第12指導 束の間の休憩
序章だというのにまだまだ続きます…
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地下二階にたどり着いた雄山は東堂を休ませる為に資料室…ではなく、他の部屋の中で身を潜めていた。
「…もう19時か、早いもんだな」
雄山はふと時計を見ると午後7時になっていたことに気づく。無理もない。地下一階でだいぶ時間を取られてしまい、東堂の力なしでこの部屋に潜り込むのにも時間を喰った。
「んっ…!」
東堂の目が開き、唸り声を上げる。
「起きたか、東堂」
「ユーザン先生?」
「どうだった? 調子に乗って負けた気分はよ?」
雄山は油断を許さない性格だ。それ故に柔らかく言ってもこの言葉しか浮かばなかった。
「…最高に最低ですね」
東堂が乾いた笑いを取って顔を俯かせる。雄山に見放された…そう思ってのことだった。
「使い方が間違っているがそれを指摘すんのも馬鹿らしい。東堂、いい報告と悪い報告どっちから聞きたい?」
「悪い報告から…」
「今19時を回った。徹夜を覚悟しておけ」
「はい…」
「そして俺らがいる場所…ここが地下二階だ。どの部屋かはまだ分からないがな」
「ってことはあのデカブツに勝ったんですか?」
東堂の表情が安堵に変わり、明るくなる。どうやって勝ったは知らないが少なくとも東堂の敵はいなくなったということには変わりない。
「勝ったと言えば勝ったな。ただ試合には負けて勝負には勝った…そんなもんだ」
雄山は戦いを通して強引に地下一階の床から地下二階の天井まで穴を開けてそこから侵入したのだ。普通であればそんなことは考えずに春澤を倒して強行突破だろう。
「なるほど…でもこれからどうします?」
東堂が納得すると雄山は扉を開けた。
「無論、このまま妖魔連合会本部へ向かうぞ。資料室に行けば妖魔連合会本部に行けるとか言ってたがどうすれば行けるのか具体的には言わなかった…上手い手だ」
「何が上手い手なんですか?」
「まず俺達がすることは資料室で妖魔連合会に行こうと資料室で調べる…それはわかるな? しかし時間が経過すると共に睡魔に襲われる上に資料室の監視は厳しくなり、いつしか動きが取れなくなる。そうなる前に俺達は妖魔連合会への行き道を調べなきゃいけないってことだ」
「つまり時間が決められているってことですね」
「そうだ。制限時間内に妖魔連合会に行く…それが俺達のミッションだ」
「カッコ良いですね。それ…」
「もっとカッコ良くなるにはミッションを成功しないとな…資料室に着いたぞ」
そして雄山達は資料室の扉を開いた。そこにあったのは大量の本…本の壁だった。
「この中から探すんですか…かなり骨が折れそうですね」
「確かにな…だが陰陽術は本にするとここの地下二階が埋まるくらいの量がある」
雄山はそういって東堂に右の方を探すように指示すると自分は左から調べた。
「それ本当ですか?」
「あぁ、ただ陰陽術の中には下らないものがあったり、古すぎて使えないものがあるから量の割に大したことはない。一部が使えるだけだ。それでも基本的なことは書いてあるからオリジナルの陰陽術を作ってみる際には丁度いいかもな。それで九尾を石に変えて封じたって奴もいたくらいだ」
「それって殺生石のことですか?」
「そうだ。まあ詳しい話しはオカルト部でしようや。殺生石の話はオカルト部でも話せるしな」
「それもそうですね」
そして東堂はスイッチを見つけ、何の前触れもなくそれを押した。いやそれを押してしまい、乾いた音が雄山達の耳に響く。
「…東堂、今何を押した?」
雄山は作業を中止して東堂を睨む。この怒り様は東堂が見る限り初めてだった。
「えっと…ここにあったスイッチを押しました」
「馬鹿野郎が! そういう物を見つけたら俺に言え! 罠だったらどうする?」
「…すみません」
東堂が謝ると雄山は右手で頭を掻き、それが終わると左手を東堂の肩に置いた。
「…だがよくやった。どうやらそのスイッチは俺達が求めるスイッチだったようだ」
本の壁が真っ二つに割れ、その先には青白い鉄の扉があった。
「それじゃ行こう…」
雄山と東堂はその扉を開け、中に入る。すると雄山は顔を顰め、東堂は口を押さえた。
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「おいおい冗談だろ?」
雄山がそう口にしたのは理由がある。異常なまでの禍々しい妖力が扉を開けた途端感じたのだ。東堂もその妖力に酔っていた。
「ユーザン先生、きぼち悪い…」
そして東堂はどこからともなく袋を取り出し、そこに食べ物を吐いた。
「(仮にも吸血鬼である東堂すらも吐くほどの妖気か…一体どんな化けもんが眠ってやがる? 全盛期の頃でも勝てるかどうか怪しいな…)」
雄山は東堂の背中を摩りながらそう考える。かつて雄山はキラーマウンテンと呼ばれた陰陽師だ。だがその時の力を持ってしても勝てるかどうか怪しかった。それだけこの妖気は禍々しい物だった…
「うぇ…」
東堂が胃液も出し切ると一台の車が此方へと向かってくる。その車は成金のような悪趣味でなく、上品な高級車だった。
「大和雄山様、東堂美帆様、妖魔連合会本部へようこそ。お待ちしておりました」
そこに現れたのは執事のような青年男性だ。だが雄山はその男から発せられる妖気から人間でないと気づいていた。
「てめえは?」
しかしこの男からは全く殺気がない。そのせいか敵か味方かすらもわからず戸惑っていた。だがわかるのはこの男がかなり胡散臭いということだ。何故自分達の名前を知っているのかはどうでもいい。問題はこの男が敵であるかどうかを見極めなければなかった。
「これは失礼。私、妖魔連合会本部長の五十嵐泰造と申します」
「その五十嵐が何の用だ?」
「会長が貴方と話したいと…そのための送迎です」
「会長…三頭竜か?」
「ええ、詳しい事は車で説明します。さ、どうぞ」
そして雄山達は車へ乗り込んだ。
東堂は吐き疲れてしまい、寝てしまうと雄山と五十嵐は沈黙の空間を作っていた。
「…五十嵐とか言ったな。何が目的だ?」
その沈黙を破り、話しかけたのは雄山だ。雄山は荒事には慣れているがこういったことには慣れていない。いや教師の中では慣れている方だが向こうの方が圧倒的に場慣れしているのだ。
「鴨川から聞いているかもしれませんが妖魔連合会は妖怪達を繁栄させるために作った組織です。妖怪達が人間を侵略する…確かに悪くありませんが最善の手ではないと私は考えています」
「そりゃどういう意味だ?」
「私達が鴨川を使ってテロ活動をしたのは簡単な理由です。妖怪の認識を改めることですよ」
「認識がどうした?」
「妖怪の認識は様々ですが、架空の存在が一般的です。人型の妖怪でもない限りは私達は暮らしていけません。キラーマウンテンと呼ばれた貴方ならご存じでしょう?陰陽師において人型の妖怪や化けられる妖怪等は無闇に殺さないような暗黙の了解があることを…逆に言えばそうでない妖怪は影で暮らすしかありません。その状況を突破する為に人型の妖怪を暴走させ、そうでない者が取り押さえ、英雄視させる…その手筈だったんです」
「俺の存在が誤算だったって訳か。」
「その通り。西智学園都市には陰陽師達が大勢いますが所詮は頭でっかちの派遣のような物。実践なんてあるはずもありませんし、彼らは教育者でありモラリストです。殺す何て真似も出来ません」
「生徒を殺したらモラリスト以前に首になる。当然のことだがな」
五十嵐の言葉を聞いた雄山が即答した。
「どちらでもいいでしょう。ですがかつてキラーマウンテンと呼ばれた貴方が何の因果かそこにいた。貴方がテロ活動を解決したおかげで間中のような巨漢の豚男や端本のような巨漢の牛男等の妖怪が表へ出ることはなくなった」
「で?そのケジメとして死ねと?」
「私個人としては是非そうして貰いたい物です。しかしそれは会長に止められています」
「三頭竜は俺に何の用なんだ?」
「それは会長にご尋ね下さい。貴方を会長の元まで連れて行くことが私の仕事です」
「そうか。仕事に熱心なのはいいが本当に殺らなくてもいいのか? 今なら殺せるぜ?」
「そんなことで感情的になったら私はとっくに死んでいます。会長はそういった部分にはお堅い方ですから…それさえ守ればどんな方でも受け入れてくれます」
「けっ、そうかよ」
それを聞いて雄山は呆れて寝てしまった。これからその三頭竜を殺しにいく相手をみすみす逃してしまうことに納得出来なかったのだ。もっとも理解はしているようでしっかりと寝ているが。
かなりの強面の陰陽師とお転婆吸血鬼少女が眠りにつく様子を五十嵐はシュールに思えたのは心の中に閉まっておいた。
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