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大和が師範〜キラーマウンテンと呼ばれた陰陽師〜  作者: 疾風迅雷の如く
1章 勇姿の影
34/40

第34指導 還らずの森で

▲▼▲▼☆☆☆☆▼▲▼▲


キラーマウンテンと呼ばれた陰陽師と吸血鬼が足でその土を噛み締め、歩く。

「ユーザン先生、何で車で行かないんですか?」

吸血鬼の東堂美帆が陰陽師にそう尋ねる。

「わかりきったことを言うな。車で行くにしては狭すぎる。いくら俺が車のテクがあってもあの狭い道で目的地に突っ走るのは無理だ」

雄山はバッサリと東堂の意見を切り捨て、首を横に振る。

「でもユーザン先生、あの広い道に車のタイヤ跡がありますよ?」

「あそこはぬかんでいる。水陸両用車ならともかく、スピード重視の俺の車じゃ無理だ」

「無理無理いってないで何か車で行く方法はないんですか!?」

「チッ、仕方ねえな。これを使うか」

ヒステリーに叫ぶ東堂を見て渋々雄山が取り出した物は絨毯だった。それを見た東堂は目を光り輝かせた。

「まさか魔法の絨毯?」

「ああ。裕二が開発した魔道具の一つ。操縦者の魔力を使って動かすくせして重くなるほど操縦者の負担も大きくなるから余り使いたくねえんだよ」

顰めっ面で答え、雄山は紫色の液体が入ったペットボトルを東堂に渡した。

「これってぶどうジュースですか?」

「残念だがぶどうジュースじゃない。ちなみに言っておくがワインでもないぞ。こんな形状のペットボトルのワインなんて聞いたこともねえだろうが」

「うっ!」

東堂は自分の言おうとしていたことがバレ、縮こまる。

「こいつは大和財閥が開発した魔力回復薬のMP回復剤だ。こいつを飲むと名前の通り魔力を回復させることが出来る。表の世界で例えると栄養ドリンクのようなものだな」

「そう考えると陰陽師協会ってブラックなんですね」

「ブラックなものか。一回あたりの依頼料が大和財閥の証券部門の月給よりも高い金で払われるんだからまだ良い方だ」

「物凄く高いってことはわかりますけど、そのお金はどこから払われるんでしょうか? 余程の金持ちじゃないと陰陽師協会に依頼するのは無理じゃないですか?」

「陰陽師協会を通せば大和財閥が依頼者が本来払うべき依頼料の99%も負担してくれる。その代わり大和財閥は陰陽師協会に大和一族では請け負い切れない依頼を頼んでいる」

「インサイダー取引とかですか?」

「……」

「えっ、マジで?」

冗談で言ったつもりの言葉だったが雄山が黙り込み、東堂は顔を青ざめる。もしこの秘密をばら撒いてしまったら自分は大和一族に物理的にばら撒かれることになる。その責任の重さを感じ、足が冷え、指が悴む。その様子はまさしく恐怖に震える女子高生そのものであった。


「そんな訳ないだろうが」

「えっ?」

東堂が驚きの声を上げる。極悪人のような顔をしている雄山にそう言われ戸惑ったのか雄山なりのジョークであったこと、あるいは別のことで驚きの声を上げたのかは東堂にしかわからない。

「陰陽師協会の陰陽師の魔力や霊力を抽出して魔力回復薬にしてそれを売りさばくんだよ」

「そんなことで儲かるんですか?」

「儲かるに決まっている。一昔前に中東の国々とか石油を掘り当てて金持ちになっただろ? 大和財閥も同じだ。大和財閥は他のところじゃ真似出来ない良質かつ経費も抑えられるような回復薬を作るから今じゃ回復薬=大和財閥が作った回復剤という認識がある。つまりほっといても金になるんだよ」

「それだったら何故雄大さんは会長になれなかったのかますます不思議ですね。今の会長さんって雄大さんに遅れをとって万年二位だった人でしょう?」

「会長を舐めんじゃねえ。会長は確かに大兄貴に遅れを取って万年二位となったがその差はいずれも僅差だ。俺からしてみればあの二人は神の領域に達している。師匠は先々代会長つまり伯父貴に似ているのは俺というが才能という意味じゃあの二人こそ伯父貴の後継者そのものだ」

「そ、そこまで言います?」

「ああ。そうでなきゃ会長が伯父貴同様20代で陰陽師協会の会長になれる訳がない」

雄山がそう告げるも東堂はイマイチピンと来ない。


「そもそも20代で陰陽師協会の会長になったのって何人いるんですか? その基準がわからなきゃ凄いとは思えませんよ」

東堂は歴代の会長どころか今の会長の顔を見たこともない。故に何がどう凄いと思えるかはっきり言ってわからなかった。陰陽師協会をあまり知らない者からして年齢ほど判別しやすいものはないが逆に言えばそれだけで判断出来るということだ。

「伯父貴と現会長のたった二人だけだ。30代以下での就任を含めると親父や初代も入るがそれでも4人。それ以外はみんな40代以上だ」

「話を戻すぞ。確か会長が大兄貴に勝てた理由だったな」

雄山が話を戻すと腕を組み、その場にあった切り株の上に座る。


「実力はほぼ拮抗しているが故に何か一つ負ける要素が加わると一気に崩れる。それは精神面でも同じだ。前にも言っただろうが九条会長は大兄貴が精神的弱っているところを見計らい、一気に畳み掛け陰陽師協会会長に就任することが出来たんだ」

「それじゃ今立場が実質逆転しているのもそうなんですか?」

「その通りだ。大兄貴が会長を傀儡に出来ているのも会長がすい臓癌で弱っているに過ぎない。むしろ会長の座を明け渡さない会長を褒めても良いくらいだ……万が一、会長のすい臓癌が治ったとしたらすぐに元通りの会長と大兄貴の一騎打ちの状態に戻る」

「でもそれはないんですよね。九条会長さんは雄大さんを会長にする気は無さそうだから勇姿一派を後押しして勇姿さんを会長に就任させようとするんじゃないんですか? 話を聞いていると会長さんは大和一族よりも雄大さんを毛嫌いしているようですから」

「よくその発想に気づいたな。なるほど兄貴達に連絡しねえとな」

「その必要はない」

雄山が端末を取り出して操作しようとすると地を這うような低い声がその場に響く。その声の正体を雄山は知っていた。

「勇姿……!!」

そう、雄山の弟である勇姿であった。


「到来山の後始末を俺に押し付けるとはやってくれたな。雄山」

「褒めるなよ」

「まあいい。ここから先にある施設は何だかわかっているんだろう?」

「日本セル研究所」

「そうだ。そこは俺の故郷でもあるんだ」

「何を馬鹿なことを言っているんだお前は?」

勇姿の故郷はあくまでも大和宗家。それは春がきちんと教育し、しっかりと認識させた。だがそれにもかかわらず勇姿が日本セル研究所が故郷であることを断言したので雄山は混乱してしまう。

「そもそも俺は大和勇姿であっても雄山の弟の大和勇姿じゃない。真実が知りたいなら日本セル研究所まで案内する」

「案内しろ。勇姿」

勇姿の出した提案に雄山は即答で答えた。


「ユーザン先生、罠ですよ! それにそんな情報を集めたところで何の意味もありませんよ!」

あまりの雄山の返事の早さに東堂は却って冷静になり、雄山に突っ込む。だが雄山は至って真剣に考えていた。

「東堂、確かにお前の言う通りだ。だが俺達はどのみち日本セル研究所に行かなきゃいけないんだ。罠であることは百も承知だがそれ以上に弟の同姓同名のこいつが何で弟の姿をしているのかが気になるんだよ」

「そんな、そんな理由でですか!?」

「おうよ」

東堂は雄山のあまりの身勝手さに頭を抱えてしまう。確かにこの世界に首を突っ込んだ自分も人のことは言えないがまさか雄山がここまでフリーダムだと思えなかったのだ。

「勇姿、この吸血鬼は無視して案内してくれ」

「良いのか?」

「俺達がお前についていくのは権利だ。罠とわかっていても引き返さずに行くかどうかなんてものはてめえ自身の責任だ。それにお前も気づいているとは思うがこの吸血鬼はヘッポコだ。妖力のよの字も感じさせないような奴に罠だとわかっている場所に行かせようが行かせまいが同じ結果だ」

「確かにその吸血鬼は現時点では無力に等しい。だが雄山、お前が妖力を封印しているだけで実際は大妖怪並みの妖力を持っている。封印しているのはその力があまりに強大過ぎて扱えないからだ」

「えっ!? でも封印が解かれた時に妖力で爆発する爆弾を渡されましたけど何も起きませんでしたよ? どういうことなんですかユーザン先生!」

「師匠に鍛えられたから魔力も増えたんだ。それ以外に理由なぞ知るか」

「て、テキトーすぎる……!」

「なるほど確かにそれもそうだな。あの婆さんならそういうこともしなくもない」

「それで納得しちゃうの!? 二人ともおかしい……」

確かにあの修行でキツかったがあの程度の修行で魔力が膨大になるかと言われれば否だ。そもそも雄山自身が魔力が膨大すること自体否定していた。

「おかしくねえよ」

「それだけあの婆さんの潜在能力を引き出す力は優れている。……ついて来るならついて来い。来たくなければ来ないでもいい」

勇姿が背を向け、ぬかるんでいる道を移動すると雄山達もその後ろを追いかける。ぬかんだ道の先にあったものは例えるなら千年樹、あるいは世界樹と呼べそうな程巨大な大樹であり、東堂の目からは涙が溢れ出てしまうほど神秘なものであった。

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