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お市の天下漫遊記  作者: 女々しい男
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後蜀

「弾正と熊が逝ったか・・・すまぬな濃」

報告を受けて安土の天守閣から空を眺めて呟く信長。

「いえ、兄は市の為に死ねた事、喜んでおりましょう。今頃は先に逝った父に褒められておりましょう。弾正殿もきっと後悔などありますまい」

泣きながら微笑む濃

後ろで控えていた十兵衛と半兵衛も頭を下に下げて声を殺して泣いていた。

そして犬と猿は特別室で向かい合い、無言で酒を酌み交わしていた。

「我らが一番長く共にしておったな・・・」

犬が沈黙を破り話し出す。

「この場所でいつも座る場所は決まっておったぎゃ」

猿が見つめる先には、熊がいつも座る場所に杯が置かれてあった。

「良き最後と聞いております・・・」

そう言って酒を運んでくる虎

「真面目な男であったな」

「言う事が親父臭かったがや」

「誰よりも子供が好きで御座いましたな」

「やさしかったな」

「うむ、やさしかったがや」

「おやさしかったです」

三人は泣きながら、熊が座っていた席を見つめて、杯を一気に呷る。

半蔵は一人、夜の安土城の天辺で二人を思い呟く。

「見事・・・」

その目には一粒の涙が流れていた。

久通は柳生親子から、久秀の最後を聞く

「流石、父上・・・死ぬ時まで花がある数奇者よ」

そう発すると静かに奥に隠れる。


俺達は明の船団を壊滅させると、澎湖島に戻って休息を取っていた。

そんな俺の元に鳶が現れる。

「明の有る方角から、船団がこちらに向かってきます」

膝の上に梵天丸を乗せて、九十九髪茄子を手に取り見つめながら、話を聞いていた俺に伝える。

「それは、お早いお帰りで・・・懲りてないわね」

俺は茶器から目を離さずに、冷めた声で呟く。

「それが、明の旗を立てておりません。白旗が代わりに立っております」

鳶が首を傾げながら、俺に告げる。

「そう、明にも心ある者はいるのかもね。出迎えましょうか・・・あたしの船だけでいいわ。出航の準備を急がせなさい」

俺は茶器を梵天丸に渡すと、梵天丸を抱えあげて下に降ろすと、立ち上がって港に向かう。

俺の後ろを梵天丸が付いていく。

「御意」

鳶はその後姿を見ながら消える。

港に着くと雉麻呂と李旦が俺を出迎える。

「姫様、油断めされるな」

李旦は俺に忠告する。

「そうね。裏切りは明の常套手段ですものね」

俺はそう呟く。

「しかし、今回は真の投降の様に感じるでおじゃる。余りに早いでおじゃる、それに・・・明の皇帝が福建沿岸に来てるとの報告もあるでおじゃる」

雉麻呂が笏を振り振りして話す。

「多分、途中で兵を引いた将の誰かでしょうね。皇帝に追われたってとこかしら?」

俺が雉麻呂に問う。

「十中八九そうでおじゃろう。どうするでおじゃるか?前に言っていた策を実行に移すでおじゃるか?」

雉麻呂が俺を見て、嫌らしい顔をする。

「雉麻呂のその顔は一番、嫌って言うほど似合うわ」

俺はそう言って苦笑いをする。

「姫を虚仮にされて、弾正と熊を殺れて、麻呂は腹が煮え繰り返っておじゃる・・・」

雉麻呂は歯を食いしばって、体を震わせる。

「その怒り、もうすぐ発散させてあげるわ。大陸なんて要らないのに、これ以上、織田にちょっかいかけさせれない様にしてやるわ」

俺は嫌らしい顔を浮かべる。

「姫のその顔は一番怖いでおじゃる・・・」

顔色を青くして震える雉麻呂。

「雉麻呂はいつでも船を出せるようにしててね・・・大丈夫とは思うけど」

そう呟いて船に乗り込んだ。

俺は慶次と李旦を連れて、沖合いに出ると白旗を掲げた船と接触する。

すると白旗の船から一人の男が、俺の船に乗り込んできた。

「俺は元明国将軍劉綎、引き連れた全ての船団、織田に投降したい」

いきなり土下座をして頭を下げる劉綎。

「理由を聞いてもいいかしら?」

俺はそう告げると劉綎は今に至った経緯を話し出した。

「そう言うことね。貴方、民をどう思う?」

俺は劉綎に尋ねる。

「俺は、馬鹿だから上手く言えねぇが、一番大切にしなくてはならない者だと思ってる。父上や戚継光様も民を大事にされた。その志は俺にもある」

劉綎は頭を上げて、俺を強く見つめる。

「気に入ったわ。あんた王になりなさい、織田が支援するわ」

俺はしゃがんで劉綎と視線を合わせる。

「へぇ・・・」

劉綎は間抜けな声を出す。

「織田は大陸なんて要らないのよ。統治もしたくない。でもね・・・虐げられた民は解放したいの。だから織田の準統治にしたいのよ。織田の政策は守ってもらうけどね。それ以外は自由よ」

俺がそう言って微笑む。

「なっ!」

劉綎は驚いて口が広がったままになる。

「大陸は大陸の民が治めなさい。それが一番弊害が無いわ。織田は織田の政策を守る限り、味方よ。約束は守るわ」

俺が微笑むと劉綎も微笑んだ。

「明も織田に目ばかり向けてたら、後ろから痛い目に合うわよ。きっとね・・・」

そう言って浮かべた笑顔を見て、震える劉綎。

「じゃ、明の沿岸全て潰して、解放しましょうか・・・」

俺はまるで散歩に行くかのように話す。

「明はこんな恐ろしい方を敵に回したのか・・・」

劉綎は心から震える恐怖を感じたのであった。

お市は織田の船団を率いて明の沿岸を次々と落とす。

その速さと火力と装備に明は太刀打ち出来ず、明は南京に兵を集めて対抗すべく決戦を挑むが、日の本からの援軍も加わり、一月も持たずに陥落した。

万暦帝は北京に逃げ帰る事になり、劉綎は三国時代の劉備の子孫を名乗り、南京で後蜀建国を宣言する。

その版図は明が統治していた殆どの沿岸を押さえていた。

これにより台湾、ルソンは明からの脅威を受けない領土となると、後蜀に対して経済支援や軍事支援を惜しみなく行う。

また蜀が難民や亡命者などで人口増加が起こり、対応に困ると開拓者として織田の領土となっていた南方の島国に移民させて、開墾や開発をさせる。

こうして大陸の人々と海の民が深く交わっていく事になる。

それらを数年間、見届けると俺は梵天丸を連れて、日の本に戻った。


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