梵天丸の元服
三人の子供が遊んでいた。
それを微笑ましく見つめる四人の男女。
「子供はいいですね。もっと早く貴方に出会えていれば、私にも子供がいたのでしょうか」
そう呟いて、男の腕を手繰り寄せる女。
「ベス、己の血の繋がりなど、それほど気にする事ではない。血が繋がらずとも、市と梵天のような親子もある」
信長の腕を抱きしめるベスに囁く。
「私は自分の血の繋がる子供はいませんが、沢山の子供達と触れ合い、色んな事を教えられました。そしてその思いは、子に必ず伝わるものだと、実感しております」
俺はベスを見つめ、紅茶を飲みながら、優しく話す。
すると梵天丸が女の子の手を握ったまま、俺の元に走ってくる。
「母上、私はこの女性と一緒になりとう御座います」
そう言って手を握り、連れて来た一人の女性を見ながら、俺に話しかける。
「ぶっ!」
俺は口に含んでいた紅茶を噴出す。
「ほう・・・」
「まっ!」
「なっ!」
三人の男女はそれぞれ違う反応を示す。
「キャサリン・セシルと言う子です。駄目ですか?」
梵天丸は真剣な顔をして俺を見る。
「いえ、貴方はこの母が駄目だといったら、この子を諦められるのですか?」
俺は椅子から立ち上がり、少し屈むと梵天丸の目を見て話す。
「いえ、諦める事など出来ません!」
梵天丸がそう強く俺に話す。
「そうですか。それほど気に入ったのですか」
俺はそう言って連れて来たキャサリンを見る。
「私も梵天丸様が好きになりました。離れたくはありません」
そう言って俺の目を見るキャサリン。
「セシル、貴方はどう考えるの?」
俺は振り向かずに、セシルに話しかける。
「本人同士が好き会って一緒になるなど、我らには出来ない事。しかし親として、好きなもの同士が結ばれる事を、嫌がる親がおりましょうか」
セシルはキャサリンを見つめながら話す。
「もう会えないかも知れないわよ。おいそれと、遊びにこれる距離ではないわ」
俺は念を押すように、セシルの顔を見て問う。
「はい、娘がそう望み、相手がお市様のお子であれば、私としてはありがたく、不服など無いお話です」
セシルは頭を深々と下げて俺に話す。
「兄様、梵天丸を元服させて、キャサリンを嫁に貰っても良いかしら」
俺は信長を見て話す
「うぬ、ちと早いが良いだろう。我が烏帽子親をしてやろう。名はどうする?我の一文字を与えても良いが」
信長はそう言って微笑む。
「名は決めております。この子を貰った時から、正宗と・・・」
俺は梵天丸を見つめて呟く。
「ほう、伊達の中興の祖の名前を使うか。流石、市よな。良い名じゃ」
信長が頷きながら、梵天丸を見つめる。
「式は私が用意しても良いですか?」
ベスがうずうずしながら、会話に入ってくる。
「陛下自ら!」
セシルは恐れ多いとうろたえる。
「私の養女として式を挙げさせたいのです。駄目ですか?セシル」
ベスが恐ろしい事を口走る。
「なっ!そんな事をなさいますと、王位継承権が発生してしまいます!お考え直しを!」
セシルが狼狽しながら話す。
「ええっ、私の後をこのような子に、継いで貰いたいですもの」
ベスは梵天丸の頭を撫でながら話す。
「西洋の頭の固い王族に、この王国を握られるなんて考えたくもない」
そう言って嫌な顔をするベス。
「それほど、お気に召したのですか・・・」
セシルは神妙な顔をする。
「この子達が子を産んだら、一人で良いので私に下さいませんか?」
そう言って微笑むと、梵天丸を見つめるベス。
「はい!ベス伯母上に差し上げます」
梵天丸はそう言って微笑むと、周りから優しい微笑みが溢れる。
「それまで長生きしなければ、いけませんね。早くお子を見せてくださいね」
ベスは念を押すように話す。
「長生きと言えば、西洋ではペストが万延しているようですね。対処方法をお教えしときましょう」
俺が呟くとセシルとベスが目を飛び出るかの様に驚き、俺を見る。
「ペストは鼠が病の発生源です。鼠の駆除を行い、街を衛生的にすれば、蔓延しません。あとペストは人から人へと伝染するので、発病したら隔離して治療する事。また土葬は止めて火葬するようになされば、病は拡大しませぬ」
俺は紅茶を飲みながら話す。
「なぜそのようなことが、わかるのですか!」
セシルは驚きながら、俺に叫ぶ。
「う~ん、乙女の嗜みですかね?」
俺は微笑みながら受け流した。
こうしてエリザベス一世の主導の元に政宗とキャサリンの結婚式がウェストミンスター寺院で執り行われる。
政宗側の父母は信長と市。キャサリン側にはエリザベスが参列した。
その際、ベスは政宗を皇太子に指名して、俺たちを驚かせる。
これにより内外に織田政宗がエリザベス王朝の王位継承権第一位の人物と知られるようになる。
ロンドンの民はスペインから国を守った英雄の子の結婚とエリザベス一世の子となった事を大いに喜んだのである。
この事に不満を持った貴族達は兵を起こすが、民衆が付いて行かなかった為、すぐに鎮圧される事になる。
織田とエリザベスの結びつきに、危機感を募らせた西洋のカトリック系の国々は、代理戦争の場と化したフランスに強く介入し始める。
それを素早く察知していた俺は、織田の船団をフランス沿岸に侵攻させ占領し、フランスを恫喝するとフランスはエリザベス一世に降伏し、フランス王にエリザベス一世は選出されて王となる。
この拡大に自信を持ったオランダのマウリッツはエリザベス一世に従順する事を宣言して傘下に収まる。
のちの話ではあるがエリザベス一世死去から政宗の子がイギリス王になるまでの空白期間を暫定統治王としてマウリッツが在位するのであった。




