異国からの親書
この頃の織田の領土は北は樺太、西はスマトラ島、南は新大陸(今で言うオーストラリア)を発見し移植を進めていた。
原住民との摩擦や小規模の乱を治めながら、織田は確実に根を張る事を重視し、これ以上版図を増やすことを由とせず、他国に侵攻する事を停止していた。
日の本の国内では遠方の領地からの輸入、輸出で大いに潤い、海軍力の強化と銃火器の改良、海図製作、領土地図作成、教育の強化、様々な学問の向上を主にして政策を推し進めていた。
東の果てに在った小さな島国、日の本はその海軍力と火器の優位性で広大な領地を治める事になり、西洋の植民地であった島国を解放、領土化した事でスペイン、ポルトガルの植民地は減少して、急速に衰退を始めていた。
次第に西洋異国からは黄金の国ジパングは存在した事を真意に感じ始め、恐怖を持ち始めていた。
一時、十字軍を派遣したカトリック系の国々は皆、ジパングをオスマン帝国並に警戒するようになる。
「だから言ったのだ。あの東洋の端にある国は、野蛮で傲慢で貪欲だから、危険だと。あの程度の派遣ではなく、威信をかけた遠征を行い、根絶やしにしておればよかった物を、このようになってから騒いだところでどうにもならん。逆に警戒を強めさせてしまったわ・・・」
日の本からローマに戻っていた宣教師フランシスコ・カブラルは、小さく呟いていた。
そんな時に異国より親書を携えた使者が安土に訪れる。
俺は信長に呼ばれ、共に謁見する事になる。
「ジパングノオウ ノブナガサマニ オアイデキテ コウエイデス」
親書を携えた使者が親しみを込めて挨拶する。
「うむ、して何処から来た?」
信長は身を乗り出して、話し出す。
「イングランドという、西洋の西の果てにある島国です」
横にいた通訳の者が代わりに話す。
「ほう、イングランドとな・・・」
信長は興味を持って答える。
信長は西洋人大好きだからな、でもイングランドってイギリスの事か?
今のイギリスは・・・エリザベス一世か。
なるほどな・・・読めた。
「これが親書で御座います」
通訳が話し、使者が長箱を前に差し出す。
「蘭、持って来い」
信長は傍に控えていた小姓の蘭丸に箱を持ってくるように促す。
「はっ」
蘭丸はいそいそと箱を取って信長の前に差し出す。
その箱を受け取ると、箱を開けて、親書を取り出して、中を見る。
信長はその親書を眺めたまま固まる。
「読めぬのでしょう・・・」
俺が冷たい声で信長に呟く。
「くっ・・・今日は調子が悪いだけじゃ!お主も読めぬであろうが!」
信長はそう言って、俺に親書を渡す。
俺は手渡された親書に目を通すと、全ては分からないが、部分は読める英語であった。
「日の本と貿易がしたいという事でよいのかしら?条件は少し貴方達に有利な条件だけど・・・」
俺がそう話すと使者は驚きを隠さない。
「貴方、日の本の言葉が分かるようね。あたしもイングリッシュなら少しわかるのよ」
俺はそう言って殺気を込めた視線を使者に放つ。
「恐れ入りました。もう良い、お主は下がれ・・・」
そう言って通訳を後ろに下げる男。
「名前を聞いても良いかしら?」
俺は男に話しかける。
「ロバート・セシルと言います」
ロバートが俺の目を見て話す。
「あんた、女王の側近みたいね」
俺は視線を外さずに答える。
「そこまで見抜かれますか。西洋にて流れる噂・・・あながち風説だと馬鹿には出来ないですね」
ロバートは、首を左右に小さく振りながら、俺に話しかける。
「あなたもこんな異国の言葉をそこまでマスターしてるとはね。恐れ入るわ」
俺は微笑みながらロバートに話しかける。
「それで、この条約受けて頂けますか・・・」
ロバートは真剣な眼差しで俺を見る。
「そうね、友好を結ぶのは構わないけど、ちゃんと話をしないとね。揚げ足とられちゃうからね。あんた達抜け目無いし・・・」
殺気を込めて話す。
「これはまた手厳しい・・・」
顔は笑っているが、目は笑っていない。
「それにスペインのフェリペ2世と仲悪そうだからね。戦するなら中々辛いんじゃないの?スペインの無敵艦隊と西洋の国々はカトリック系の力が強いから・・・」
俺は冷めたように話す。
「なっ・・・そこまで分かっておられるのか」
ロバートは目を剥いて、驚きを隠さない。
「それに今思い出したわ。貴方、第二代エセックス伯のロバート・デヴァルーとも仲悪いでしょ?」
俺が話すとロバートは体を震わせ沈黙する。
「あらっ?喋らないと意思の疎通は出来ないわ。貴方では役者不足のようね」
俺がそう言い放つと、ロバートは頭を下に下げて、項垂れる。
「兄様、ちょっと女王に会ってくるわ」
俺は散歩に行くかのように信長に話しかける。
「なっ!」
信長は目を剥いて驚く。
「だって、会って話さなきゃ。纏まる物も纏まらないわ。時間は有効によ」
俺は微笑みながら信長に話しかける。
「また、犬達が困るな・・・」
信長はそう呟く。
「兄様がちゃんと業務をすればいいのよ・・・次は無いからね」
俺が冷たく呟くと、信長は顔色を土色に変えて、無言で頭を上下に動かしていた。
「ロバート、あたしが会いに行くわ。貴方の主に・・・」
俺はそう言ってロバートを見るとロバートは頭を上げて無言で頷いていた。




