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お市の天下漫遊記  作者: 女々しい男
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明三将の覚悟

「見事じゃ、弾正の考えた通りに全てが進んだでおじゃるか。お主達の最後、見届けたかったでおじゃる・・・」

雉麻呂は閃光が光った場所を、泣きながら見つめて、静かに呟いた。

「お市様は良き方々に囲まれて、愛されておりますな」

李旦は雉麻呂と同じ場所を見つめて呟く。

「麻呂と熊は姫が小さな頃から、共に姫の傍で長い間、見守ってきたでおじゃる。それに弾正は良き麻呂の話相手でおじゃった。同じ時に同じ志を持ち、心が通じあった友を二人も同時に失うとは・・・辛いでおじゃるな」

雉麻呂はそう呟くと空を見上げた。

「・・・・・・」

李旦は肩を落として、空を見上げる雉麻呂の姿を見て、言葉を失う。

「姫が待ってるでおじゃる。残った明の船を追い払うでおじゃる!」

雉麻呂はすぐ前に顔を向き直して、力強く叫ぶ。

「御意」

その後、お市の船と合流すると統率を失った明の船を拿捕したり、殲滅した。

「かかさま、ごめんなさい・・・僕が、僕が勝手な事したから、我侭したから、爺や熊が・・・」

梵天丸は俺の前に来て、座り込んで泣きながら話す。

「立ちなさい、梵天丸・・・」

俺は冷めた声で呟く。

「ううっ・・・」

梵天丸は立とうとするが腰が抜けたように立ち上がれない。

俺は梵天丸の腕を掴み、立ち上げると梵天丸の頬に強く平手で叩く。

「「「なっ!」」」


慶次、柳生親子がその光景を見て、驚く。

「確りなさい!貴方のそんな姿を見たくて、弾正や熊が貴方の為に犠牲になったと思ってるの!先の未来を貴方に託して犠牲になった。弾正や熊が悲しむわ・・・」

俺はしゃがんで視線を梵天丸に合わせる。

「かかさま・・・」

梵天丸は俺を見つめる。

「常に弾正も熊も貴方の傍に居るわ。弾正のように思慮深く、知識を持ち、民を愛しなさい。熊のように弱き者、守りたい者を守れる強い男になりなさい。それが貴方が弾正や熊に託された物だと心得なさい」

俺は梵天丸に強く伝える。

「はい、かかさま・・・」

そう言って、涙を流す梵天丸。

「お帰り、私の愛しい子・・・無事で良かった」

俺は梵天丸を引き寄せ、泣きながら強く抱きしめる。

「心配かけて・・・ごめんなさい」

梵天丸は俺の胸でそう呟いて泣いていた。

その姿を見た者は俺から顔を背け、涙を流していた。


小少将と袂を分けて帰還した三人は、港で待ち受けている明の大軍勢の中心にある旗に目を奪われていた。

「あれは・・・」

「まさか・・・」

「殿下が来て居られるのか・・・」

三人の将軍は急ぎ船を港に寄せて、万暦帝が居るであろう場所に急いだ。

三人が皇帝の前に通されると皇帝は笑顔で三人に話しかける。

「早いな、織田の小娘の首と、鉄甲船とやらは何処じゃ?」

万暦帝は三人の前でそう言い放つ。

「「「・・・・・・」」」

三人は頭を下げたまま、沈黙する。

「んっ?何故、返答せぬ?小少将は何処じゃ?」

万暦帝はそう言って怪訝な顔をする。

「あのような行い、我らにはとても耐えられません」

戚継光は意を決して万暦帝に直訴する。

「織田に臆したのか!」

万暦帝は戚継光に叫びながら、手にした茶碗を投げつける。

「織田の行い、悪意ある者には到底思えませぬ。民を考えた善政は学ぶところが大いにあると愚考致します」

劉顕が戚継光を庇う様に万暦帝に話す。

「織田の将兵は真の戦人で御座いました。あのような者を束ねるあの女子、只者では御座いません」

劉綎が父に追従するように話す。

「何を言っておる!味方である小少将を置き去りにして逃げ帰ったのであろう!お主らは罷免する。刑は後日言い渡す!捕らえよ!」

万暦帝は立ち上がり、片手を挙げると近衛の兵が三人を取り囲む。

「なっ!殿下!これは・・・」

劉顕は素早く立ち上がると周りを見渡す。

「歯向かえば、斬り捨てよ・・・」

そう言って奥に消える万暦帝。

「劉綎、逃げよ。我らが道を切り開く、船団を纏めて織田に下れ・・・」

戚継光は刀を抜きながら、呟く。

「戚継光殿の気持ち、有難く受けよ」

劉顕が息子に呟きながら刀を抜く。

「戚継光様、父上・・・」

劉綎は二人を見つめて、意を決したように刀を抜くと頷いた。

「これで明は滅びの道を辿る事になろうぞぉ!」

劉綎は叫びながら、兵を斬り付けながら、外に向かう。

「民を考える織田に歯向かうは、亡国の兆しよ!」

戚継光は劉綎に追従しながら外に飛び出す。

「放て!」

「なっ・・・」

「させぬ!」

火縄を持った兵が一斉に劉綎に向かって撃つが戚継光が劉綎を覆う様に庇う。

戚継光は数発の銃弾を受けながら、火縄を持った兵の一部に斬りかかり、穴を開ける。

「戚継光殿が道を開けて下された!今じゃ行け!劉綎」

後から声をかける劉顕

「父上も急いでくだされ!」

劉綎は後ろを振り向き、父を見る。

「前を向け、駆け抜けよ!戚継光殿の行為、無にしてはならん!」

劉顕は戚継光を庇いながら刀を振り回し、叫ぶ。

「早く行け、そんなに持たせら・・・ごふっ」

戚継光が叫ぶと複数の槍に貫かれる。

「戚継光殿!おのれぇ・・・くっ」

劉顕は戚継光を刺した兵を撫で斬りにすると違う兵に足を刺される。

「・・・さらば!」

劉綎は二人が明の兵に囲まれていくのを見てからは、後ろを振り返らずに、駆け抜けると船に乗り込み、素早く命令を出して、船を出航させる。

「この仕打ち、必ず後悔させてやるわ!」

劉綎は万暦帝が居るであろう場所を睨みつけて叫んだ。

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