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長門未来の六道輪廻  作者: 九JACK
第三の道 畜生道
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目が覚めるとそこは




 ──第四章の幕開け──





 長門未来の六道輪廻 第四章


 そこで初めて愛という言葉を知る。


 第三の道 畜生道


 木の温もりのある明るい天井がぼんやりと見えた。

 それは今や懐かしい人間世界の家屋の中であることを示した。どうやら転生したらしい。無事にこの世界に戻ったことに溜め息を吐くと、「ふにゃぁ」という変な声が零れた。

 そんな声を出すようなキャラじゃないため、少し羞恥が込み上げる。我ながら間抜けな声だ。誰かが見ていたら笑われるんじゃないか。

 柄にもなくおどおどして首を巡らす。なんだか小回りが利くような気がしたが……

 くすっと笑う声がした。そちらに振り向こうとして、自分が仰向けに寝ていることがわかり、起き上がろうとしたのだが……慌てているせいか、上手く起き上がれない。いや、慌てているせいじゃない。手が地面につけられない。

 ただただもがくようにうにゃうにゃやっていると、不意に体を持ち上げられた。

 ……持ち上げられた?

 そこでようやく異常に気づく。手足が人間のバランスと大きく異なる。異なるとかそういうレベルじゃない。手足が見えて、ついでに尻尾まで見えてわかった。

 そもそも私、人間じゃない。

 人間みたいに思考を持っていることが不思議だけれど、にゃあという声から察するに、私は今、猫になっている。

 おそらく人間に持ち上げられたのだろう。屋内にいるということは、飼い猫か。

 しかし、そんなことに衝撃を受けている場合ではなかった。




「おはよう、ミライ姉」

「っ!?」


 一気に緩んでいた思考が冷水を浴びせられたように引き締まり、冷静さと警戒心を与える。

 私をミライ姉と呼ぶ人物なんて一人しかいないし、一年中何かと聞いていた声は間違えようもない。

「にゃああっ!?」

 ……だめだ。この鳴き声はどうにかならないのか。緊張感が台無しだ。

 思わず人間の感覚で「ナガラ!?」と叫んだつもりになってしまったが、猫は猫の声しか出せないらしい。恨めしや。

「なんだ、僕の名前覚えていてくれたの? にゃんこで必死なミライ姉も可愛いねー、よしよし」

 頭を撫でるそいつ。毛の上からわしわしと撫でる手は華奢。抱きしめられている胸も華奢。いや男で胸があったら怖いが……ナガラは男だよな?

 不審げな声──けれど「にゃあ」にしかならない──を上げる私の思惑を知ってか、そいつは抱き方を変えた。

 顔が見える。男とも女とも取れる中性的な面差し。色素の薄い灰色の目と灰色の髪。私より柔和な面差しのそいつは、紛れもなく、私の知る富井永良だった。

 聞きたいことはたくさんある。

 何故ナガラが人間なのか。何故私が猫としてナガラに飼われているのか。何故ナガラは当然のように私のことを「ミライ姉」と読んでいるのか。

 腑に落ちない点ばかりである。

 だが、その疑問を口にできない。何故なら私は今、猫なのだから。出てくる声は「にゃあにゃあ」ばかり。生き返って早々悪いが、死にたい。何が悲しくてナガラに抱かれてにゃあにゃあ言わねばならぬのだ。キャラじゃないにも程がある。

 けれど一つ納得がいった。

 リウが言っていた、人間道に都合よく行かせられないかもしれない、みたいなことの意味。




 ──こういうことだったのか。



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