それぞれの悪巧み
西洋のゴタゴタをある程度治めた俺達は、大量に購入した西洋書物と、グーテンベルク印刷機数台を先に帰国させる船に乗せる。
そして護衛の為に数隻だけ残して、李旦に織田の全船団を預けて先に帰国させた。
残った俺達はゆっくりと帰国の用意に取り掛かっていた。
「本当に、帰国されてしまうのですか・・・」
女が男に泣きながら、項垂れて呟く。
「うぬ、そんなに長く国も空けられぬしな。ベスも付いてくるか?」
男はベスに軽く言う。
「えっ!宜しいのですか!信長様、何処までも付いて行きます!」
ベスは信長にしがみつき、顔を向けて呟く。
「ダメに決まってるでしょ!ベス姉様!王国はどうするのです。セシルが泣きますよ!」
俺が慌てて叫ぶと、もうセシルは泣いていた。
「う~ん、あっそうだ!セシル!マウリッツを呼んでちょうだい」
ベスは閃いた顔をして、セシルに命令する。
「まさか・・・」
セシルは顔色を悪くする。
「ベス姉様、マウリッツ殿に王位を譲るとか言わないですよね・・・」
俺は思ったことを、口に出してみる。
「流石、市ね!当たり!」
ベスが笑顔で俺に話しかける。
「・・・・・・」
俺は頭を抱えながら、蹲った。横には同じようにして、蹲るセシルがいた。
それからしばらくして、マウリッツが到着すると、ベスは暫く王位を継承してくれと頼む。
マウリッツは恐れ多いと何度も固辞するが、ベスに巧みに誘導されて、頭を縦に振ることになる。
「本当にすぐ帰ってきてくださいね・・・」
マウリッツは涙目になりながら、ベスに嘆願する。
「わかってるわ。ちょっとジパングを見に行くだけだから、直ぐに戻るわ・・・多分」
ベスは最後の言葉を聞こえないように呟く。
「マウリッツ陛下、頑張りましょう。このセシル、出来るだけ力となります」
セシルは完全に諦めて、マウリッツを元気づけようとする。
「最後の方に・・・多分と聞こえたような」
マウリッツは首を傾げながら呟く。
こうしてウェストミンスター寺院でマウリッツは臨時戴冠式を行い、王国を臨時継承することになる。
エリザベス一世の発言力は常に持たれていた為、マウリッツから王位を剥奪する事も可能な状態であった。
その為、引き続き皇太子は織田政宗であり、王位継承権はマウリッツには発生しない特殊なものであった。
「でもいいの?兄様、濃姉様の事、忘れてない?」
俺が呟くように信長に伝えると、顔色を青くしていた。
やっぱり、忘れてたな・・・。
「どうすればよい」
信長は俺に救いを求めようとする。
「知りませぬ」
俺は一蹴すると信長は膝を地面に付け、空を仰いでいた。
「あっセシルちょっといい?オスマンの皇帝とは繋ぎ取れないかしら?」
俺はセシルを見つけると、呼び止めて話す。
「なぜ?オスマンとの繋ぎが必要なのでしょう?」
セシルは首を傾げながら、俺を見る。
「それはスエズに運河を作りたいのよ。そうすれば安全だし、西洋と東洋が近くなるわ」
俺はクッキーを食べながら話す。
「なっ!」
セシルは驚きを隠さない。
「費用は織田、エリザベス、オスマンの三等分で出資して作ろうと思ってるのよ。通行料で元は確実に取れるからお得よ」
俺は紅茶を飲みながら話す。
「おおっ!」
セシルは感嘆の声を上げる。
「ただ、問題が二つあるのよね。何十年も月日が必要なのと、オスマンの情勢が思わしくない事がネックなのよね」
俺は真剣な顔をしてセシルを見る。
「サフィエ・スルタンで御座いますか」
セシルは俺にキーマンになるだろう人物を口に出す。
「ええっ、でも彼女はオスマンを憎んでいるわ。オスマンが力を持つ事を喜ぶとは思えない。オスマン帝国の民への政策は好ましいのだけど、上に立つ者が腐ってるわ。せめてスレイマン1世とは言わないけど、ソコルル・メフメト・パシャが生きててくれたらと思って仕方ないわ」
俺は辛い顔をして話す。
「なるほど、確かにソコルル・メフメト・パシャがスエズに運河を作ろうとしたと聞いたことがあります」
セシルは頭を縦に動かしながら、呟く。
「確実なのは、中東を私たちが抑えて、オスマンを排除する事が、一番いい形かも知れない。でも織田とエリザベスだけになるから、負担はかなり辛くなるかもだけど、貧困層の仕事場として考えれば、有りとも言えるけど・・・オスマンも黙ったままではいないだろうし、そうなれば、建設中の安全が保てない。上手く譲歩が引き出せると言いのだけど・・・」
俺は顎に手をやり考え込む。
「サフィエ・スルタンはオスマン帝国の力が弱まる事を考えているとすれば、考えようはあるかと・・・」
セシルが悪い顔をして俺に話しかける。
「あなたも意外と悪党ね。でもそれがいいのかもね。彼らだけで作ってもらいましょう。任せても大丈夫かしら?」
俺はセシルを見つめながら話す。
「お任せを、上手く作れたら貰いに参りましょう。その際は織田の力もお貸し願いたい」
セシルはニヤリと笑う。
「ええっ、織田とエリザベスは一心同体よ」
俺達は悪い顔をして、笑い合っていた。




