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長門未来の六道輪廻  作者: 九JACK
第二の道 餓鬼道
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果てしない道

 快楽。範囲が広いような欲求であるが、知的好奇心に基づく知識欲が得られないことから考えるに、知識を得られる喜びというのがこいつの中では大きかったのだろうか。

「他人の知らないことを知っている。それはひどく面白いことじゃないかい? 他人のことを『こんなことも知らないのか』と貶すこともできるし、『自分はこんなことまで知っているんだぞ』と自慢することもできる。

 まあ、俺のはそんな俗っぽい喜びではないが」

 優越や自尊は普通のことだと思うが。それで快楽を得るというのはわからなくもない。だが、リクは違うという。

「俺が求めるのは『自力で新しい知識を得た』ことに対する快感だ。既に常識であることであっても、自分で体験して発見することが楽しくて仕方がないんだ。わかりやすい例えを挙げるなら、ニュートンの万有引力を授業で習うのではなく、自分で何故林檎が落ちるのか、に疑問を持って常識を発見していくのさ」

 よくわからない。単なる知識欲じゃないのか?

 人の欲とは奥が深いものだ。

 問い返すと「目に砂が入ると何故痛いのか」「温かいものを食べると鼻水が出やすくなるのは何故なのか」など色々な例えを聞かされた。聞くんじゃなかったと思うまでにそう時間は必要なかった。

 科学者にでもなればよかったんじゃないか、こいつは。

「けれど、そんな好奇心はやがて人の命というものに向いたんだ」

 そこから殺戮人生が始まるということか。

 リクが少し狂気の滲んだ目でここではないどこかを見て語る。過去でも思い出しているのだろうか。

「人の命、いや人に限らず命というものは神秘の塊だ。どうやったら死ぬんだろう? どこまで生きていられるんだろう? ──それは教科書に載っていないことの方が多かった。だから答え合わせは自分でするより他なかったのだよ」

 確かに、人はどうやったら死ぬか、何にどこまで耐えられるのかなんて教科書には載っていない。きっと人体実験の領域だからだろう。人間の科学というものは動物などは粗末に扱うくせに、人間を実験動物にするのは嫌う。

 故に「人間の生き死にの経緯」というものは自分で解答を見つけなければなかった、そういうことなのだろう。

 リクは自分で解答を見つけるたび、愉悦を得ていたのだという。譬、それが犯罪と呼ばれる行為でも。

「死んでから地獄に落とされたわけだけれど、摩訶不思議な世界だね。この六道輪廻というのは。人間なら死ぬはずのことをしても死なない。死ねないように体が作り替えられたのかもしれない。それを不幸だとは俺は思わないね。新しい実験材料が手に入ったようなものだ。死なない体、餓鬼道に入ってからは餓鬼という名の新生物。興味は尽きないよ」

 そこまで聞いてふと思う。

「だとしたら、貴方のその快楽への欲求が満たされないのは何故? 好奇心に見合った実験材料とやらがたくさんあるのに」

「それが何故かは俺の方が聞きたいさ。何故かはわからないけれど、俺は満たされないんだ。人間だったときに感じていたあの快楽には辿り着けない」

 それはおそらく、「欲求が満たされない」と書かれた立て札に関係があるのだろう。そういう仕組みなのだと説明されてしまえばそれまでだ。

「こんな世界、俺だって嫌さ。でも諦めた。未来ちゃんよ、知ってるかい? この世界には入口はあっても出口はないんだ。罪を悔いて許しを請うしか出る方法はない。この辺歩いてて気づいたが、この道には果てがない。歩いても歩いても終わりが見えないんだよ……」

 だから、諦めた、とリクは朗らかに笑う。諦めたというにはポジティブな顔だが。

「何も無理してここから出る必要はないからね。諦めるのは恥じゃないさ。それよりも己の理念を捨てることの方が恥さ」

「理念?」

「ああ、前向きな理念さ」

 リクは告げた。

「快楽のための探究はやめない。いつかここで快楽を得てみせるさ。そして、ここから出てやる。浄化以外の手段でね。浄化した場合、どうなるのかは興味深いけれど……覚えていることを期待する方が無茶だ」

 それは確かだろう。スーが言っていたではないか。六道輪廻を巡る中で、生前の記憶を持っている者はいない、と。

 私は特殊なのだろうけれど。

「私は、先に行くわ。こんな何もない場所で時間を浪費するのは御免よ」

「俺という話し相手がいるじゃないか」

「貴方に実験道具にされるかもしれないわ」

 リクは豪快に笑い飛ばし、確かに、と頷いた。笑い事じゃない。

 出る手段がないのは充分にわかった。だが、進む方法はあるはずだ。何故なら私は「巡らなくてはならない」から。

 事実、天界から地獄、餓鬼道と既に六道輪廻の半分を巡っている。それに……




 この先で、ナガラが待っているかもしれないのだ。



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