土佐の仕置き
土佐岡豊城、評定の間で上座に座る二人の男、一人が嫡男千雄丸、もう一人が久武親直であった。
「皆、良く集まってくれた。大儀である!」
親直は高圧的に話す。
「親直!そこは殿の座る場所ぞ!何故お主が座っておる。降りよ!」
一人の男が進み出て、親直に叫ぶ。
「兄上、いや久武親信!これを見よ!殿からの後見人委任状じゃ。これより我が長宗我部の家宰となり、土佐の舵を取る!」
親直が声高々に発する。
「なっ、馬鹿な!何をした親直!」
親信は親直に叫ぶ。
「煩い男だ。取り押さえよ!」
親直は手を上げて指示する。
「なっ!江村殿、吉田殿迄、お主ら!乱心したか」
取り押さえられて動けない親信に親直は蔑んだ目で見る。
「何とも無様ですな。兄上、皆、我の言う事を聞くそうじゃ・・・はっはっはっ」
高笑いをする親直。
「親直様!大変で御座います!」
一人の若い男が飛び込んでくる。
「なんじゃ、騒々しい。後に致せ!」
親直は迷惑そうな顔をして男を下がらせようとする。
「伊予河後森城に毛利家の軍が集まっております!」
男がそう告げると新たな男が来て親直に話し出す。
「阿波海部城に松永家の軍が集まっております!」
親直は唖然とした顔をしていた。
「何故、毛利と松永の兵が、土佐に一番近い城に集まっておるのじゃ!両家に抗議の使者を出せ!」
親直が叫ぶと新しい伝令が来る。
「城下に武装した民と思われる一団が現れました!その数、百人程です!」
親直はすぐに気を取り直し、指示を出す。
「そのような輩はすぐに駆逐せよ!」
「いや、そのような事しなくても良い・・・」
一人の男が評定の間に入ってくる。
「殿!殿じゃ!」
「重い病ではなかったのか!」
家臣達がざわめく。
「殿、このような場に出てきてもらっては困りますな。離れのお屋敷にて養生して頂かねば、色々と大事になりますぞぉ・・・」
親直がにやりとした顔で元親に話しかける。
「何だ?親直、それは俺を脅しておるのか?」
元親は親直を睨みつける。
「それはどうでしょうか?本当によろしいので?」
にやりとした顔を崩さずに話す親直。
「何をするのか分からんが、好きなように致せ」
元親がそう告げると元親横に千雄丸が姿を現す。
「なっ!こっちにおるのは誰じゃ!」
親直が上座に座る千雄丸を見ると、其処には忍びが一人、胡坐をかいて座っていた。
「我は段蔵、鳶と言った方が分かりやすいか?」
そう言って鳶は姿を消した。
「ああっ・・・」
名前を聞いて親直は全てを悟った。
「捕縛せよ!奴の周りにおる近習も捕らえよ!逆らえば斬れ」
元親が家臣に命令する。
「はっ!」
次々と捕縛され、逆らう者は切り捨てられた。
「おって沙汰を下す、引っ立てよ!」
元親は連れて行かれる者たちを、冷たい目で見つめながら、上座に座る。
「皆、迷惑をかけた。すまぬ」
元親は頭を下げる。
「なっ殿!我らが不甲斐ないばかりに、申し訳御座いません」
何名かの家臣達は、涙を流して頭を下げる。
「喜んで加担した者も、この中にはおるのは分かっておる。腹を切れ!」
元親は叫ぶ
「殿!おゆるしぉ、お許しくだされ・・・」
覚えのある者達が体を震わせて謝罪の言葉を述べる
「今、斬らねば・・・一族郎党切らねばならぬ!」
そう告げる元親
「なっ・・・」
絶句する裏切り者の家臣達。
「分からぬか。毛利や松永を動かせる。あの方が動けば、根切りは免れぬ・・・」
元親は強い意志を持って対面する。
「殿の温情ありがたく・・・御免」
次々と腹を切る家臣達。
「すまぬ、わしの不徳じゃ・・・」
涙を流して詫びる元親。
「半分以上の家臣が腹を切ったみたいね」
俺は評定の間に入って家臣がいる場所を冷めた顔をして見る。
「宰相様、こちらへ」
俺を上座に案内する元親
「お忍びだったんだけどね。まっこの位はいいでしょう。しかし、かなり甘い処置ね」
俺は冷めた顔をしたまま、元親に話しかける
「・・・・・・」
元親は下を向き、体を震わせる
「そんなんじゃ、長宗我部家は潰れるわよ。跡目を息子に譲り、隠居しなさい」
俺はそう告げると長宗我部家臣達から非難の声が上がる
「内政干渉じゃ!」
「そのような横暴聞ける訳が無いわ!」
「織田との一戦も辞さぬわ!」
口々に否定の声を上げる
「ねっ、こうなるから根切りなのよ・・・」
俺は冷めたような声を出すと、皆沈黙する
「あんた達、現実を見てないわね。あんた達のその詰まらない意地や誇りで、この乱世が出来た事を忘れてない?土佐の民の貧しさを見て何とも思わないの?長い月日で武士は高慢になり過ぎたのよ。今のあんた達と同じでね」
「・・・・・・」
元親を含めて下を向き、震える家臣達。
「今からでもまだ間に合うわ。あたしが掃除してあげましょうか・・・」
俺は冷めた目でそう呟く。
「跡目を千雄丸に譲り、隠居致します」
元親はそう告げると、家臣達からすすり泣く声が聞こえる。
「でも、元服させなきゃね。兄様から一文字貰って信親と名乗らせなさい。烏帽子親は兄様にしてもらいなさい」
俺がそう告げると家臣達から喚起の声が上がる。
「兄様やあたしに、蝙蝠って言われないように、信親を助けなさい。いいわね、元親」
俺が沙汰を下すと元親は深々と頭を下げた。
「肝に銘じまして、支えまする」
岡豊城の地下にある牢獄に一人の女がいた。
「親直様、大丈夫ですか?」
女は牢の中にいる親直に話しかける。
「おおっ小少将!助けに来てくれたのか!早く出してくれ!」
親直は小少将に助けを求める。
「はい、今用意しております。まずは水でもお飲みください」
そう言って親直に竹筒を渡す。
「おおっ、ありがたい。丁度、喉が渇いておったのだ。気が利くな」
親直は竹筒の中に入っていた水を飲む。
「ところで、何かしゃべりましたか?」
小少将は親直に話す。
「いや、まだ捕らえられたばかりだからな。喋るつもりも無かったがぁぁ・・・」
喉を掻き毟りながら苦しみだす親直。
「ふっこの役立たずが・・・」
小少将は親直が事切れるのを確認して牢を後にした。
その後ろに影が付き添っているのも気付かずに・・・