傾国の女
男女が交合い、一息ついたそんな時、女が項垂れるように男に寄り添い呟く。
「親直様、これで誰の目も気にせず、逢えますわね」
女の呟きに親直は困った顔をして答える。
「まだ不味かろう、殿を幽閉したばかりじゃ。もう少し我慢してくれ小少将」
親直は小少将の顔を撫でながら呟く。
「あのような男、消してしまえば良いではないですか。貴方と私の子を跡目にすればよいだけの話、表向きは元親の子としてね・・・ふふふっ」
微笑む様に笑う小少将に、親直はまたも困ったような顔をして話す。
「今は嫡男千雄丸を使い、家中を我が物とせねばならぬ。それが終われば追い落として、わし等の子に長宗我部当主をやろうぞ」
小少将は少し拗ねた様な顔をして顔を背ける。
「今は太平の世になったばかり、時をかけて準備するのが上策よ。急げば織田に気づかれる」
「でも、家臣達は納得してるのかしら?時をかければ、裏切り者が出ないとも限らないわよ」
「元親に書かせた後見人了承の書面を見せれば、馬鹿どもは言う事を聞くわ。それに家臣達は皆不満を持っておるからな。このように手際良く元親を追い落とせたのも、織田の政策さまさまじゃ・・・はっはっはっ」
二人はそれからまた交合いを開始していた。
一行が土佐に入るとその貧しさに絶句していた。
「なにこれ・・・」
俺は絶句した。
「姫、これが現実だぜぇ、土佐一国じゃやってけるわけねぇ。ただでさえ土佐は豪族が幅をきかせてる土地だ。織田の直轄地のような民への対応なんてないのさぁ・・・」
蜂は辛そうな目をして俺に話す。
「あんた、知ってたの?」
俺は蜂に鋭い目で威圧する。
「知ってたさ、これでも川並衆の頭だったんだぜぇ。嫌でも耳に入るさ」
蜂はそう言って俺を見る。
「何で言わなかったの?」
俺がそう話すと蜂は辛そうな顔をして話す。
「姫が・・・悲しむからな」
蜂は下を向き、辛そうにしていた
「そう、気を使わせちゃったわね・・・ごめんね」
俺は蜂に謝った。
「やめてくれぇ、姫にはそんなの似合わねぇからよぉ・・・笑っててくれ」
蜂は恥ずかしそうに顔を背けた。
「でもなんでこんなに貧しいの?流通を増やせば、それなりにやってけるはずだわ」
俺がそう伝えると蜂は辛そうな顔をして話す。
「長宗我部家が閉鎖的なんだよ。他国からの通行をかなり制限してる。さっきの関所も厳しかったろ、おいそれとは土佐に入れねぇ」
「・・・・・・」
「それに見てみなぁ、長宗我部の有名な一領具足だぁ」
蜂が指を刺すと、畑を耕す男のそばに具足と槍が置いてあった。
「まだ刀狩が行われてないのね・・・」
俺はそう言って具足と槍を見た。
「できねぇのさ、今、取り上げたら内乱が勃発しちまう。だから徐々に進めようとしてるんだろうけどなぁ。ちと遅すぎるかもな」
蜂は不安な顔をする。
「織田の届けにも、刀狩が完了したとの報告は来てないわね」
俺はあごに手をやって頷く。
「税率も織田に言われた通りにはしてないのかもなぁ・・・」
「姫若子、噂が一人歩きしてる凡人か。兄様が言うように(鳥無き島の蝙蝠か)・・・」
俺はそう思った時に半蔵が現れる。
「姫、織田に長宗我部から届けが来ました。長宗我部元親様、重い病の為、職務から離れたそうで御座います」
肩膝を付いて話す半蔵。
「そう、何やら動いてるのね・・・」
俺が呟くと半蔵が話し出す。
「我の手の者を姫の護衛に付けました」
「んっ?そんなにやばい?」
俺が半蔵を見ると頷く。
「半蔵の手の者だけでは心許ないのぉ」
「俺が警護する」
二人の忍びが現れる。
「なっ!百地!藤林!お主ら汚いぞぉ!我も残る!」
半蔵は二人を見てそう叫ぶ。
「お主は役目があろう?帰れ」
百地が冷たく半蔵に話す
「そうだ、織田の諜報機関の纏め役があろう。ここに来るのも不味かったのではないか?帰れ」
にやりとした含み笑いをした藤林が半蔵に告げる。
「ぐっ、お主らが我に押し付けたのであろうが!御主等だけ姫と共に居れるとは卑怯じゃ!汚いぞぉ!」
半蔵は地団駄を踏んで悔しがる。
「戻れ、半蔵」
「御意・・・」
俺がそう呟くと悲しそうな顔をして了承の言葉を残して消えていった。
「百地も藤林も良かったの?伊賀から離れて大丈夫?」
俺が心配して話すと二人は笑顔で答える。
「織田の政策が浸透して伊賀も大分ましになったのじゃ。後は若い者に任せようかと思ってな」
百地、それは面倒だから丸投げしたんじゃないのか?って思ったけど言えなかった。
「ここに来る時に、各忍びの長達とくじを引きましてな。姫の護衛は私達二人が勝ち取りました。風魔小太郎、出浦盛清、鵜飼孫六らが不満を口にしておりましたが・・・勝ちは勝ちなので」
おめえら、絶対細工しただろ!って思ったけど言わないようにした。
「まっ取りあえず、岡豊城の城下まで行きますか」
「「「「「御意!」」」」」