第15指導 キラーマウンテン覚醒
ご視聴ありがとうございます!次回あたりで序章は終わりです!
「お前の相手は俺だ! 龍造寺!」
雄山が啖呵を切って龍造寺にそう告げると龍造寺は無言で首を振りかぶり、雄山を襲う。だが雄山はそれを容易く避け、腕を後ろに下げ…一気に空気を前へと押し出す。
雄山の実家である大和一族の秘伝の技、大和空掌砲を放ち龍造寺にそれを当てる。その秘伝の技を使う理由は敵が強大すぎるからだ。大和空掌砲は長距離でも大砲に匹敵するほどであり、近距離になれば金剛石をも軽々と砕く…その一撃が龍造寺に直撃する。
「フン…くだらぬわ!」
だがその程度では龍造寺は倒せない。龍造寺の身体は謎の物質で出来た鱗で覆われており、大和空掌砲で龍造寺にダメージを与えることなど不可能だった。それは雄山も承知の上だ。あくまで雄山がやるべきことは囮だ。
「ハッ!」
雄山は持っていた針を魔力と気で強化し、龍造寺に向けて投げる。その針の威力は鋼の板45mmを貫通するほどの威力だ。しかしそれでも龍造寺の鱗には通らない。いかに龍造寺の鱗が硬いかわかるだろう。
「喰らえいっ!」
龍造寺がその場をジャンプして、雄山を踏み潰そうとする。その巨大な身体から生まれる体重で押しつぶされたら、どんなに身体が丈夫でもペシャンコになってしまうだろう。
「っ!」
雄山は右に行き、今度は龍造寺の目を狙い針を投げる。確かに身体全体は硬い鱗で覆われているが目に関しては別だ。そこだけは無防備であり、素っ裸である。
しかし龍造寺は首を振ってそれを躱す。
「無駄だというのがわからぬか!」
龍造寺の左首が炎の吐くために口を開け、チャンスが訪れる。
「えーいっ!!」
それまで隠れていた東堂によって投げられた爆弾が龍造寺の口の中に入り、龍造寺の腹の中で爆弾を起こす。
「やった! やりましたよ! 先生ぇ〜っ!!」
東堂がそれを見て雄山に抱きつき、身体で喜びを表現する。しかし雄山は喜びを感じていなかった。
「…」
いきなりチャンスが訪れ、東堂も龍造寺の口の中に爆弾を入れた。身体は金ピカなままでもその中身はぐちゃぐちゃになって死んでいる。その証拠に目が白目になり、三つの首が項垂れている。だが龍造寺は聞いていたわけではないにせよ、東堂が離れた時点で警戒なり何なりと出来たはずだ。雄山はそう思っていた。
「どうしましたユーザン先生?」
東堂が雄山が浮かない顔をしていたのを不思議に思い、尋ねる。
「いや…あまりにもあいつが呆気ないと思ってたんだ。これが妖魔連合会を支配していた男なのかってな」
「何言っているんですかユーザン先生! あの爆弾はユーザン先生の作った爆弾でしょ? もっと自信持ってくださいよ!!」
「それはそうだが…今までの経験からするとこんなもんじゃねえ気がする。俺は長期戦になる…そう覚悟していたんだ。なのにこいつときたら妖力と身体だけの虚仮威しなのか…ってな」
雄山が顔を顰め、唸る。雄山が経験した中で一番呆気ない結末だった。魔力…妖怪でいうなら妖力、人間でいうなら霊力に相当する力を膨大に持っているにもかかわらず、ここまで呆気なく倒したのは雄山にとっても初めてだ。
「倒したのが信じられないだけじゃないですか?」
「確かにな。鴨川然り、春澤然り、どいつもこいつもあの爆弾を使わなかったから強く感じただけか?」
鴨川と春澤は後に死んだとはいえ生かしておいたが龍造寺は違う。龍造寺を相手にするには容赦なく全力を尽くす必要があった。
「そうですよ!」
東堂は龍造寺の死体に近づき、その身体にペタペタと叩く。
「こんな冷たい身体が生きているわけないですって!」
「冷たい…?」
雄山はそれを聞いて不審に思った。東堂の目の前で死んだ滝河はすでに冷たくなっていたものの、通常死んだ直後というのは体温がすぐに奪われるわけではない。冷凍物のように冷たくなるのはしばらくの間時間がかかる。
見た目通り冷温動物なのかあるいは…
「東堂! 離れろ!!」
雄山がそう叫ぶが東堂は突然のことに身体が動かない。龍造寺の手が東堂を拘束した。
「ハハハ! 危うく死にかけたぞ…! 小娘!」
「ど、どぉして…?」
東堂が握られながら、龍造寺に尋ねると龍造寺はニヤリと悪魔の笑みを浮かべた。
「此の世にはごく稀に超能力を扱える者がいる…人はそれをエスパーと呼ぶ。我もそのエスパーだ。もっとも我はテレキネシスを応用したもので我自身の衝撃を自動的に打ち消すようなものだがな」
「それじゃあの爆弾も…?」
「汝の想像している通りだ。我の身体は汝の放った爆弾の衝撃を打ち消し、消化しただけだ」
雄山が作った爆弾は妖力を吸収して、それを膨大に膨らませて爆発する代物だ。言ってみれば火薬も使わない衝撃のみの爆弾である。それ故に龍造寺が相手では分が悪かった…
「さて…邪魔者は消えて貰おう」
そして龍造寺は東堂の翼を指を使って捥いだ。
「あぁぁぁっ!!!?」
東堂は悲鳴をあげ、翼の部分から骨が露出し血だらけになる。
「俺の相棒に何をする!!」
雄山は東堂を救うため、攻撃を与えようとナイフを取り出し龍造寺の指の前までジャンプした。
「うるさい奴だ。」
龍造寺の尻尾がハエを落とすハエタタキのように雄山をはたき落とした。
「がっ…!?」
仰向けになり、雄山は受け身を取るが龍造寺の超能力のせいか衝撃が加わり雄山の口元から血が吐き出る。
「大人しくしていろキラーマウンテン! なぁに、あの世ですぐに会えるようにしてやる」
そして龍造寺は手元の東堂を飲み込んだ。
「東…堂…っ!!」
かつて雄山は弟に被害が及ばぬように陰陽師を引退した。そして西智学園都市を救うために陰陽師に復帰した…だが東堂が飲み込まれてしまい、何一つとて変わっていなかった。否、むしろ勇姿の時よりも最悪な状況だ。東堂という大切な相棒が死に、自分は何一つも出来なかった…そんな自分自身に腹が立ち、雄山は涙を流す。
「待たせたなキラーマウンテン。次は汝の番だ」
「龍造寺…俺はお前を殺す…っ!!」
雄山はありったけの殺意を込め、龍造寺に立ち向かい、腕を振った。
▲▼▲▼☆☆☆☆▼▲▼▲
9年前、山奥の某会場にて…それは行われていた。
この会場には黒ずくめの男と強面の外国人しかおらず、怪しさ満点の雰囲気を醸し出していた。
「ソレデハ始メマス」
中国人らしき男が、あまりにも素人すぎて逆に芸術かと思えるほどの絵画を持って来た…
「オオ!! 始マルノカ!」
しかしそんなことは御構い無しに絵画が出てくるとともに会場のボルテージが上がる。
「デハ最初ハ五百カラ!」
「六百!」
「七百!」
そして千五百まで引き上げ、その男が競り落とすと絵画と同時に袋詰めの粉が渡された。そしてその男は絵の方を向きながらその粉を舐め味を確認した。
「ンー…確カニ本物ノヨウダナ」
…もうお判りの方はわかっているだろうが解説させてもらう。そう絵画のオークションに見せかせたマフィア達の麻薬販売である。決められた量でなく値段に応じて量も増える為にここにいるマフィア達が揉めることはない。
「次ハ」
司会者が次に進めようとすると会場の扉が乱暴に開き、一つの影が見えた。
「てめえら全員…皆殺しだ。弟に傷つけたケジメしっかりつけてもらうぜ」
「キ、キサマハ!?」
「てめえらは俺のことをキラーマウンテンなんて呼ぶみてぇだが俺の名前は大和雄山だ。…もっともこれから死ぬ奴に名乗る必要はないがな」
そう、その男は大和雄山だ。かつて雄山はマフィア狩りの仕事を趣味として陰陽師活動をしており、それを楽しんでいた。
「アノ勇姿ノ兄ガキラーマウンテントハ誤算ダッタ…!国ヘ帰ル時ニ襲ッテオケバ良カッタ…」
だがここにいるマフィア達は弟の勇姿を襲撃し、報復した。だがそれが雄山の怒りを買った。マフィアの言う通り欲張らず帰国寸前に勇姿を襲っておけばキラーマウンテンこと雄山といえども追いかけてはこなかっただろう。
「ダガ我々トテ無防備にココニ来タ訳デハナイ!」
しかしマフィアとてバカではない。万が一の時に備えた幾らかの兵隊を寄越し、雄山の前に立ち塞がる。
「キラーマウンテン…ココニ居ルノハ全員ガ本国カラ取リ寄セタヒットマン。貴様トテ死ヌ」
「で? それがどうした。」
「貴公ノ首ハ弟ト一緒ニ海ノ海蘊トナルノガオ似合イダ」
その瞬間、数多くいたヒットマンの首と胴体が二つに分かれた。
「ナッ…何ヲシタ!? キラーマウンテン!?」
「…答える義務はねえよ。てめえらが死ぬ過程を知りたいのか?」
「フザケルナ! ヒットマンダケジャナイ! 腐ッテモオレ達ハマフィアダ! 堅気ニ舐メラレテ引キ下ガルノハヘタレダケダ!」
そのマフィアもまた犠牲となり、死んでいった。雄山の怒りの対象となるマフィアはそれを見て凍りつく…
「なら堅気相手に手を出すてめえらはヘタレクソ野郎だな」
弟は何も知らなかったとはいえ怪我を負わせてしまった…それだけが雄山の悲しみと憎しみを生んだ。
「命令する。死ね」
そしてその場にいたマフィア全員の首が刃物のようなもので切断されていたが警察はその凶器となるものを調査するも見つからず、証拠不十分により雄山を捕まえることは出来なかった。
▲▼▲▼☆☆☆☆▼▲▼▲
時は戻り現在…
「…なっ!?」
龍造寺の三つ首のうちの一つが飛ばされていた。
「龍造寺…てめえの死に場所はここに決まった」
それはあの時のマフィアの時と全く同じだった。
「キラーマウンテン…今になって怒ったのか?」
「当然だ。お前に対する怒りが半分、俺自身の情けなさに半分…それを発散するにはお前を殺して東堂を取り戻す! それだけだ」
「ふん…あの小娘に拘るとは昔のお前が聞いたら信じられぬだろうよ」
「俺の過去のデータなんかに頼っているようじゃお前はもう終わっている」
そして龍造寺のもう一つの首がなくなり、残り一つとなった。
「凡庸な者ならばな。だが…ヌゥゥゥッ!」
龍造寺は首をトカゲの尻尾のように生やして再び三つ首に増やした。
「だが我は妖魔連合会会長、龍造寺時夜也! 妖魔の長となるべくして生まれた者! 汝の力では我を命も行動も止めることは出来ぬということを知れ!」
「妖魔の長なんて器じゃねえよ。お前は」
雄山の一言の後、沈黙の空気が流れ、誰一人も動かない。
かと思いきや、龍造寺が動いた。
「ゴァァァッ!」
炎、吹雪、光線の三つの息が雄山の視界を埋め尽くし、炎の息の通った場所は黒焦げ、吹雪の息は銀河を映し、光線は太陽を彷彿させるような跡がそこに残った。
「龍造寺、一つ教えてやる」
雄山はそれらを交わし、龍造寺の上までジャンプすると手刀を作り、上段構えをとった。
「人間よりもでかい動物は身体を真っ二つにされたら絶対に死ぬ」
そして雄山はその手刀を振り下ろした。
「…それがどうした? 何度でも言う…我は自分に来た衝撃を打ち消す超能力を持っている。故に空掌など効かぬ」
「それが逆に仇になるんだよ」
「何を戯けたことを…!」
龍造寺の鱗に切れ目が入り、それは時が経つに連れ、頭、中央の首、胴体へと続く。
「あ? あぁぁっ!?」
そして龍造寺の尻尾まで切れ目が入り、それを境目とした右半身と左半身がズレ始めた。
「こ、こんなバ…!?」
龍造寺が言い終える前に龍造寺の切れ目から血が噴出する。そして右半身と左半身が別れを告げたかのようにそれぞれの方向に倒れる。
「大和空掌斬。空掌の奥義とされている技だ。ご先祖様がもっとネーミングセンスがあればよかったんだが…そっちの方面は皆無だった。威力はあるくせに厨二臭え名前が欠点なんだよな…空掌ってのは」
そう一人愚痴ると龍造寺の右の首と左の首を切り落とし、担いで東堂に黙礼をする…これで終わったのだ。雄山の教師としての生活も、陰陽師としての仕事も、そして何もかもが。
「…ん?」
だがその最中僅かに声が聞こえ、首を置いて音が聞こえた方向へ向かうとボロボロになった東堂がそこにいた。
「先生〜!」
いつ死ぬかという不安や雄山が助け出してくれたことによって生まれた安堵。そんな感情が入り混じり、東堂は涙を流さずにはいられず、雄山に抱きつく。
「大丈夫だったか?」
「はい…運良く胃に達して胃液に溶かされないように端の方に避難してましたから…」
「それじゃ学園都市に帰ろうか。東堂」
「はいっ!」
こうして雄山達は一度学園都市に帰宅することになった。
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「三頭竜は死んだか…情けない奴だ」
だがこの時雄山達は気づかなかった。顔に傷を負った大男がそれを見ていたことを…
「所詮、失敗作は失敗しか産まないということか。この事をボスに報告するか」
そしてその大男はその場から立ち去り、雄山達から離れた。
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