表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
お市の天下漫遊記  作者: 女々しい男
29/36

それぞれの災難

丁度、俺専用の乗船として製作された、最新鋭の黒鉄甲船「日の本」に乗船して外海に出た処で異変を感じる。

「何で・・・いるの?」

俺の隣に済まし顔で、船風を受ける男に話しかける。

「んっ?」

男はどうしてそんな質問をするのか、分からないといった顔を俺にする。

「いや、兄様まで来ちゃったら、誰が織田の舵取りするのよ!」

俺は信長に叫ぶ。

「んっ?信忠?」

信長は自信なさげに呟く。

「・・・逃げたのか」

俺は信長を睨む。

「いやそうではない。家督は信忠に譲って、我はもう隠居してるし、人生五十年じゃから、もう好きなように生きた方がいいかなと・・・」

信長は尻窄みになる言葉で俺に話す。

「帰れ・・・」

俺は呟く。

「いやもう、外海だし、他の船無いし・・・」

信長が体を震わせながら喋る。

「泳げ・・・」

俺は右手を上げる。

「「「姫、お呼びで」」」

鳶、百地、藤林が俺の前に現れる。

「まっ待て!我ももう歳だ・・・最後に一度くらい異国を見て見たい。それに天下を治めたら、共に行こうと誘ったのは、お主ではないか!」

信長は俺に約束を守れとばかりに叫ぶ。

「くっ・・・」

俺は右手を下げると三人は消える。

「ふふふっ・・・」

信長は勝ち誇った顔をする。

「この航海、危険が付きまといますよ。無事に着ける保障など無いのですから・・・」

俺は額に皺を寄せて、信長を見る。

「良い、市と共に死ねるのならば本望じゃ」

そう言って俺に微笑む信長。

「どうなっても知りませんからね!」

俺は少し嬉しくて、顔を背けた。


信長が市と共にイングランドに向かう船に乗っていた頃、安土では・・・

「上様が居ないだと!」

菊が蘭丸から報告を受けて、うろたえていた。

「これが置いてありました・・・」

蘭丸が差し出す文には(信忠宛)と書かれてあった。

この時、菊は悟る。逃げたと・・・

菊は重くなる体を必死で動かして、信忠の元に向かった。

「あん、奇妙様・・・まだ外はあかるう御座います」

女の声が信忠の部屋から聞こえていた。

「良いではないか。松・・・」

男の声が同じ部屋から聞こえていた。

菊は気まずいながらも部屋の外から声をかける。

「若、上様からの文が来ております。入ってもよろしいか・・・」

菊が部屋に向かって声をかけると部屋の中からばたばたと騒ぐ音がする。

「まっ待て、秀政!まだ、開けるな!開けるなよ!」

信忠の慌てた声で叫ぶ。

「奇妙様!私の下着がありませぬ!」

松の声が部屋の外に漏れる。

「ばっ!そのような大きな声を出すでない!もう良い取り合えず、羽織って折れば良い。隠せ隠せ!」

それから音がしなくなると菊は声をかける

「・・・宜しいですか?」

「おう、入れ」

何事も無かったかのように振舞おうとする信忠。

「こちらを・・・」

菊も色んな所が気にはなったが、これから受けるであろう不幸を考えて、素知らぬ振りをして文を渡す。

「何故?文なのじゃ、口頭で言えば良いもの・・・なっ!」

信忠は文を下に落とす。

「若、ご指示を・・・」

菊は信忠に話しかける。

「無理じゃ、無理じゃ・・・」

体を震わせて、手で顔を覆う信忠。

「氏郷殿を連れて来ましょう・・・」

そう言って菊は部屋を出ると氏郷の元へ向かった。

「良いではないですか。鶴様・・・」

女の声が氏郷の部屋から聞こえる。

「まだ明るいではないか。冬、夜まで待て」

男の声が氏郷の部屋から聞こえる。

菊は頭を抑えながら、声をかける。

「堀で御座います。氏郷殿入っても宜しいか?」

菊は部屋の外から話しかける。

「あっはい、どうぞお入りください」

氏郷が了承する言葉を出す。

「まっ待ちなさい!菊っ!駄目よ!まだ開けちゃ駄目、駄目ぇ」

ばたばたと音を立てながら叫ぶ冬。

すると一人の男が部屋から出てきた。

「堀様がいらっしゃるなど・・・何かありましたな」

氏郷が菊に話しかける。

「上様がお市様と共に異国に行かれたようです」

菊は氏郷を見て話す、その後ろで一生懸命、着物を着ようとする全裸の女性の後ろ姿が目に入る。

視線を感じたのか、女は少し体を回し、首を極限まで回して後ろを見る。

視線が重なる冬と菊。

「きゃー、鶴様閉めて!襖閉めてぇ!私の体は鶴様にしか見せれないのに・・・シクシク」

冬は絶叫する。

静かに後ろ手で、襖を閉めた氏郷が小さく呟く。

「これで少しはおとなしくなろう・・・」

その言葉を聞いて、流石お市様の育てたお子だと感心する。

「行きましょう。奇妙様の元に・・・」

こうして嫌がる信忠を連れ出して、織田の業務をさせる氏郷。

氏郷の姿を見て織田の未来は明るいと感じる菊であった。


またもや置いてけぼりを食らった者達は、特別室で愚痴を溢していた。

「昔は犬行くよって言ってな。何処でも連れ回されたのに・・・」

犬が愚痴を溢す。

「そうだぎゃ、猿!何々調べてきてと良く言われたもんだぎゃ」

猿も愚痴を溢す。

「子供達の面倒お願いとか、女の子の用事とか、頼まれていました」

虎が愚痴を溢す。

「今じゃ・・・この山のような書類を処理する毎日」

犬は積み上げられた書類の山を見上げる。

「鴉や鳶が羨ましいがや!新参者の慶次もうまく逃げよって腹立たしいがや」

猿が真っ赤な顔をして怒鳴る。

「雉麻呂殿と半蔵殿は共に大陸に、お使いに行ってますしね。この書類は我らで、やらないといけないのでしょうね・・・」

三人は書類を見ながら、深いため息をついていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ