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お市の天下漫遊記  作者: 女々しい男
27/36

信長の怠慢

安土に戻ると俺は二人の男に出迎えられる。

「叔母上、お久しぶりで御座います」

男は深く頭を下げて俺に挨拶をする。

「あらっ?奇妙かしら、大きくなりましたね」

俺はそう言って奇妙に近付く。

「もう、元服も済ませ、信忠と名乗っております」

信忠は笑顔で俺に話しかける。

「そう、立派になってるのかしら?中身は・・・」

俺が首を傾げながら話す。

「そんなに苛めないで下され。今は父上の下で織田の後継者となるべく励んでおりますれば、叔母上のご指導お願い致しまする」

深々と頭を下げる信忠。

「お市様、信忠様は幼き頃と随分変わりましたぞ」

信忠の後ろで控えていた男が俺に声をかける。

「鶴!大きくなりましたねぇ」

俺は鶴に駆け寄り、横に立って上を見上げる。

「いつの間にか、お市様を抜いておりましたな。背だけで御座いますが・・・」

鶴はそう言って、苦笑いを浮かべる。

「貴方も元服したのかしら?」

俺は鶴に問う。

「はい、氏郷と名乗っております」

氏郷は俺を見つめて答える。

「蒲生氏郷か、兄様から一文字貰わなかったの?」

俺は首を傾げながら話す。

「好きなように考えて名乗れと仰られて、お市様の市を頂いて名を考えようかと思ったのですが、まだ名乗るのは、おくがましいと思い、氏郷としました。お市様に認められるほどになりましたら、名を下さいませ」

氏郷は俺に微笑みながら話す。

「あらっあたしなんかの名で良ければ、いつでもあげるわよ」

俺は手をヒラヒラさせながら、話す。

「お市様の名は、恐れ多くて勝手には名乗れませぬ。あっ長々と申し訳ありません。中に入って、ごゆるりとなさいませ」

氏郷が大きな体を小さくさせて、手で中に入るように俺を促す。

「そんな大したもんじゃないのに・・・」

俺は呟きながら城の中に入り、特別室に向かった。

次々と訪問者が来て、俺はその応対に追われた。

「ちょっと、人来すぎじゃない・・・」

俺は疲れが最高潮になっていた。

「そうですね、あと長宗我部元親、信親親子、毛利隆元と元服して信元と名乗った幸鶴丸親子、尼子義久、北条の家督を継いだ北条氏政、直氏親子と三郎いや信氏、武田の家督を継いだ武田勝頼と信勝親子、上杉の家督を継いだ喜平次いや上杉景勝、与六は直江兼続と名乗っております。あとは・・・」

信忠が俺の横で次々と名前を出す。

「もういいわ。広間に集めましょう・・・終わるわけ無いじゃない!」

俺は立ち上がり、いそいそと逃げる準備を進める。

このままでは挨拶で忙殺される。広間で話してからすぐに逃げるしかない。

絶対、広間だけで終わるわけ無いだろ・・・

「梵天丸・・・逃げる用意しときなさい」

俺は少し屈んで梵天丸の耳元で小さく囁く。

「・・・・・・」

声を出さずに、首を上下に動かして了承する梵天丸。

広間に着くと、広間に入りきれていない人、人、人・・・死ねる

「入りきれてないじゃない・・・」

俺は肩を落として信忠を見る。

「叔母上の不在期間が長すぎて、報告する事項が山済みです。犬や猿はもう屍のような有様・・・」

信忠が目を逸らし話す。

「なにやってんの!兄様は!」

俺が叫ぶ。

「・・・茶の湯を嗜んでおられます」

氏郷が俯いて話す。

「あんた達、なにやってんの!十兵衛、半兵衛、官兵衛はなにやってんの!」

俺は叫ぶ。

「皆様、各分野にて忙殺されており、屍となっておられます・・・」

氏郷が泣きながら話す。

「叔母上が戻られて、織田は生き返りまする・・・」

信忠も泣きながら話す。

オワタ・・・逃げれねぇ。

俺は両手を床に付けて頭を下げると、梵天丸が俺の肩に手を置いて微笑む。

「かかさま、どんまい」

俺は悟る。流石、俺の子だと・・・

3回に分けて、広間で挨拶をした後、訪れる訪問者を制限して対処。

山済みというには不釣合いなの量(広間三部屋分)の書類を手当たり次第に処理する俺、雉麻呂、虎、鴉、慶次、信忠、松、氏郷、冬と挨拶の後、捕まえた景勝、兼続、蜂、三郎、幸鶴丸にも手伝わせる。

松の顔を見に来た武田親子も捕まり、武田家の業務が一時停止するという事態を、引き起こしても逃がさない。

全てが終わるまで返さない。その仕打ちに、上杉家の業務が一時停止するという事態を、引き起こしても逃がさない。

幸鶴丸を心配した隆元も捕まり、手伝わせると、毛利家も業務に支障をきたすが逃がさない。

戻らない三郎を気にして訪れた北条親子も捕まり、北条家も業務に支障をきたすが逃がさない。

来客に訪れた者は皆、無言で書類を渡され捕まった。

来客に訪れた者が戻らない特別室を皆、避けるようになり、特別室に通じる道を(黄泉路)と名付けられる様になっていた。

黄泉路と呼ばれていても、帰国する前に挨拶をする為に松永久通一行、尼子義久一行、長宗我部親子、鍋島直茂、島津義久、歳久は共に意を決して特別室に向かう。

久通は柳生親子が涙を流しながら、引き止めるが、逆にお供をさせられ餌食となり、松永の業務は停止する。

義久は鹿之助の嘆願も空しく、お供させられて、尼子の業務は停止する。

長宗我部、鍋島の業務も停止する。

島津は義弘と家久が国許に残っていた為、何とかなっていたが苦しい状況となっていた。


「しかし、良いので御座いますか?上様」

一人の男が茶を立てながら信長に話しかける。

「んっ?市のことか・・・」

信長がとぼけたように話す。

「お市様の報復を考えると、この利休・・・恐ろしゅう御座います」

利休は震える手で茶碗を信長の前に差し出す。

「うっ・・・思い出させるな」

信長の顔が青くなる。

「台湾、ルソン、大陸の事柄を処理してきて・・・この仕打ち」

利休は体を震わせて話す。

「やめよ、怖いではないか・・・」

信長の顔が一層青くなる。

「上様がお仕事をなさっていない事はすぐにばれましょうな・・・」

利休がこの場から逃げたい衝動に駆られる。

「利休、一蓮托生ぞっ!」

信長は救いを求めるような顔を利休に向ける。

「・・・出来ますれば、ご勘弁を」

そんな時、側近の一人が信長の元を訪れる。

「んっ菊か、如何致した?」

顔色を戻し、対応する信長。

「上様、菊にお暇を頂けませぬか・・・」

菊は顔を青くして体中を震わせて話す。

「なんじゃ?病か?ならば養生しておれ」

信長が優しく話す。

「病といいますか・・・特別室に向かわれた方々、全てお戻りになりませぬ」

菊は震える声で話す。

「なっ!まっまさか・・・」

信長は土色の顔をして慌てふためく。

「上様からの許可頂きましたので、これにて失礼させて・・・」

菊が言い終わる前に、信長が慌てたように叫ぶ。

「まっ待て!我はどうすればよいのじゃ!」

信長は落ち着く事が出来ずに慌てふためく。

「だから言ったのです。何度も業務をしてくだされと・・・では」

菊は脱兎のように逃げ出した。

その後、書類を全て終わらせて、解放された人々は俺に率いられて信長の元に赴き、縛りあげ簀巻きにすると安土の正門にぶら下げられたのであった。

信長の首には罪名(この者、職務怠慢にて三日間このままと致す、市)の札が付けられていたという。

また諫言しても言う事を聞かせていないとの罪状で千利休、菊も捕まり、信長の横で一日ぶら下げられていたという。

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