表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
お市の天下漫遊記  作者: 女々しい男
22/36

逆鱗

「梵天丸様、私には血が繋がっていない子供がおります。今日は連れて来ておりますので紹介しましょう。挨拶をしなさい」

そう言って李旦は、梵天丸と同じ位の歳をした一人の男の子を紹介する。

「・・・鄭栄といいます」

小さな声で呟くように名前を言う鄭栄

「僕は梵天丸、この顔が怖いのかい・・・」

こちらの様子を伺うように話す鄭栄に、そう言って悲しげな顔をする梵天丸。

「いえ、そうではありません。この子は、十字軍と倭寇に目の前で、親を殺されているのです。」

李旦は悲しげな顔をして、鄭栄の頭を撫でる。

「あっ、変な事言っちゃってごめんなさい。鄭栄・・・あそぼっ」

梵天丸は震えながら下を向いて謝り、鄭栄に恐る恐る右手を差し出す

「あっ・・・」

鄭栄は差し出された手をどうしたらいいのか、おろおろとする。

「梵天丸様が勇気を振り絞って、手を出された。お前も勇気を出す時だと思うぞ・・・」

李旦は微笑みながら、しゃがんで目線を鄭栄に合わせて話す。

「・・・うん!」

そう言ってぎこちない笑顔をして、梵天丸の手を握る鄭栄。

二人は仲良く庭に出て、遊び始める。

そんな二人を遠くで見ていた俺は、李旦に近寄り、話しかける

「あの子が貴方の恩人の子かしら・・・」

俺は二人の子供から目線を外さずに、李旦に話しかける。

「ええっ、あの子は私を助けてくれた人達の忘れ形見です。目の前で親を殺され、あの子も殺されそうになっていた所を私が助けました。もう少し、私が早く駆けつけていればと、未だに後悔しております・・・」

頭を下に向けて呟く李旦。

「それを言えば、あたしも罪があるわ。この台湾、ルソンを明に返還したのは私だから、略奪や虐殺されるだろうと分かっていたのに・・・守れなかった」

俺は手から血が出るほど、強く強く握り締める。

「お市様の選択と決断は間違っておりません。それに、最後まで民を逃がす事を優先されていた事、この李旦いや・・・台湾、ルソンの民は良く分かっております」

李旦は俺の手に布を巻きつけながら、話す。

「ごめ・ん・・な・・・」

俺は止める事が出来ないほど、泣き出して声が出なくなっていた。

「お市様は優しすぎますな・・・眩しいほどに」

そう言って二人の子供の元に向かう李旦

俺はその後姿を泣きながら見ていた。

それから半年後、台湾とルソンの復旧が思ったよりも早く終わった俺は李旦を呼び出した。

「お市様、お呼びと聞き、参上しました」

李旦はそう言って、俺の前に来て頭を下げる。

「貴方にやってもらいたい仕事があるの。お願いできるかしら?」

俺は李旦にそう告げる。

「お市様の頼みとあれば、なんなりとお申し付けを!」

李旦は俺を力強く見つめながら話す。

「ルソン周辺の孤立した島を織田領にしようと思うの。出来るかしら?」

俺は扇子で扇ぎながら話す。

「お任せください。あの辺りには顔が利きます」

李旦はそう言うと胸を叩く。

「それとね、少しずつでいいから南の方角にある島を探して欲しいの」

俺が李旦を見つめながら話すと、李旦は驚いたような顔をする。

「それは、南の方角に未開の地があると、申されるのか!」

驚いた顔を崩さずに俺に話しかける李旦。

「ええっあるわ・・・日の本の約20倍はある未開の大地がね」

俺は強い視線で話す。

「なっ!」

李旦は驚きの声をあげる。

「だから、明なんかに関わりたくはないのよ」

俺はそう言って扇子をヒラヒラさせる。

「なるほど・・・しかし何故?そんな事が分かるのですか?」

李旦は俺を不思議そうに見つめる。

「疑ってるの?」

俺は微笑みながら話しかける。

「いえ、お市様がその様な嘘を仰るとは思えません」

李旦が俺を真剣に見詰める。

「フフフッ、女の子は色んな秘密を持ってるのよ」

そう言って俺は李旦に微笑んだ。

そんな会話をしていた時に、熊が青い顔をして、急いで部屋に入ってくる。

「姫様!大変で御座います!梵天丸様と鄭栄が、何者かに攫われました。申し訳御座いません・・・」

熊は土下座をして俺に頭を下げて謝る。

「なっ!護衛はどうしたの!」

俺は怒鳴るように話しかける。

「それが・・・某は梵天丸様に嫌われておりまして、街中で二人に撒かれてしまい、面目次第も御座いませぬ」

熊は大きな体をこれでもかと、小さくして話す。

「姫、熊を許してやって欲しいのです。私も梵天丸には嫌われておるから分かるのだ・・・」

雉麻呂はおじゃる言葉を使わずに話す。

「姫様、此処は落ち着いてくだされ。今は梵天丸達の行方を追うのが先決じゃ」

久爺が割り込むように話し出す。

「諜報を総動員させる。だから姫さんは落ち着いてくれ」

鴉も追従するように話す。

「クッ・・・」

俺はこみ上げる怒りを抑えるのに必死であった。

そんな時に鳶が凶報を持ってくる。

「姫、明が兵を集め終えて、こちらに向かっているそうです」

鳶が報告する。

「なっ、それは明らかにおかしい!それほどの船は揃ってなかろう!無謀だ!織田の水軍をそんなに甘く見ている訳は無い・・・まさか!」

雉麻呂が叫ぶ。

「・・・明はどうしても、あたしと戦いたいようね」

俺は湧き上がる怒りを抑えられなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ