信長とベス
ロバート・セシルがイングランドに到着してから、一月ほど後に俺達は到着した。
五十一隻の鉄甲船はイングランド人には異様な光景として移ったようだ。
その中にイギリス海軍の中将でもあり、海賊としても有名なフランシス・ドレークもいた
「なっ!あのような船があるのか。我らの船のようで大きさが三倍以上はある。周りは鉄で覆われておるとは、砲門の数が片面だけで十二門だと!前甲板には2門の回転式大砲、開閉式の鉄砲狭間が多数、大砲の上に配置されている。なんなのだあれは・・・」
フランシス・ドレークは織田の船を見て驚愕する。
「あれは私が見た船と違います。これは新しい型の船なのでしょう」
セシルは呟く。
「我らの船が、玩具に見えてしまう・・・」
ドレークは自然と体が震えていた。
「こちらに来る途中で拿捕したという船の数、現在のイングランドの所有する全船舶数に匹敵しますぞ」
港に入りきれない船が沖合いで浮かんでいた。
「・・・・・・」
ドレークは言葉を無くしていた。
「良いですね。けして怒らせないで下さい」
セシルは念を押して、織田の王女の出迎えに向かう。
拿捕した船舶と乗組員は織田の兵に取り囲まれて暫く保留となり、俺と信長はセシルの案内で王宮に招待される。
王の間に通されるとエリザベス一世が椅子に座ったままで謁見する。
「遥か、遠方より良く参られた。跪き、名を名乗る事を許す」
女王の横に立つ男が高圧的に言葉を発する。
「ほう、我が下座で出迎えられるとはな。久しぶりだ・・・」
信長はエリザベスを見て呟く。
「そうですね。遥か遠方より来ましたのに、このような出迎え、これが英国式ですか?ならば・・・消して差し上げましょうか」
俺も静かに怒りを露にする。
「なっ!なんという事を!エセックス伯、イングランドを滅ぼすつもりか!」
それを見たセシルが、慌てて前に出て、高圧的な態度を取っている男に抗議する。
「何をそんなに脅える必要があるというのだ。蛮族の王と王女に対しては、過ぎたる礼儀だと思うがな」
エセックス伯は強気な発言を繰り返す。
「ふっ興ざめじゃ、帰るぞ市。此処には民を考える者などおらん」
信長はそう言ってエリザベスに背を向けて去ろうとする。
「お待ちください」
先ほどまで織田の艦隊を見ていたドレークが慌てて入ってくる。
「んっ?海賊上がりのドレークか、お前がこのような場に入れる身分と思っているのか!」
エセックス伯はドレークに怒鳴る。
「喧しい!あの艦隊が敵に回ったら、このイングランドは焼け野原になるぞ!あの船に勝てる西洋の船など存在しない!いや世界であの船に勝てる船は無い!」
ドレークは叫ぶ。
「エセックス伯、下がりなさい。貴方の言は聞けません、自宅にて謹慎していなさい」
エリザベス一世はエセックス伯に向かって話す。
「なっ!後悔されますぞ!」
エセックス伯は捨て台詞を吐いて王の間から退出する。
するとエリザベス一世は椅子から立ち上がり、信長の前に来て膝を付く。
「「なっ!」」
セシルとドレークは女王の行動を見て、驚きの声を上げる。
「臣下の無礼と、私の高慢さから出た今回の態度、お許しください」
女王は頭を下げる。
「良い。王たる者、むやみやたらに頭を下げなくても良い様にしておかねばな。その行動と言葉で、先ほどの事は忘れよう。頭を上げられよ」
信長はエリザベス一世の顔を見ながら話す。
「はい」
エリザベス一世は顔を上げると信長と近い場所で目線が絡み合う。
「ほう、綺麗な顔をしておるな」
信長がエリザベス一世を覗き込むように見る。
「なっ!もう歳を取り過ぎて、その様な事・・・」
エリザベス一世は顔を赤くして信長から顔を背ける。
「いや、まだまだ女盛りと思うがな」
信長はそう言って追い討ちをかける。
それを見て、あれは反則だろうと俺は思う。信長は意識せずに言うからな。
「そっそんな事は・・・」
エリザベス一世はおろおろと挙動がおかしくなる。
「女王でなければ、日の本に連れ帰りたいくらいじゃ。はっはっはっ」
信長は高笑いをしていた。
俺は嫌な予感がしてたまらない。
このような状態では話が進まないと思った両陣営は明日仕切り直す事にした。
予定の時刻に皆が集まるが主役であろう二人が居ない。
「慶次、兄様知らない?」
俺は後ろに控える慶次に問いかける。
「へっ、俺はしらねぇな・・・」
明らかに挙動がおかしい。
イギリスの陣営もなにやら慌てている。
すると兄様は大きな扉の向こうから遣って来た。
しかし、兄様の隣で腕を絡ませ、項垂れる女が居た・・・
「「「なっ!」」」
俺、セシル、ドレークの三人は大きく口を開けて驚愕する
「待たせたな。話をするか」
驚く俺達を気にせず、話しかけて、椅子に座る信長。
その横にいた女性は、椅子をせかせかと動かして、信長の横に寄せると、その場所に座る。
「兄様、隣の女性はまさか・・・」
俺は恐る恐る信長に話す。
「んっ?ベスの事か?あの後、夜にワインを飲み交わしてな。色々話しておったら、なにやら我に惚れた様でな。食べてしもうた」
信長は何か悪い事でもしたのか、という顔をして俺にぶっちゃける。
「陛下!」
その会話を聞いていた、セシルは叫ぶ。
「信長様に女にして頂きました・・・ポッ」
女王は顔を赤らめて、信長に絡ませてある腕に顔をうずめる。
「食べてしもうたではないでしょう!国際問題ですよ!」
俺は頭を抱えながら、連れて来た事を後悔する。
「なってしまったものは、しょうがないではないか。そんなに気にするな市」
信長は俺に話しかける。
「そうです。市も私を姉と思ってベスと呼んでくださいね」
俺に最高の笑顔をして話すベス。
「あっ・・・はい。ベス姉様」
俺は思わず、言わされてしまう。
「まっうれしい。後で信長様と一緒に紅茶でも飲みましょう」
そう言って微笑むベスを見て、俺達は何も言えなくなるのであった。




