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長門未来の六道輪廻  作者: 九JACK
プロローグ -神の過ち-
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災禍の足音

 長門未来の六道輪廻


 私は、信じることも生きることもやめた。


 プロローグ -神の過ち-


 最近、世の中は物騒だ。

「また出たんですって、通り魔。今度の犠牲者は五人ですってよ」

「月出新聞では、飼っていた犬も惨殺されたらしいわよ」

「あら、長門さんって、近くじゃない。おじいさんとおばあさんがいて、若いご夫婦と小学生の娘さんが一人。皆殺しじゃない」

 長門、という名に私はふと足を止めた。心当たりがあったのだ。でも、あまりいい思いのするような心当たりでもなかったので、すぐにまた歩き出す。

 私の名は長門未来。児童養護施設に保護されている中学生だ。お察しのことかと思うが、"長門さん"の心当たりはそれだ。

 まあ、犬嫌いだった私がいなくなるなり犬を飼い出したような"家族"だ。通り魔に殺されたからといって、特段、感情も湧かない。

 私は物心がつく頃、親に捨てられた。持っていたのは家族として過ごした僅かな時間の記憶と"長門未来"というこの名前だけ。

 冷めた関係とはいえ、あの通り魔に殺されたのか。さぞかし無惨な最期だっただろう。

 近頃、この辺りには通り魔が出る。物取りでもなければ怨恨の類でもない。目的があまりにも不明瞭な連続殺人。しかも毎回殺し方が残酷極まりなく、胸くその悪くなるようなものばかりだ。

 その上、更に胸くその悪くなる情報として、唯一の目撃証言がある。


「ちらりと見えた面差しは、中学生くらいに見えた」


 どんぴしゃで私と同じ年頃。背丈も一六五センチくらい、と本当に狙ってんのかっていうくらい。しかも中性的な顔立ちで性別の判断はできず、髪や目が日本人ぽくない薄い色をしていたんだとか。

 ショーウィンドウに映る自分を見る。──まんまじゃないですか。

 そこには親に捨てられた原因でもある忌々しい姿が映っていた。髪も目も色素が薄く、灰色っぽい。日本人……ってか人間として疑わしいほどの白い肌。年のせいもあるけれど、男か女かぱっと見では判断しづらい目鼻立ち。見るたび自分は本当に人間なのだろうかと疑いたくなるような無機質な造形をしていた。

 全く、笑えない話だ。父にも母にも全く似ていない。

 その上、これが遺伝子異常で起こった"病気"だというのだから笑えない。最も、まだ病名すらつけられていないほどの希な病気らしいので、普通の人が知らないのも無理はないが。

 更に笑えないことに、私はこの病気のせいでそう長生きできないんだとか。人の寿命を決めるテロメアだかってのが病気のせいで短いらしい。

 体が弱い、という実感はないから、寿命が短いとか言われてもいまいちよくわからない。言われてみると、日光に長時間当たっていると、具合悪くなったりするし、代謝もよくない。低血圧だし。

 ああ、考えれば考えるほど嫌になる。さっさと帰ろう。

 そう思って、ショーウィンドウから目を離しかけて、ぎょっとする。あってはならないものを見た気がした。

 もう一つ、自分と全く同じ顔が、こちらに向かってにやりと微笑んだ、ような。

 背筋を冷たいものが駆け巡る。

 直後。

「きゃあああっ!!」

 後ろから、女の人の悲鳴が聞こえた。"長門さん"の話をしていたうちの一人だ。咄嗟に振り向き、失敗に気づいた。

 びしゃあっ

 話していた三人のうちの女性の一人が、首を切られ、血を吹きながら私の方へ倒れ込んでくる。当然私は血まみれだ。

 一瞬の虐殺風景に見事に組み込まれた私。即死した女性の死体が寄りかかってくるせいで、逃げることもできない。

 見たような気がした私と同じ顔の奴だけが、いない。

 おいおいおい。

 致命的なまでに言い訳のできない状況に畳み掛けるように、足元にはからん、と私のカッターナイフが落ちた。




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