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お市の天下漫遊記  作者: 女々しい男
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久爺の激怒

安土の城下町、その外れにある遊郭に一人の男がドンチャン騒ぎをしていた。

「ふはぁはぁ!天下平定して俺の仕事も終わったぁ~!」

男はだらけきった顔をして、一気に酒を呷る。

「あらぁ~お仕事終わっちゃったの?寂しいんじゃないのぉ?」

男に寄り添うように項垂れて話す花魁。

「はぁ~?何言ってんだ?俺はな・・・俺は・・・」

男は下を向き、泣き出した。

「あらあらっ、よっぽど辛い目に遭ってたのね・・・」

花魁は男を抱き寄せると頭を撫でた。

「うっ、おめぇやさしいなぁ・・・」

男は顔を上げて、花魁だった者を見つめると息を呑んだ。

「おめぇ、なんで・・・鳶!」

男は花魁が姿を変えて鳶になっている事に驚きを隠せない。

「ふふふっ、主が呼んでいる」

鳶は男に宣告する。

「はぁ~!何でだよぉ!もう俺の仕事は終わったろうがぁ!川並衆も織田の諜報に組み込まれたから、俺はもうお払い箱だろうがぁ!っていうか!自由にしろぉ~!」

男は叫ぶように鳶に話す。

「それは、我に言わず・・・直接言え」

鳶は男を突き放すように話す。

「言えるわけねぇ~だろぉ!俺死んじゃうじゃねぇかぁ!俺がどんな目に遭ってたか!しらねぇ~とは言わせねぇ~ぞぉ!」

男は鳶に掴みかかりながら叫ぶ。

「何?あたしに文句あったの・・・」

幼い子供を抱いて部屋の中に入ってくる女と翁。

「なっ、なっ、なんでぇ・・・」

男は女を見て腰を抜かしていた。

「今から土佐行くから来なさい・・・」

女は男に向かって冷たく囁く。

「えっ、いやぁ、そぉのぉ、いきたぁ」

男は顔色を土色に変えて、震えながら拒絶の言葉を出そうとした時

「蜂?行くのよねぇ・・・」

蜂の言葉を遮る様に鋭い視線と共に女が呟く。

「お市様とご一緒したいです・・・シクシク」

蜂は泣きながら了承した。


一行が安土を出て数日後・・・。

「姫?姫は何所に行かれた?城下か?」

男は特別室に入ると呟いた。

「犬殿か、姫様なら土佐に行かれました」

女は犬にそう告げる。

「はぁ?この報告書や採決を求める書類はどうするのだ・・・」

犬は両手に抱えた書類を持て余していた。

「それは、姫様以外の者で行うしかないかと?」

女は犬に現実を突きつける。

「虎ぁ!おめぇも手伝えぇ!」

犬は虎に叫ぶ。

「無理だ、子供達の世話があるのでな」

虎は犬にそう告げると、子供達のいる場所に向かっていった。

「おい、どうするよ・・・」

犬は書類を持ったまま、立ち尽くしていた。

「犬?何してるんだぎゃ?後ろが詰まってるぎゃ!」

猿が犬に問いかけ、事情を聞いた猿も呆けた。

「犬殿?猿殿?如何された?」

新たに男が入ってくる。

「「半兵衛殿!姫が逃亡したぁ!」」


安土を出て、和泉から淡路に向かう船に乗り込む。

「何故?直接土佐に向かわねぇんだぁ?」

蜂は俺に聞いてくる。

「んっ?だってお忍びなんだもん。いきなり乗り込めないでしょ?それにむこうも警戒してるでしょうしね。織田の忍びが尻尾掴めてないんだもん、それなりには相手も知恵を回してるんでしょ」

俺がそう言った時、半蔵はくしゃみをしていた。

「まっ、わしもお隣じゃったから、常に動向は気にしてたからのう。掴んだだけの事、織田忍びを責めるのは不憫じゃろう」

弾正改め、久爺が庇う発言をした。

「久爺・・・丸くなったわね」

俺は驚いて久爺を直視する。

「家督も久通に譲って、もはや隠居の身なれば、丸くもなりましょう」

久爺は笑いながら俺に話す。

「あらっ、隠居したの?生涯現役だと思ってたわ」

俺は当てが外れたような顔をして話す。

「天下が定まっておらねば、隠居などしておらぬでしょうな。はっはっはっ」

久爺は大笑いしていた。

「俺なら、今すぐ隠居したいぜぇ・・・逃げたいぜぇ」

蜂は聞こえない位の声で呟くが・・・。

「あらっこの辺にはフカがいるのね、フカ釣りでもする?」

俺は海面を眺めながら呟く。

「・・・餌は?」

蜂が恐る恐る質問する。

「んっ?決まってるじゃん・・・あんたよ」

俺は微笑みながら蜂を見る。

「許してくださいぃ、何でもしますぅ、付いて来ますぅ」

蜂は泣きながら許しを請う。

「鳶・・・」

「御意」

蜂は散々逃げ回ったが、鳶からは逃げられず、走る船から吊り下げられて海を渡ることになる。


それから一行は無事に淡路に着き、宿を取ることにした。

「何故?民間の宿場なんだぁ?」

蜂はまた疑問を口に出す。

「折角だから、民の生活みたいじゃない?久爺は気が気じゃないみたいだけど・・・ふふふっ」

俺は久爺を見ながら話す。

「姫も相変わらずですな。しかしこのような趣向、わしは好きですぞぉ」

そう言って二人は笑いあった。

そんな時、宿の女将が青ざめた顔をして部屋に入ってきた。

「お客様、誠に申し訳ありませんが、松永様の宿検めで御座います」

女将がそう告げると帯刀した偉そうな男が部屋に入ってきた。

「松永家家臣土岐頼次じゃ、宿検めだ!通行書を出せ!」

頼次が高圧的に話しかける。

「おう、これでいいかぁ?」

蜂が織田家の発行した書を出す。

「偽物じゃのう・・・」

頼次が書を手に取るといきなり破りだした。

「なっ!なにするんじゃ!」

蜂は驚いて、男に掴みかかる。

「公務を妨害するのかぁ?捕まえろ!」

頼次の後ろに待機していた役人が蜂を捕らえようとする。

「蜂、手向かうのはやめなさい」

俺は歯向かおうとする蜂を止める。

「ひっ、いやお嬢!クッわぁ~ったよ」

蜂は俺を見た後に、何かを察したのか。役人に取り押さえられる。

「これはどういう事で御座いますか?お役人様」

俺は低姿勢で頼次に話を切り出した。

「先刻、密告があった!怪しき者が領内に入ったとの通報を受けたのだ!通報は真であったな!」

頼次はにやついた顔をして俺を見る。

「はて?私達は土佐に品物を買い付けに行く道中、通報を受けるような怪しい者では御座いません」

俺は頼次に話しかける。

「怪しいか怪しくないかは、俺が決める!民の言い分など聞く耳持たぬわ!じゃがのう、話によっては見逃してもよいぞ・・・」

そう言って俺を舐める様に見る頼次。

「話とは?」

俺はわざと分からない振りをする。

「これだから、民は馬鹿なのだ。一人10貫で見逃してやっても良い、ただしお前は1日俺に付き合ってもらうがな・・・ふふふっ」

男はだらしなく下げた目で俺を見る。

「いやだと言ったら?」

俺は冷めた声で頼次に話す。

「使用人は牢にぶち込んでやる。お前は俺に可愛がられる事になるのは変わらぬがな。その後は闇商人に赤子と一緒に売りつけてやる」

どっちがいい?とでもいいたげな顔をして俺に決断を迫る。

「もうよいかな?姫様、わしは頭が痛くなってきたわ・・・」

久爺は顔を上げて話し出す。

「う~ん、もうちょっと遊びたかったけど・・・しかたないわね」

俺が了承すると久爺は頼次を睨みながら話し出す。

「この事、久通は知っておるのか?」

久爺は頼次に話しかける。

「何!爺!我が殿を呼び捨てにするとは!その首切ってくれる!」

頼次は顔を真っ赤にしながら刀を抜いて、久爺を見つめると首を傾げる。

「どっかで見たような顔じゃ・・・まっまさか!先代様!」

頼次は赤かった顔が青色に瞬時に変わる。

「松永の名を良くぞ、落としてくれたな・・・」

久爺は静かに呟くように話す。

「おっおゆるしぉ!」

頼次は土下座をして頭を畳に擦り付けながら謝罪する。

「お主ら、頼次に縄を打て!すぐに高山友照を呼べ!今すぐじゃ!早く致せ!」

久爺は激怒して叫んだ。

「ああっ、直ちに!」

役人は急いで宿を出た。

二刻ほどで高山友照は宿に到着した。

「全て私の監督不行で御座います」

友照は部屋に入るとすぐに土下座をして話し出す。

「なめておるのか・・・」

久爺は冷めた声で話す。

「めっ滅相も御座いませぬ」

友照は震えながら話し出す。

「お主、わしが誰と共にいるのか分かって言っておるのか!お市様とおるのだぞぉ!」

そんなに興奮したら逝っちゃうよ?っていうぐらいに激怒する。

「あのぉ、俺まだ縛られたまんまなんですが・・・」

蜂が辛そうに話し出すが誰も相手にしない。

「なっ!おっお市様!」

友照は一瞬顔を上げ、俺を見て目をこれでもかと見開いた。

「よりにもよってこのような事を知られるとは、貴様!松永を潰すつもりか!お前では埒が明かぬ!久通を呼べぇ!姫とわしは洲本の城に移る」

その後、俺達は洲本城に移り、久通が来るのを待っていた。

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