフは姿を消す能力があるのだ。秒数にして二秒ほどだが、確かに消える。これに関しては他の精霊は確認していないのだが、同様の事が出来るだろうと考えている。


 まぁ、あとは一番小さくて扱いやすいと言う事だな。それに佐々木さんも喜ぶ。


「佐々木さん、放課後空いている?」


「うん? うん。空いてるよ」


「話があるんだ。禁書の件で」


 佐々木さんは真剣な顔になると頷いた。

 やはり宮木隆の事は、言っておかなければならないだろう。


 僕は今日も欠席の、宮木隆の席を見つめた。






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