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長門未来の六道輪廻  作者: 九JACK
第一章 第六の道 天界道
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一閃が引き起こしたこと

 それは一瞬のことだった。

 カッターを想像して、手に握りしめ、感触を確認するなり何の感慨もなく一閃。

 行動理由は単純だ。

 嫌いな顔だったから。

 私にとって自分の顔とは、自分の顔であると同時、ナガラの顔でもあるのだ。ナガラは私を血の一年を刻むように仕向けた人間であり、最期に私を殺した人間である。私の人生を奪ったといっても過言ではないはずだ。これを憎まないで何を憎むというのだろうか。

 故に私の切っ先に迷いはなかった。瞠目したのは、思ったよりもカッターの切れ味がよかったのと……


 眼前を遮った影。


「リウ……!」


 私より遥かに淑やかな女性の声が、リウの名前を呼ぶ。自分を庇った青年の名を。

 リウは私の一挙動……カッターを手にするという動作だけで、その後に起こりうる出来事を予想し、的確に動いたらしい。だが、私の殺意のせいか現実世界──六道輪廻では人間道というのだったか──にあるそれより遥かに強度と鋭さに優れたカッターナイフに服ごと肌を切り裂かれ、鮮やかに血を舞わせた。思ったよりも深手になったらしく、リウの逞しい体躯でもよろめいていた。

 琥珀色の瞳が悲しげに私を見つめる。視線が交錯した一瞬だけ、時間が止まったような錯覚に囚われるが、それはほんの少しのことで、すぐに注意は逸れる。

 リウが手に槍を顕現させたことによって。

 確か、垣間見たリウの過去で、彼の得物は槍だった。あれで相当な数の人間を殺したらしい。もしかしたら、私のようにシェンに手を上げる輩も追い払ったのかもしれない。すると彼には……おそらく千年分くらいのアドバンテージがあるわけだ。笑えない。

 ナガラと対峙するときとは別の意味で緊張感を抱く。こんな手練れを相手どるなんて普通はないだろう。譬、相手が手負いだとしても。

 否、手負いだからこそ、油断ならない。

 手負いのやつほどなりふりかまわず、こちらの予想だにしない行動に出るからまずいのだ。まあ、手負いというにはぴんぴんしているような気がするけれど。

 改めて見て、ふと異変に気づく。リウも同じだ。何せ自分の体のことだから。

 傷が綺麗に消えている。いくら想像で如何様にも変わるとはいえ、破けた服、飛び散った鮮血まで一瞬で元通りになっているとなると、尋常なことではない気がする。リウにそういった挙動はなかったし、第一リウ自身が不審がっている。

 その現象の正体はすぐに発覚した。けほ、とリウの後方で湿っぽい咳が聞こえる。リウが驚き、振り向いたその先には──白い服を吐いた血で汚すシェン。

 自分と同じなりの人間が手負いということには微妙な心地になったが、合点はいく。何せ、「神」の名を冠する人物だ。これくらいのことをやってのけても何も不思議はない。




 シェンは、わざわざ、リウの傷を代わりに引き受けたのだ。



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