表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
お市の天下漫遊記  作者: 女々しい男
7/36

鳥無き島の蝙蝠

彼らの目はまるで飢えた獣のようであった。

如何に男が話しかけようとも、聞く耳を持たない彼らは正しく獣であった。

そんな彼らの前に差し出される料理という名の貢物。

彼らは動いた。彼らのいる場所は戦場と化した。

突き出される箸、逃げ惑う里芋の煮物。

捕らえられ、大きく開けた穴に放り込まれる鰹のたたき。

その光景を二人の男は引き気味で見守るしかなかった。

全てが終わった後、其処には何も残っていなかった。

「ふ~う、生き返ったわ。じゃ帰りましょうか!」

俺は食うだけ食って逃亡を企てる。

「「「「「御意!」」」」」

お供達も同意した

「お待ちを!お市様!」

無粋な男が、食後の至福を邪魔するかのように俺を呼び止める。

「んっ?ああっ、話があるんだったのよね・・・メンドクサッ」

俺は最後の言葉を聞こえないような声で呟いた。

「今、何やら最後に面倒と仰りませんでしたか・・・」

男は恐る恐る話す。

「そんな訳ないじゃないのぉ忠澄・・・地獄耳か」

最後の言葉をまたもや小さな声で呟く。

「地獄耳では御座いませぬが・・・殿、お市様をお連れ致しました」

忠澄は上座に座っていた男に話しかける。

男は上座から降りて、俺に上座に座るように勧める。

「いいわよ、気にしないで・・・」

俺が拒否する言葉を出す。

「いえ、そうは参りませぬ。織田の宰相様としてお話を聞いて頂きたい」

殿と呼ばれた男は頭を下げて俺に嘆願する。

やはりそうなったかと信長を恨みながら、上座に向かい座った。

「でっ?用件は何?あんた元親でしょ。重い病にかかってるんじゃないの?見た目は顔白いけど、凄く元気そうに見えるけど」

俺は呆れたように元親に話す。

「白いのは生来でして、病も患ってはおりません」

元親は俺も確り見て話す。

おやっ?中々の器量に見えるけど・・・試すか。

「じゃなんでこんなとこに?飼い犬に手を噛まれちゃったのかしら?」

俺は情けない者を見るかのように話す。

「返す言葉もありませぬ・・・」

下を向き、体の震えを抑えようとする元親。

「そんなに悔しいなら何故やり返さないの?内乱で織田の介入が嫌なのかしら?」

「・・・・・・」

その言葉を聞いて、忠澄が割り込むように話し出す。

「嫡男、千雄丸様がやつ等の手にある限り、殿は手を出せませぬ・・・」

悔しそうに話す忠澄。

「息子一人の為に、土佐の民を泣かすのね・・・期待はずれね、蝙蝠」

俺は貶した様に話す。

「なっ!幾らなんでも、そのお言葉は酷過ぎますぞぉ!」

忠澄は俺に抗議の言葉を発する

「よい、忠澄・・・まことの事じゃ」

元親は忠澄を手を使って止める。

「あんた達、まだ理解してないのね。武士でいられるのは、民あっての事だと何故気付かない!民が米を作り、魚を取るから食べていけるのよ!そんな民を守り、安心させる事で、我らは武士でいられる!驕り高ぶり、民を疎かにする事が、破滅に繋がると何故気付かない!身内ですら、民の害となる者は容赦無く斬り捨てる・・・それが本来の武士の心得よ」

「「・・・・・・」」

二人は下を向き、肩を落とす。

「あたしはねぇ、この手をどんなに洗っても落ちないほどの血で染めてきたわ。女子供、抵抗すら出来ない生まれたばかりの赤子ですら、この手で斬ってきた」

俺は顔色も変えず、両手を前に出して見つめる。

「「・・・・・・」」

そんな俺の仕草や顔を見て、二人は絶句する。

蜂や久爺、頭領三人衆はそんな俺を見て辛そうな顔をする。

「蝙蝠、あんた天下を目指してたんですってね」

俺は呆れた顔をして蝙蝠を見る。

「・・・・・・」

蝙蝠は下を向き体を震わせる。

「なめるな蝙蝠!覚悟も無いくせに天下を軽々しく口に出すな!!織田の天下!どれほどの屍の上に出来たか・・・あなたの目の前で見せてあげましょうか?」

二人は体をがくがくと震えさせる。

「姫様、そのくらいで勘弁してはどうじゃ。元親殿達も胆に命じておりましょう」

久爺が助け舟を出す、俺はそれに乗る事にした。

「でっ?あたしを動かせば、ただの仕置きでは済まされないわよ。逆らう者は一族郎党根切りよ」

俺は冷たく突き放すように話し、二人を睨む。

「その儀は平にご容赦願いたい」

蝙蝠は深々と頭を下げて頼み込む。

「あたし、お忍びで来てるの。あたし個人の力でいいなら助けてあげるわ」

「「おおっ!」」

二人は顔を上げて喜ぶ。

「でもね、もしあたしが公に出されたら・・・わかるわね」

二人は頭を上下に動かして了承していた。

「じゃ・・・策を講じましょうか」

「「「「「「「御意」」」」」」」

まだまだ俺も甘いなと思いながら夜が明けていった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ