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長門未来の六道輪廻  作者: 九JACK
第三の道 畜生道
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この世界を飛び出して

 やっと会えた、とはそういうことなのだ。

 私が得心すると同時、ナガラは痛ましげな顔をした。

「そのためにはミライ姉に死んでもらわなきゃならないんだけど」

 ……まあ、そうなるだろうな。

 輪廻というものは、死んでからの巡りを表したものだ。きっと人間以外の生物だって、死んだら輪廻を巡っているにちがいない。

 死ぬのは、二度目だ。今更この世に未練なんかない。一度捨てた命で、地獄の底にまで落ちておきながら、こうして他の道に接触できただけ、めっけもんというものだろう。

「僕がミライ姉を必死に助けたのは、本来ならあの警察犬が『みーちゃん』を噛み殺していたから。死ぬときに傍にいないと、いくらミライ姉が輪廻に干渉する力を持っていたって、僕の魂を拐っていけないからさ」

 なるほど、過剰に見えたあれも、ちゃんと理由があったのか。警官を殺したのも、『みーちゃん』が警官に銃殺されないか危惧したからだろう。

「僕は様々な『みーちゃん』の終わり方を見ているからね。今までの『みーちゃん』がミライ姉じゃなくてよかったよ」

 ……こいつはどれだけ繰り返したのだろうか。

 繰り返した分、雪さんが死に、みーちゃんが死んだはずだ。家族愛というものが到底理解できない私であるが、家族を失うことが世間一般ではつらいことらしいくらいは理解している。ましてや、あの優しい母親を何度も亡くすのだ。苦しかっただろう。

「ミライ姉と出会わない世界も、何度も巡ったよ。ミライ姉と出会わなくても、お母さんもみーちゃんも何度も死ぬんだ。僕は短命なはずなのに、僕を遺して逝くんだ」

 それは。

 私と出会う前から、ナガラは輪廻していたということか。

 出口を探して躍起になって、あの医者のことを知って、自分の正体を知って、医者に復讐をして……辿り着くまでに、ナガラは一体何周したのだろう。

 私と出会って、ようやく出口が見えかけたナガラ。出会う前の連続通り魔殺人は狂気そのものだっただろう。おそらく私が想像したものよりも根が深いはずだ。




 そして、ようやく出口の始まり──血の一年の終わりに私を撃ち殺したとき、こいつは何を思って引き金を引いたのだろう。

 ……きっと、終わりに思いを馳せていたにちがいない。

 それでも私が巡るまで繰り返す日々。よく耐えてきたものだ。

 ナガラはあの日、海辺で交わしたような言葉を口にする。




「残念ながらね、ミライ姉。この世に悪が栄えた試しがないんだよ」

「……にゃあ」


 同意を込めて、一声鳴いた。今回その言葉を向けられたのは、私じゃない。ナガラ自身だ。

 ナガラは数えきれない回数人を殺して、数えきれない回数、もしかしたら私を殺しているのかもしれない。

 人間じゃないとしても、やはり人殺しは罪で、悪なのだ。

 ナガラは力なく、カッターを握りしめる。

「だから、この世界に存在し続けた(あく)をどうか、殺しておくれ」

 誰よりも自分の死を望み続けた者の一言だった。

 ふと、訊いてみたくなった。

 ナガラはこの世界を飛び出して、何をしたいのか。

 けれど、猫である今、問いを口にすることはできない。

 ナガラがもし、同じ道に落ちたなら、そのときに問おう。




 私はナガラが手にした刃を振り下ろすのを待った。



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