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長門未来の六道輪廻  作者: 九JACK
第四の道 修羅道
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閉幕

 ぱぁん




 耳を焼くような銃声。今度はふざけたナガラの声などではない。本物だ。

 そして銃口は、ナガラの頭にぴたりとくっついていた。……即死にちがいない。

 阿修羅がつまらなさそうにこぼす。

「案外、呆気なかったな」

 事の閉幕は、至極あっさりと訪れた。暇潰しに私たちを戦わせたようなやつだ。この終わり方は興ざめだったにちがいない。

 ナガラが自殺するなんて。

 崩れ落ちた体に、私はそろりそろりと歩み寄った。ナガラは起き上がることも喋り出すこともない。ただの骸と成り果てていた。

 リウがす、とその肌に触れる。黙祷を捧げてから、立ち上がった。

「ミライ、貴女に譲るそうです。全ての権利を」

「……そんな」

 そんなことを急に言われても……頭の処理が追いつかない。

 リウがわざわざ口にしてくれたことは、ナガラの行動を見ただけでわかるものだった。この世界で死を選ぶということはそういうことだ。

 目眩がした。

「そんな、そんな、なんで、そんな簡単に」




 死ねるの?




 自分で死んだことのない私にはわからなかった。簡単に死を選ぶ理由が。死ぬことが仕方ないと思い、死を受け入れたことは何度かあった。けれど、それを自分で行おうと思ったことはない。

 人の命は軽すぎるし、自分は生きられる時間が決まっていたから。

 阿修羅の享楽趣味をどうこう言えないだろう。……私は自分のために死ななかったのだ。

 生きるために、死ななかったのだ。

「でも、私は今……




 ……生きたくも死にたくもない」

 別に、普通の体を手に入れて、普通に過ごすことなどに興味はないのだ。今更すぎる。普通なんて。

 けれど、そう思うのが、遅すぎた。

「ナガラさん曰く『コピーの分際でここまで生き残っただけめっけもんさ』とのことです」

 どうやら触れることで様々なことを読み取ることができるようになったらしいリウが淡々と告げる。私は呆然と聞き流していた。

「『せっかく未来って名前なんだから、少しくらい未来があってもいいじゃない』だそうです」

 そこまでリウが言い終えると、役目は終わったとばかりにナガラが消えていく。

 ……こんなことが、あっていいのか?

「ナガラは、ナガラはいけ好かないところがあったけど、理不尽に生み出されて、理不尽に何度も死んで、巡って、ただただ狂ってしまっただけなんだ。狂ったのにも理由があった。あの子は出口を探してここまで来たんだ……!」

「これも一つの『出口』ですよ」

 夜叉の冷静な指摘に私の頭の中は真っ白になる。

 違う、違う、私は、

「私は、こんな結末、望んでなんかいない……」

「結局自分じゃねぇかよ、嬢ちゃん」

 阿修羅の指摘にはっとする。──そう、私はいつだって、自分の望むままに生きてきた。

 望めば、殺人鬼にならない未来だってあった。

 望めば、ナガラの誘いに抗うことができた。

 望めば、居場所を得ることだってできたかもしれない。

 それを全て蔑ろにして、ここまで巡ってきたろくでなしは、私だ。

 今更どうこう言ったって、意味はない。

 阿修羅がぽつりと呟く。

「ナガトミライってのはアナグラムってやつだな。文字を入れ替えれば、トミイナガラになる。

 トガナミライ──『咎な未来』にもなる。

 罪深き未来ということだ」

 笑える。

 罪深き未来なんて、私に似合いの名前ではないか。




「さて、勝敗は決しました。わたくしたちの企てを今更断るなど、許されませんからね」

 夜叉の念押しに頷く。わかっている。

 押しつけがましいお膳立てだが、いいだろう。

 生前、どこかでずっと望んでいたはずだ。未来を。

 ついぞ得られなかったそれが手中に収まるというのだから、いいことなのだろう。

 私が了承すると、リウが持ってきたセツの体に吸い寄せられるような感覚がする。

 そういえば、セツの魂がどうなったのか聞いていないけれど、まあ、いいか。

 私は小さな諦めの中で、夜叉が放った言葉を聞き流した。






「文句があったら、また巡ってくればいいだけのことです」






 長門未来の六道輪廻 修羅道-完-




 最後は今はもう懐かしい、人間の体になって、普通に生きよう。



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