行きはよいよい
琉球、台湾、ルソンを通り、スマトラ島で最後の補給をすると、遊んでいた李旦率いる織田の最新鋭の鉄甲船五十隻に護衛されて一路、陸伝いに進む。
暇な船旅の間に信長と梵天丸に語学の英才教育を施す。
英語、中国語、オスマン語を叩き込む。
梵天丸には慶次が武術を教え、鴉が銃や大砲の扱い方も教えていた。
途中スペインの嫌がらせを一蹴し、逆にスペイン船の品物や食料、弾薬を奪い、補給しながら進む。
中東、アフリカ沿岸を植民地にしていたポルトガルの嫌がらせも、俺達には単なる補給地点として、必要な分だけ略奪して、領土や奴隷は解放していった。
「ふむ、骨の無い相手だな・・・」
信長が呟く。
「まっこの辺は中継地点としか、機能させてないんでしょうね。これなら明の方が強いかしら?」
俺は首を傾げながら話す。
「それなりに改良させてきたからな。この辺で梃子摺っていたら、スペインやポルトガルの本拠地周辺では、役に立たぬじゃろうしな」
信長が呟く。
「織田の領地が無くても、襲い掛かってくる敵から略奪すれば、こんな快適な船旅が出来るものね」
俺はそう言いながら、南国の果物をほうばる。
「金を出さずとも、手に入るという事は、海賊になる奴の気持ちも分かるな」
信長は恐ろしい事を言いながら、金品や珍しい品物を見てにやつく。
「兄様の今持ってる物で食糧も買えるしね。武器さえあれば、何にも持ってこなくても世界一周出来そうよね。拿捕した船も大漁だしね。彼らも私達に使われて、奴隷になった人の気持ちも判るでしょうし・・・」
そう言って後方を見ると、縄で縛られた南蛮船が数十隻連なっていた。
「しかし奴らの船の中を見たら、気分が悪くなって、皆殺しにしそうだったぞ」
信長は気分が悪そうに呟く。
「そうね、何処かで攫ってきたんでしょうけどね。女を欲しがるのは分かるけど、あれは人として扱ってないと分かるわ」
俺は船倉の中で、犯され続けたであろう女達を思った。
「狂っていれば、まだ救いはあっただろうがな。意識を保っていた女子は・・・」
信長は辛そうな顔をする。
「兄様が女達に刃物を渡したら、自害する女が多かったわね・・・」
俺は海を眺めながら呟く。
「赤子の死体もあった。人とはあそこまで残忍になれる者なのだな」
信長は俺の横に来て呟く。
「まだ私達は頑張らないといけないのだと思える旅ね・・・」
俺は呟く。
「そうだな。織田の領地ではこのような事は許さんが、漏れた国はどうにもならん。我らの力はまだ弱いと感じてしまうな」
信長は悲しく呟く。
「私達の命では時間が少なすぎるわ」
俺は下唇を噛み締める。
「だから、次世代に賭けるのではないか。あの梵天丸のような子を増やさねばな」
そう言って鄭英と遊ぶ梵天丸を見つめる信長。
「そうね、繋げましょう。思いを・・・」
俺も信長と共に梵天丸達を見つめていた。
ロバート・セシルは一足先にイングランドに到着していた。
セシルは急ぎ、王宮に向かい、王の間にいた女王エリザベス一世の前に跪く。
「セシル、ジパングとの交渉は上手くいきましたか?」
女王はセシルに向かって話す。
「申し訳御座いません。私では役者不足でした」
セシルは頭を下げて答える。
「そうですか、貴方で駄目だというのなら仕方ありませんね・・・」
女王は落胆した顔をした。
「だから言ったのです。最果ての東の国に高貴な西洋の考えなど分からぬと!それにセシル如きがその様な大役をまっとう出来る筈がないからな」
女王の傍に立っていた男がセシルを詰る。
「お言葉ですが、エセックス伯が付け足した条件がネックとなり交渉が決裂致しました。何故か分かりませぬが、ジパングの王女が我らの言葉を知っておりました」
セシルがそう話すとエセックス伯は、ばつが悪そうな顔をする。
「それは真ですか?我らの言葉が分かるというのは」
女王が身を乗り出して話す。
「はい、真です。それにエセックス伯の名前も知っておられましたぞ」
セシルはエセックス伯を見ながら話す。
「なっ!」
エセックス伯は驚く。
「あと、イングランドがスペインやカトリック系の国々に、追いやられている事も知っておられました」
セシルは淡々と話す。
「「!・・・」」
二人は驚愕し、言葉を失う。
「その王女がこちらに来るとの事です。陛下にお会いしたいとの事」
セシルは女王を強く見つめる。
「蛮族の船がこのイングランドまで来るというのか!戯言を!」
エセックス伯がセシルを詰る。
「エセックス伯、ジパングの戦力を侮れば、大変な事になります。あの装備は、西洋の物よりも優秀で勝てませぬ」
セシルはエセックス伯を強く睨みながら話す。
「その様な事はなかろう!お主嘘をついているな!」
エセックス伯は叫ぶ。
「嘘などついても何の利益もありません。風説は真です、いや風説以上の物だとの認識で望まなければ、大変な事になります」
セシルは強く話す。
「くっ・・・」
エセックス伯は沈黙する。
「けして、ジパングを怒らせてはなりません」
セシルは強く念を押す。
「それが真であれば、私も会って見たいですね。その女性に・・・」
その話を静かに聞いていた女王は、セシルに呟く。
「ジパングの王女も未婚を貫いているようで、きっと陛下とお話が合いましょう」
セシルは女王に優しく微笑んだ。




