第8指導 黒幕登場!?
「お前達はいつその体になった?」
その質問を聞いた東堂は困惑した。まるでマフィア達が別の生き物になったかのような言い方だ。東堂が「何故そんな質問を?」と言いかけた瞬間、雄山の口が開いた。
「お前達の妖怪化した姿は不自然極まりない物だった」
雄山が説明し出すとマフィアは顔を顰めた。
「まずてめえらが妖怪化した時いきなり持っていた妖力が増した。本来あり得ねえことだ。これまで俺は比喩表現抜きに何万何千ものマフィアや暴力団の妖怪を殺って来た。だが一匹も妖力がいきなり倍増したなんてケースはそいつが実力を隠していたくらいのもんだが、てめえらは俺に恨みを持っている以上実力を隠す必要がない。となれば身体を戦隊物の特撮に出てくる怪人のように身体を改造したとしか思えねえ。そしてそいつには復讐の対象である俺を目の前にしてでも躊躇してしまうような副作用か発動する条件がある…違うか?」
マフィアはダラダラと汗をかき、そして閉ざしていた口を僅かに開けた。
「…その通りダ。我々はお前に復讐すルために昨日人間の身体を捨テ、自ら妖怪の身体となったそのために奴と取引しタ」
「その奴ってのは誰だ? 取引の内容は何なんだ?」
「ワカラナイ…だが奴はお前のいる学園都市で」
マフィアが肝心なところを話そうとした時、銃声が鳴り響く。マフィアは頭を撃たれ即死だった。
「おいおい困るぜ。勝手に組織の事話しちゃぁなぁ…」
おちゃらけた態度をした男だがその目は笑っておらず、東堂はそれをみて裏の世界の住民だと確信した。男は更に引き金を引いてもう一人のマフィアをあっさりと殺し、雄山達に一歩、一歩と歩み寄る。そして雄山はその男が調べた人物の顔と同じであり同一人物だという事に気がついた。
「…鴨川!」
そう、その男こそ雄山の探している鴨川だった。
「俺の顔と名前を知っているなんて光栄だぜ、キラーマウンテンさんよ」
「キラーマウンテン…?」
東堂はそのあだ名に首を傾げた。なんで雄山の事をそんなあだ名で呼ぶのか理解出来ないからだ。
「何だお嬢ちゃん知らねえのか? こいつは裏世界じゃキラーマウンテンって呼ばれているんだぜ。10年くらい前まで全国各地神出鬼没に現れ、気にくわないマフィア団体や暴力団組織を見かけたら即潰すってやり方をしていたんだ。それで名前から文字ってキラーマウンテンなんて呼ばれるようになったんだ」
「本当なんですか? ユーザン先生…」
「…本当だ。ヒットマンとして活動する時以外は全てそうやった」
つぶやくように雄山は肯定し、東堂は何を言えばいいのかわからず困惑していた。
「まあそんな話しはどうでもいいんだよ。俺はね、お前達を始末しに来ただけなんだよ」
「その達ってのはこのマフィア達も含まれているのか?」
「そうだ。秘密を知った人間は消す…だからそいつらにも俺たちの秘密を知った人間を殺させたんだよ」
「…学園都市の事件と滝河を殺ったのはお前だったのか…」
「そーいうこった…まあ話したところでこれから死ぬ人間には意味はねえけどなぁっ!」
鴨川が服を破り、銃も捨てると筋肉が肥大化し、身体も倍以上に巨大化し、ゴリラのような身体になった。ただし違うところはゴリラの毛の部分が竜の鱗で覆われており顔も竜そのものになっていた。早い話が竜がゴリラ化したような姿となっていた。
「ど、ドラゴン!?」
西洋においてそれは体格がゴリラでなければドラゴンと呼ばれる種族だ。ドラゴンは吸血鬼も恐れる種族であり、最強の種族と呼ばれている。日本のドラゴンに相当する龍などは神になっているケースもあり、ここでもやはり最強の種族であることがわかる。
「違う…よく見てみろ。竜人だ」
「竜人…!?」
「竜人は竜の硬さと身体能力、そして息攻撃、人間が持つ特殊な魔力の一つの霊力…それら全て兼ね揃えている種族だ」
雄山の解説に東堂は青ざめる…雄山の解説と自分の仮定が正しければ先ほどのマフィアよりも恐ろしい種族が相手になったのだということになるからだ。
「じゃあ破魔札は…!?」
「もちろん効かねえよ。おまけに竜の鱗があるせいでそれ以外の魔法も呪術も効かねえ」
その言葉に東堂は半泣きになった…雄山の主な攻撃である破魔札や魔法が効かない相手…それも雄山よりも身体能力の高い者が相手となると勝機はあるのか? と東堂は聞きたかった。
「だが…竜人があまりにも強すぎるから当時の陰陽師達がありとあらゆる手段を使って絶滅させたはずだ。俺だって竜人を目にするのは初めてだ」
竜人は陰陽師から恐れられていた。日本の魔法とも呼べる陰陽術等が効かない相手となると陰陽師はどうしようもないからだ。しかもスピードは妖怪最速とも言われる天狗と互角以上、力は鬼以上…身体能力でも勝てる相手ではない。言わば陰陽師からして見れば天敵である。故に手段問わずの方法を使い絶滅させたはずだった。だが目の前にはその竜人がいる。雄山…いや陰陽師にとってこれは悪夢でしかない。
「そう簡単に絶滅なんて出来っかよ!」
先ほどの妖怪達の比ではないスピードで雄山に詰め寄り、殴りかかった。
話しは反れるがパワーは速さ×力(重さ)で定義されている。ボクシング等で体重で階級が分けられているのはそのためであり文字どおりパワーバランスを保ち、互角のパワー同士で戦わせる為だ。
閑話休題…見た目からして300キログラムを超える鴨川が己の身体能力に任せパンチをすればどれだけのパワーを持っているかなどはわかるだろう。
「グゥゥゥッ!」
そのパワーを気で防御したが鴨川のパンチはあまりにも重く、流石の雄山といえども吹っ飛ばされ、トラックにぶつかり、血を吐いた。
「ガフッ…!」
「ユーザン先生!」
「寄るな!」
血を吐くのを見た東堂が近寄ろうとすると雄山が怒鳴って東堂を止めた。
「どうして…!?」
「今寄ればお前が殺されるだけだ!」
「その通り。邪魔をしたらお嬢さんを殺すだけだ…後でじっくりゆっくりと嬲ってやるからそこで高みの見物していろよ」
そして鴨川が一歩二歩…と歩み寄り雄山を持ち上げ…頭を握りしめた。
「がぁぁぁっ!!」
「良い声で叫ぶなぁ…これだから面白い」
そして鴨川は雄山を投げ、再びトラックに叩きつけた。満身創痍となったがまだ気を纏える力はあったのか意識は飛んでおらず、雄山は再び立ち上がった。
「俺の勝ちだ…」
どこからどう見ても雄山は満身創痍であり、鴨川は無傷。この場の勝者は鴨川だと一目瞭然だ。
「違うだろ? 俺の勝ちだ。死ね…」
「はぁぁぁっ!」
鴨川が腕を上げ、雄山にとどめを刺そうとした瞬間…東堂が跳び蹴りをしてそれを止めた。
「何の真似だ? 吸血鬼のお嬢さん…」
雄山を庇った東堂を睨み、鴨川は低い声を出して脅すが今の東堂の前にそれは意味をなさない。
「これ以上ユーザン先生に手出しするなら私が相手をする!」
東堂は雄山の流れる血を多少だが浴びたことによって吸血鬼としての本能が目覚め、食欲を促し興奮していた。
ライオンやヒョウなどの猛獣でもおとなしい時がある。それは腹を満たしている時だ。腹を満たしていれば食べる対象の兎が近くにいてもむやみに襲わない。だが逆に言えば空腹であれば気が立ち、襲うには十分な理由がある。今の東堂はその状態であり、包帯と封印の札を剥がし魔力を解放した。
「止め…ろ…東堂…」
故に雄山が東堂を止めても、強い本能に逆らうことになり東堂はそれを制御する術はない。
「面白い…師匠を思う弟子の意地、見せてみろや!」
鴨川が雄山と闘った時と同様に間合いを詰め、殴ろうとしたがそこに東堂の姿はなかった。
「ウスノロ…」
東堂は鴨川の背後に回っていた。