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お市の天下漫遊記  作者: 女々しい男
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果て無き道

俺は屍となっていた。

長き船旅で疲れたのではない。

俺の後ろにある紙の山、書類が人を殺せると知った今日この頃。

「母上、見えましたよ。日の本に着きましたよ」

船室の扉を開けて入ってくる梵天丸。

「そっ・・・」

俺は足取りも覚束無い感じで甲板に出る。

眩しい日差しと、懐かしい匂いを嗅ぎながら、目を細める。

「お母様、大丈夫ですか?」

少しお腹が大きくなった女の子が、俺の横に来て支える。

「キャサリン、あたしなんかより、自分の体を気遣いなさい」

俺はキャサリンを見ながら、微笑むとキャサリンは顔を赤らめて、梵天丸に向かって、少し困った顔を向ける。

「母上、キャサリンを苛めないでください」

梵天丸は少し赤い顔をして、俺に話しかける。

「苛めてないわよ。からかっただけよ」

そう言って俺は微笑んだ。

「良かったわ。間に合ったみたいね、ジパングに着く前に生まれちゃったら、どうしようかと心配していたから、本当に良かったわ」

甲板に用意されていた、テーブルと椅子の一つに座っていた、ベスが話しかける。

「そうね、出来たと知った時は、台湾に滞在するか悩んだものね」

俺が椅子に座りながら、話す。

「皆様にご心配をおかけして、申し訳ありません」

キャサリンが顔を下に向けて、呟くように謝る。

「いやいや、いいのよ。うちの子が後先考えず、やっちゃうから・・・」

俺は梵天丸を睨みながら呟く。

「うっ・・・」

梵天丸が気まずそうな顔をする。

「こればかりは、天からの授かりものだからな。気にするな梵天」

信長が梵天丸の肩に手を置くと、梵天丸は苦笑いを浮かべる。

「授かり物は良いのです。時期を考えろと言っただけでございます。日の本に着いてからやれば、良い話だというのに兄様の様に見境無しにすれば、周りが困るという事を言っておるのです」

俺が信長と梵天丸を見て話す。

「うっ・・・」

信長はそそくさとベスの横に逃げるように移動して椅子に座る。

「ベス姉様をどう紹介するのですか?あたしは助けませんよ」

俺は追い打ちをかけるように信長に話しかける。

「えっ?あたしを誰に紹介するのですか?」

ベスは首を傾げながら、俺と信長を交互に見る。

「まさか・・・言ってないのですか」

俺は呆れたような顔をして、信長を見る。

「うっ・・・」

信長の顔がどんどん青くなる。

「ちゃんとしないと、ベス姉様がへそを曲げたら、大戦になるのです。もしそうなれば、あたしは兄様の敵になりますよ」

俺は冷めた目で信長を見る。

「なっ!市・・・見捨てないでくれ」

情けない顔をする信長。

「そうなれば、我ら、姫さんに付くぜっ」

鴉がそう言うと周りにいた慶次や頭領三人衆、梵天丸が頷く。

「我の味方はおらぬのか!」

信長がうろたえる。

「私は信長様の味方ですよ」

そう言って信長の腕を掴むベス。

「ベス姉様、兄様は日の本に奥さんが居るのです」

俺は素直にベスに話す。

「なっ!市!」

信長は体を震わせて驚く。

「分かっておりましたよ」

ベスはいつもの笑顔で俺に話す。

「えっ!」

俺達は驚く。

「知っておったのか・・・」

信長はベスの顔を見て呟く。

「ええっ、信長様は素敵ですもの。居ない方がおかしいですもの」

ベスは笑顔を崩さずに信長の目を見て話す。

「それでも良いと申すのか」

信長は恐る恐るベスに話しかける。

「良くはありませんが、好きになってしまったのですもの。仕方ないですわ」

そんなラブラブを当て付けのように見せつけられて、白け切った俺達は、そそくさと上陸の準備に、取り掛かるのであった。

船が堺に着くとそこには見慣れた顔の者達が勢ぞろいしていた。

俺は船から降りるとそれぞれの顔を見ながら叫ぶ。

「ただいま」


こうして俺は西の果てから東の果てに戻ってきた。

年を重ね、次々と世代が変わり、これから色んな事が起こるだろう。

俺や信長が願った事は生きている間には完結出来無い。

思いを次の世代に、決して驕らず、民を考える者で有り続けれるように願うだけだ。

俺の漫遊は暫く、お預けだろう。

次世代の育成に残りの人生を使う・・・

上を見上げると雲一つ無い晴れ渡った空が俺の目に飛び込んでくる。

「我が人生に悔いなし・・・」



織田の治世を長く見守った、織田従一位参議宰相市は八十八歳まで生きて、玄孫の女の子、小市と遊んでいる際に、庭先で眠るようにこの世を去る。

その死に顔は笑顔で微笑んでいたという。

お市の薨去は世界に衝撃と悲しみを与え、織田の民、エリザベスの民が三日以上、泣き続けたと言われる。

葬儀は国葬となり、世界各国から大勢の人々が日の本に集まり、参列したという。(書には推定五〇〇万人以上と記録される。これは古今東西で、例の無い人数であると共に、今後破られる事は無いと思われる)

時が流れ、織田の政治が終わり、民間に移譲された時の織田当主はこう述べたという。

「この政権の移譲を民間へ行えた事は、織田の念願であった。これで私は信長と市に自慢できる」

高らかに宣言して締めくくったという。

民主投票により、第一回、日の本初代大統領は有権者90%以上の投票があり、候補者は三人出馬したが、投票獲得数98%と言う驚異的な数字で織田市が選ばれるという珍事が起こる。

織田市は出馬もしていなければ、一〇〇年も前に亡くなった者であったが、初代大統領は織田市として記録された。

再度行われた選挙により、第二代大統領には、織田家当主であった織田信市が選ばれる。



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