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お市の天下漫遊記  作者: 女々しい男
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食って大事

「取りあえず、宿だなぁ!腹減って死ぬぜぇ・・・」

蜂は腹を押さえながら呟く。

「土佐って海の幸、山の幸両方恵まれてるらしいからねぇ。あたしも楽しみだわ」

俺は夜の食事に期待を膨らませていた。

「歳を重ねると食が細くなりまするが、やっぱり他国に来ると食べ物が楽しみになりますなぁ」

久爺は梵天丸を抱っこしながら話す。

「わし等も他国によく行くが、食事等あまり気にしていなかったのう。しかしこのような旅じゃと楽しみの一つになるのう」

百地がそう話すと藤林と鳶が静かに頷く。

皆、最高の宿を探そうときょろきょろしていた。

すると行き交う人の中に一人の狩衣を着た男が近づいてきた。

「何かお探し物かな?」

俺に話しかけてくる男。

「ええっ、宿を探しているのですが、何所が良いのか。思案しております」

俺は男に返答した。

「おおっ、ならば良い宿が御座います。付いてきなされ」

男は俺達を城下の外れにある宿に連れてきた。

「見た目は古臭い宿では御座いますが、料理は土佐一と有名な宿に御座います」

「じゃここにしましょうか」

「「「「「はい!」」」」」

そう言って俺達の期待を最大限に引き出す男。普通ハードルを高くすると肩透かしを食らいやすいのだが、それなりの物は出るだろうと安易に思っていた。

宿に入り、各々が風呂に入ったり、雑談したりと寛いでいた。

辺りが暗くなり、女将が配膳する料理を見て、皆料理に釘付けになる。

((((((これは間違いなく、うまい!))))))

彩り、新鮮さ、匂い、全てが高得点を挙げていた。

その中でも皆の目を引く者が中央に配置される。

大きな皿に盛り付けられた鰹の切り身を炙り、刺身にした「鰹のたたき」が細工を施されて、龍と虎に見える様にされていた。

皆、その美しさに見とれていた。

「こっこれは・・・ゴクッ」

唾を飲む蜂。

「なんとっ・・・」

目を見張る久爺。

「「「当りだ」」」

頭領三人衆がハモッた。

そして皆が俺を見る、早く食べさせろとせがむ犬のような目で俺に訴える。

「じゃ、頂きまっ・・・・」

(ドカ、ガシャガシャ、ドカ、ガシャガシャ、ドカ、ガシャガシャ、バァーン)

複数の鎧に身を包んだ武士が部屋の襖を荒々しく開ける。

しかし、皆の視線は鰹のたたきから動かない。

「おい、お前ら奉行所迄来い!」

武者の男が叫ぶ。

「「「「「「・・・・・・」」」」」」

皆、男の話を無視する。

「聞いておるのか!バァーン」

男は叫び、やってはならない過ちを犯す・・・料理を足蹴にしたのだ。

男に蹴られて、鰹のたたきが盛られていた大皿が吹っ飛び、他の料理も道連れに壊滅する。

ある者はこの世の終わりのような顔をして下を向き、またあるものはこの世の嘆きを一身に受け止めるような顔をして天を仰いだ。

皆に共通したのは一つ・・・

嘆きや悲しみは一瞬で怒りに変換される。

「「「「「「死んだぞぉ!!!」」」」」」

暴れ狂うお供達、ある者は武者を引きずり回して庭に放り投げ、ある者は扇子で武者の兜をポカポカと叩き、ある者は鎧の隙間に手裏剣を投げつけて武者を戦闘不能にする。

一瞬で武者は無力化される。

残ったのは見るも無残な料理だけであった。

皆は無残な姿に成り果てた料理を前にして涙を流す。

「皆様!こちらに!付いて来てくだされ!」

宿を紹介してくれた男が部屋に飛び込んできて、慌てた様に俺達を連れ出そうとする。

「・・・なんで」

俺はショックから立ち直れずに男から目を離し、無残な料理に視線を移す。

「違う場所にて食事は用意させまする!急いでくだされ!」

男は叫ぶ。

俺達はすぐに男の言う事を聞いて付いていく。

「料理、何所・・・」

片言の単語しか出ない俺。

「まさか、騙したんじゃねぇよなぁ・・・」

蜂にどす黒いオーラが湧き上がる。

それに感化されて他の者からも、どす黒いオーラが出そうになっていた。

「ありますから!すぐ用意させますから!あっあそこです!」

男は危険を察知したのか、すぐに返答して、指を刺す。

そこは山中に、ぽつんと一つだけ建っていた屋敷だった。

「あんた誰?」

俺は狩衣を着た男に話しかける。

「長宗我部家臣、谷忠澄と申します」

忠澄は深々と頭を俺に下げる。

「ふ~ん、じゃあたしの事も知ってるのね・・・」

俺は不審者を見るような目で忠澄を見る。

「はい、織田信長様の妹君であり、織田宰相お市様。数々の無礼、お許しください。主、元親がお市様を待っております」

忠澄は頭を下げて話す。

「宰相って言うけどさ。あたし、無官だし、役職も無い。ただの行き遅れの姫よ?」

俺は首を傾げながら、そう伝えると忠澄は驚いたように話し出す。

「お市様は知らないので?先日、信長様直々の書面にて通達があり、お市様は宰相という新たな役職に任命されている事に・・・」

「そんな馬鹿な。兄様・・・」

俺は頭を抱えて蹲る。

「なんでも、信長様の許可無くとも。あらゆる決定権を持つとの事でございますが・・・」

おいっ・・・丸投げじゃんか。信頼しすぎじゃろ!謀反起こしたらどうするの!

「オワタ・・・マイライフ」

俺は誰にも聞こえないように小さく小さく呟いた。

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